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傷つけたかったんじゃない。自分を守りたかっただけ。

みんな断ってるよ。やりたくないし。

彼女は私の目をじっと見つめて、いつものあの言い方でそう放った。

*

その朝早く、会社から電話があった。
フライトが数時間遅延している為、出勤時間をずらしてくれる人を探しているとのこと。

正直に言えば遅延便の担当なんてしたくないけれど、仕方がない。夜に予定があるわけでもないし、断る理由がなかった。

それに、遅出出勤の職員が集まらなかったら仕事が回らない。誰かがやらなければならない。


*


なぜ彼女はあんな冷たい言い方をしたのだろう。
断らなかった私は会社の言いなりになるいい子ぶりっ子ちゃんとでも言わんばかりに。

自分なりに考えてみた。
彼女が冷たく言い放った理由、その目的は何だったのか。

ただ単に、私が上からの評価を得ようとしているイエスマンに見えて面白くなかった、という理由もあるかもしれない。

でも、それよりもまず、人として正しいこと選択した(少なくとも私はそう思っている)人間をみて、彼女自身が罪悪感を抱いたのではないだろうか。

会社からの頼み事を断ったことで、彼女の中に残ることになった負の感情がそうさせたのではないか。


なぜなら、断らないことが正しいと彼女もわかっていたから。

そして、本当のところは、彼女もそうしたかったから。


人は、何かに迷った時、人として正しいことを選択したいと心の内では思っているはずだ。


遅出は嫌だけれども、本当は何が正しいのかが分かっているから、断ることをせずに従いたかった。
でもやっぱり嫌だという気持ちが勝ってしまった。
その思いが根底にあったのだろう。


私に冷たい言葉を放った目的は、自己への罪悪感を軽くし、正当化する為だったのだろう。
受け入れるなんてあんたはバカだよと私に言うことで。


そう思うと、彼女の態度や発言に気を揉む必要はないのだと思える。
彼女だって、本当は私を傷つけたかったわけではないのだろう。一種の自己防衛だったのだろう。


人を傷つけることと自分を守ることは、紙一重なのかもしれない。

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