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中と外。視点のギャップを埋めるために

私が取材執筆をさせていただいた才流さんの事例記事(リンクアンドモチベーション様)。本日公開されてあらためて読んでいたら、クライアントさんはこんなことをおっしゃっていました。(以下、記事内からの引用)

社内で当たり前に使われている言葉は、一般的には使われていない。どんなキーワードでコミュニケーションをとるべきなのか、四苦八苦していました。
これまでは「自社が思うわかりやすさ」で決めていたところから、「外から見たわかりやすさ」について、必ず途中で議論されるようになりました。

SNS画像-リンクアンドモチベーション事例1

(画像提供:才流)

才流の支援を受けるまでは、自社の思想がしっかりとあるからこそ、自分たち(中の人)が発信したい情報を優先してしまっていた。見込み顧客(外の人)が欲していることが見えず、どう訴求していいのかわからなかった。才流の支援によって、外から見たわかりやすさを意識するのが社内であたりまえになったということでした。

中から発信したいことと、外から求められている情報のギャップ。中からの見え方と、外からの見え方のギャップ。これって、さまざまなところにある課題だと思います。

私が以前リクルートのじゃらんという旅行情報誌で編集をしていたときのことを思いだしたので、今日はそのエピソードを通じて「外の視点と中の視点」について書いてみようと思います。

ご当地鍋コンテストに参加。どんな鍋をプロデュースするのがいいのか?

私は東北支社で『東北じゃらん』という雑誌の編集をしていました。あるとき営業の方から、秋田県田沢湖エリアを盛り上げたい&販促のために、「田沢湖鍋コンテストにじゃらんとして出場したい」とのご相談があったのです。

田沢湖鍋コンテストは、秋田県仙北市の田沢湖高原雪まつり内のイベントとで、地域の旅館の方などさまざまな方が出場し、新しい鍋を出店。投票でグランプリが決まる仕組みでした。グランプリになった鍋は、1年間ご当地鍋として、地域の旅館や飲食店などで提供されることになっているとのこと。(当時の話なので、現在の仕組みとは違うかもしれません)

私が企画を担当することになり、まずはリサーチ。飲食のトレンド、鍋のトレンド、読者アンケート、旅行調査などいろいろ調べました。が、実は私は、最初は観光客のことばかり考えていたんです。

来た人が食べたい鍋ってどんなものだろうと。もちろんそれは大事なことです。観光地のご当地鍋ですから、観光客や訪れた人のニーズに応えるものでなければ意味がありませんよね。

「データから見ると、観光客はやっぱり有名なご当地グルメの比内地鶏を食べたい。どんな風に出せば、新しさを感じてもらえるだろうか」

材料には観光客が足を運んだら絶対食べたい(結局これが食べたい)比内地鶏を使用、当時トレンドだった「白だし」を地元の醤油醸造所から調達し、レシピ開発は地元で人気のレストランが協力をしてくださいました。

中の人からも愛されるご当地鍋が必要だ

レシピ開発は進み、ネーミングをどうしようかと考えていたときのこと。リサーチで地元の方に電話をかけていたところ、田沢湖エリアの郷土料理に「あじゃら」という料理があると教えていただきました。材料にいろいろなものを混ぜているので、栄養価が高く、観光葬祭などで食べる。地元の方にはごちそう的な料理として親しまれてきたそうです。

「いろいろなものを混ぜて栄養価も高いって、鍋みたいだな」ふと、そんなことを思いました。地域で愛されてきた食べ物、みんなが集まるときに食べるもの。ご当地鍋は、まさに「あじゃら」のように、地域の方に愛され、みんなが集まってわいわい食べるからこそ、ご当地鍋なんじゃないか。

外から見た魅力ばかりを考えていましたが、地元の方との話の中から、中の人から見た「地域の伝統や人のつながり」という魅力。食への愛着などについて、いろいろと発見できたような気がしました。

私は、じゃらんがプロデュースする鍋に「田沢湖あじゃら鍋」という名前をつけることにしました。そして、鍋コンテスト当日。鍋をくばっているとき、地元のおじさんが話しかけてくれました。

「あじゃらね。そうか、あじゃらから名前をとったんだね」おじさんは、懐かしそうに笑っていました。

間違いじゃなかったと思いました。じゃらんの読者層ではない、じゃらんのことを知らない地元のおじさんにも、ネーミングに愛着を持ってもらえたようです。

そしてなんと、「田沢湖あじゃら鍋」はグランプリをいただきました。これはもちろん私だけの仕事ではなく、ご協力いただいた地元のレストランの方が美味しくしあげていただいたことが非常に大きいのです。あじゃら鍋の隠し味は甘酒と生姜。本当に美味しい鍋でした。

中の視点ばかりでもダメ、大事なのはバランス

「外と中の視点」というところで、もうひとつこんなことがありました。

鍋コンテストの前日。前泊させてもらった宿の方と話をしていたときのこと。「どんな鍋を作ったの?」と聞かれて、説明をするとこんなことを言われたんです。

「白だしなんて、もうけっこう前から飲食ではトレンドだよ。新しさという点では、ちょっとないかもしれないね」

業界の人はみんな知っている&使っているものになっているとのことでした。また、私のリサーチではトレンドに敏感な一般の方、料理好きの方も知っていて、使っている方もいました。ただ、多くの方は知っているけれど体験したことのない、家庭で使ったことはない状態だと判断していました。

業界の中から見ると、あたりまえのことでも、一般の方からすると「気になるもの」「魅力的なもの」。まさに中と外のギャップが、ここにあったように思います。

中にいるとそれが当たり前すぎて、気づかないことがたくさんあります。中の視点だけでは足りない。外からの見え方、感じ方をしっかりと意識し、バランスをとることが大事なんだと思いました。

外の視点が見えないときは、生の声を聞こう

鍋コンテストの事例では、私は外の人、地域の方は中の人でした。これはもちろん逆になることもあります。

編集者として読者が何を求めているのか、どんな訴求をしたら伝わるのか、外の人の気持ちがまったく見えずに、悩んだこともたくさんあります。頭の中で想像すれば、ざっくりとしたイメージはできるかもしれません。でも「これなら間違いない!」と言える企画は、想像だけではできないですよね。それでは、どうするのか。

私が「あじゃら」という言葉を地域の方との会話から知ったように、生の声には、多くのヒントが隠されています。中の人、外の人どちらの立場に立ったときにも、アプローチしたい相手の生の声をまずは聞いてみる。これをやるとやらないでは結果は変わってくるのではないでしょうか。

また、前提として目の前の出来事やプロジェクトにおいて、自分が中の人か、外の人か。どの視点で誰にメッセージを届けたいのか、立ち位置を明確にすることが大事だと思います。

最後に

私はBtoBマーケティングの才流の事例執筆SAIRU NOTEの編集をお手伝いさせていただいています。

その才流では、クライアントに戦略や施策の提案をする際、毎回ユーザーインタビューを行っているそうです。ユーザーとは、クライアントのユーザーです。

紹介した事例で、才流のクライアントさんは、見込み顧客のインタビューを行い、ユーザーの生の声を聞き、「中と外のギャップ」に気づいたのだと思います。その結果が、冒頭でご紹介した言葉につながっていきました。

クラウド化でさまざまなデータがとれるようになり、数字を見ればわかることもたくさんあります。でも、それだけじゃ見えないことはやっぱりあるんですよね。見込み顧客の心に引っかかる訴求を見つけるためにも、生の声を聞く必要があるのではないでしょうか。

直接人と会うこともなかなか難しいですが、才流さんではビザスクを利用してオンラインでユーザーインタビューを行っているそうです。サービスによっては、そこまでしなくても、Twitterで生の声を拾っていくだけでもなにか見えるものがあるかもしれません。

訴求に悩んでいる方、コンテンツの企画に悩んでいる方にぜひおすすめしたいです。


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