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たった15分されど15分の鈴木さん(仮名)

これは、とある不動産仲介業者の鈴木さんと、初めて東京でひとり暮らしをする予定だったわたしとの物語である。

実は先月末、仕事で福岡から東京へ引っ越すことが決まった。

引っ越しまでの猶予は10日間。異動を聞いてすぐに東京へ向かい、わずか2日間で家を決めるという過酷なミッションだった。

家探しの1日目は、ご飯を食べる暇もなく家をぶっ続けで探す&内見し、ホテルに辿り着くころには20時を過ぎていた。
引っ越しシーズンでの焦りと、初めての東京の1人暮らしの不安と、家探しの疲れを背負ったまま、1日目を終えた。

そして、2日目にわたしは鈴木さん(仮名)と出会った。
家探しを担当してくれたスタッフから、内見は違うスタッフが案内すると言われた。時期と不動産仲介のお店の立地の関係で、案内スタッフの方はとても忙しいようで、どうやらヘルプが来るっぽい。それが鈴木さんだった。

次の不動産仲介業者との約束が迫っていたため、内見は15分でお願いすることになった。急いでお店を出て車に乗り込むと「あ、どうもォ~鈴木と申しますゥ」とした挨拶をされた。
それが鈴木さんだった。

風貌はマネージャーっぽいが、何となくにじみ出る下っ端臭。大きな目はぎょろっとしていて、海老蔵を6割ほどダメにした感じが、鈴木さんだった。

最初の挨拶や風貌から、「、、、」という感じだったが、この鈴木さんがとても濃い15分の思い出を作ってくれたのだった。今からその思い出を3つほど紹介していこう。

①観点が独特

この鈴木さんだが、いちいち独り言がおもしろい。ヘルプで来たため、ここら辺の土地勘もあまりわからない、と鈴木さんは初めからあたふたしていた。
そんな焦り鈴木さんとともに、1件目の内見に向かっていた。土地勘もなく、15分で2件内見のミッションを任された鈴木さんは更に焦っていた。その道中で道が更に細い2つの小道に分かれ、軽自動車がぎりぎり通れるような道に誘導された。

普通だったら、「これは~、、、細いですね~どうしよう、、」という独り言が模範解答だろう。

しかし、鈴木さんは一味違う。

曲がる時に道の細さではなく「あ~、、、お花屋さんン〜~」と、道沿いにあった地元のしょぼしょぼした花屋について独り言を言いながら左に曲がったのである。


「、、、そこ?!」となった。少しだけ、わたしはにやけてしまった。


2件目に向かう途中でも、鈴木さんの独り言は拍車がかかっていた。
細い道を抜けて、4つ角にぶつかった時のことである。歩行者が数名いる中で車も左から来ており、注意しなければならない状況だった。

私の中の独り言 of ベストアンサーは、「これは、気を付けないといけないですね。」だ。

しかし、鈴木さんは違う。

左に曲がる直前に「子供がっっっ!可愛いですけどっっ!」と言って、少し焦りながら4つ角を曲がった。


いや、確かに可愛いけども!!!!観点!!!!!ほんとに人間か?!?!


そして、鈴木さんは道を間違えた。子供に着目しとるからや。ナビ見ろ。

最後は、また違う4つ角を直進する時だった。4つ角に差し掛かった時点で、左から自転車に乗ったおじさんが来た。鈴木さんが道を譲ろうと車を止めておじさんに「先にどうぞ」と合図をした。しかし、おじさんは道を私たちに譲ってくれた。

私の考える独り言 of ベストアンサー:「先にどうぞ、、あ、譲ってくれましたね。ありがとうございます~(お辞儀)」


鈴木さん:「東洋風のおじさんが来てますね~。(半笑い)先にどうぞ、、あ、譲ってくれました!、、、東洋風のおじさん(半笑い)」


東洋って2回も言うやん。しかも、絶妙なタイミングで。感謝はしているが、少しおじさんのことをバカにしているだろう、鈴木さん。
ただ、マフラーが赤と黒の独特な模様で、少し色黒いおじさんだっただけだ。東洋を強調する意味。

文字でしか伝えられないことにより面白さがあまり伝わらないかもしれない。本当に、鈴木さんの独り言のタイミングと雰囲気を、みんなにも一緒に味わってほしかった、、、。

②下っ端感

初めて会った時からだが、鈴木さんは下っ端臭がすごかった。案の定、発言も下っ端だった。

1件目の内見で細い道に入った時のことだ。物件に駐車場がなく、路上駐車をするしかない状況に鈴木さんは陥った。「大丈夫かな~こういうのって住民から苦情言われたらまずいんですよォ~」と鈴木さんはけっこう焦っていた。

しかし、その3秒後に開き直り「まあ、今日はエリアマネージャーがいるんで、エリアマネージャーに苦情言ってくれたらいいんですけどね!」と下っ端台詞を吐き、上司のせいにしようとしていた。

おそらく、今日急にヘルプに駆り出されたことを若干根に持っているのだろう。切り替えの早さはピカイチだが、何となく、「私が何とかします!」というような漢らしさを見せてほしかった。マイナス5点。

あとは、すぐに息切れしていた。先に物件の部屋の鍵を開けに小走りで行ってくれた鈴木さんだが、戻ってきた時は喋るのもやっとなくらい息が切れていた。往復で2分くらいの距離だったが、とてもしんどそうだった。

その後、私が1人で小走りで部屋に向かおうとすると、鈴木さんはまだ息を切らしながら「走、、らなくて、いいですよ!(ゼエゼエ)」と声をかけてくれた。

うるせえ、こちとら運動好きでバドミントンも週2回はしてるんだよ!!おめえとはちげえんだ!!!と、心に余裕のなかったわたしは、Youtuberのひよごんの言い方で、心の中で鈴木さんに少し悪態をついてしまった。

③ツボがわからない

鈴木さんは結構おしゃべりで、一人で笑いながら色々な話をしてくれていた。自分で話しながら自分で笑うという、セルフお笑いスタイルだ。
わたしはこの場にいるのか??鈴木さんにとって必要な存在なのか??と思いながら穏やかに話を聞いていた。

しかし、Uターンが東京ではほぼ禁止という話をしている時に「東京では好き勝手できないんですね」と何気なく言ったら、なぜか「ハッハァ!!!」とめちゃめちゃ大声で笑ってくれた。

鈴木さんのツボがあまりわからなかったが、一方的に面白さを与えられただけでなく、鈴木さんにも爪痕を残せたのが個人的にホッとした。

そんなこんなで爆速内見は終わったのだが、鈴木さんは最後に次の予約をしていた不動産会社へこっそりと送り届けてくれた。

そんな鈴木さんの優しさも噛みしめながら、無事家を決めることができた。鈴木さんの働く不動産会社では契約はしなかったが、、、(鈴木さんごめん)

おそらく彼は、不安でいっぱいだった私を勇気づけるために神様が送ってくれた天使なのかもしれない(下っ端の)

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