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オオカミ陛下の思し召し
カザックに短い秋がやってきた。秋分を過ぎた頃からがくんと気温が下がり、明かり窓からは早くも冬の気配を感じさせる風が吹き込んでいる。枢機院にある自身の執務室で決裁の仕事にあたっていたザハールは、机上の小筆を転がした木枯らしに舌打ちをした。
ザハールは秋が嫌いだ。それは何故かと人に聞かれれば「越冬の準備に忙しく、まるで休む暇がないからだ」と答える。それも理由の一つではあるが、本当の理由ではない。
夏 2015/08/20
「──お陰さんで、禁煙続いてるわ。あの日以来やし、咳のひとつも出るわな」
さわさわと草を揺らした熱風へ応えるように片山は呟き、深い呼吸と共に暮石へ手を合わせる。あれから八年目の夏──亡き相方・中本栄の七度目の周忌にして片山は、初めて墓参りを前倒した。理由は実に明快で、当日は東京で仕事を入れてしまったからだ。
表舞台に復帰してからこちら、作家業と芸人業との二足わらじで忙しくなる──と思ってい