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赤い悪魔と蜘蛛女 〜ハロウィンにまつわるエトセトラ④〜

2002年10月28日の日記。
米国ヴァージニア州の片隅にある日系企業の現地法人で、日本人駐在員である「ぼす」の元、秘書兼通訳兼「やっかいごと よろず引き受け業」的な何でも屋さんとしてお仕事をしていた頃のお話。
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HALLOWEEN まであと3日である。

先週の土曜日(26日)にフライングしてお友達の家でパーティをした。仮装は must requirement つまり必須とのことだったので悩んだ。ネタもないけど予算もないのである。

かと言って「皆、気合入ってるからね」と念押しされてしまえば手抜きはできない。本気でフザけて楽しむのが基本である。

とりあえず、手持ちの衣装2つとその他諸々のハロウィン関連グッズが入っている箱を物置から引っ張り出してきた。ひとつひとつ取り出してリビングの床に並べてみる。さて、どうしたものか。

真っ赤なドレスで DEVIL (悪魔)になるか
黒いドレスで BLACK WIDOW (蜘蛛女)になるべきか。

悪魔の衣装は学生時代に古着屋さんで買ったもの。サテン生地のロングドレスで、おそらく自家製。ハンドメイド。ただし、もう4回くらい使ってるし、いいかげん新鮮味に欠ける。

やっぱり蜘蛛の巣模様のレースが素敵な黒いドレスかなぁとも思うが、難点がひとつ。

こっちの衣装は過去に1度っきりしか着たことがないのだが、今回のパーティ客11名のうち4名にはネタがばれているのだ。一昨年のパーティで蜘蛛女になった時の招待客と今回のメンバーがかぶっているからである。

個人的には、4回も着て本人が飽きてしまっている悪魔の衣装よりも、まだ1回しか袖を通していない蜘蛛女の方が遥かに魅力的には違いない。しかも WIDOW (未亡人)」ってことで、お葬式の時にかぶるような黒いヴェール(なんと蜘蛛の小型模型つき)もあるし、黒のレースの手袋もあるし、蜘蛛の形をしたピアスもあるし、といった具合に小道具がかなり充実している。 

BLACK WIDOW とは、交尾の後オスをばりばり喰らってしまう女郎蜘蛛のこと。だんなを喰ってしまうので結果として未亡人 (WIDOW) になる訳だ

しかし。
いくら本格的でも、やっぱりネタを知られてしまっているのは少々面白味に欠ける。変化を付けるため、何年か前に YARD SALE (ヤードセール) で買った白髪頭の長髪の「ヅラ」を組み合わせてみたりもしたが、実に悩んだ。決め手がないのだ。

やはりここは赤でキメて悪魔になるべきか。

まだ今回のパーティに誘われる1ヶ月ほど前に、使う予定もないまま無性に欲しくなって衝動買いしてしまった赤毛の「ヅラ」を手に取り思案する。おあつらえ向きに悪魔の赤い角も2本生えてて結構いい感じなのだけど、それでも蜘蛛女のインパクトにはかなわない。何だかイマイチなのである。

結局どちらも決め手のないまま、間際の木曜日に駄目もとで MALL (デパート集合体。ショッピングモール) に出掛けた。近所のモールより規模の大きい、空港付近のモールである。

狙うは毎年 Spencer’s の出店で開設されているハロウィン御用達グッズ専門店。かなりの規模の特設会場にあらゆるモノが並んでいて眺めてるだけでもテンションが上がる感じ。

ところが今年は不景気のあおりを受けてか、お情け程度の出店がフードコート近辺に出されているだけだなんて。がっかりした。

それでも何だか諦め切れず、一応 Spencer’s の店を覗いてみると、予想外にもまずまずの品揃えであった。一昨年買いそびれた「DEATH'S BRIDE(死神の花嫁)」衣装に少し心惹かれてみたり。レゲエヘアの「ヅラ」をどうしても買いたくなってしまったり。あちこち目移りして、何だか本来の目的を見失いつつある中で、探していた「決め手」をついに発見。予算的には少しキツかったが、カードで買ってしまったもの。それは。

真っ赤な羽、である。


赤く染めたホンモノの鳥の羽を使って作られたその羽は、広げると全長1メートルほど。縦の長さは50センチくらいか。ランドセルを背負うように、ゴムひもで両肩に装着するようになっている。

パッケージに書かれていたのは DEVIL'S WING の文字。文字通り、悪魔の羽。もう、これしかないでしょってな感じである。

真っ赤なサテン生地の裾を引き摺るようなドレスを着て、角の生えた赤い「ヅラ」をかぶり、そして赤い羽根を背負う。

ほぼ、完璧である。

あと足りないのは PITCHFORK だけ。干し草用の熊手、と言えばおわかり頂けるであろうか。3つ又に分かれていて、よく悪魔が手に持ってるアレである。過去4回悪魔に扮する度にプラスチックで出来たこの
熊手を購入しているのだが、何故かいつも紛失してしまう。$5程度なので、大した損失ではないが、
毎回毎回買うのも馬鹿らしい。

とは言え、失くしてしまったものは仕方がない。
柄が黒く、熊手部分が赤色をしたこの小道具を、先週買い物をした時に見かけた覚えがあったので、急いで近所の Kroger というスーパーマーケットに向かう。ところが残念。売り切れである。慌てて安売り量販店の Wal Mart へ。

…ない。

「魔法使いのほうき」とか「忍者の刀」とか「フック船長の鉤爪」とかは沢山あるのに、である。諦め切れずにもう1店舗ある別の Wal Mart へ足を伸ばす。ところが、ここにもやっぱりない。バーゲンセールの後のように散らかり放題になっていたハロウィンコーナーをちょうど片付けているところだった店員さんに尋ねてみる。

“I’m looking for a pitchfork to be a devil.”
(悪魔になるので熊手探してるんだけど)

ところが

“Sorry, honey, but we are out.”
(ごめんなさいねぇ。みんな売れちゃったわ)

との返事。

“Thanks, anyway.”
(そっか...ありがと。)

すると、がっくり肩を落として立ち去ろうとしているワタシを呼び止めたその店員さんが言う。

"Hey, wait. We got these small ones for kiddies.
Will it work???"
(ちょっと待って。子供用のちっちゃなやつだったらあるわ。これじゃぁだめかしら?)

ないよりはまし、である。
いや、「まし」どころか。念願の赤色ではなく橙色だがかぼちゃの顔がついていて可愛らしい。しかも全長50センチ弱と短めなので、持ち運びにも邪魔にならない。しかも安いし。

迷わず「お買い上げ」である。

冷静に考えると「悪魔になるので」っておかしな話だけど、本人至って真剣である。

如何にバカになれるか。
如何になりきるか。

Forget about your pride. Just have fun!

ってなもんである。なんてったって、これがハロウィン・パーティーを楽しむ秘訣である。

実際のパーティ当日のお話はまた今度。
(つづきは こちら から読めます)

追記①
YARD SALE = GARAGE SALE (ガレージセール)
家庭の不用品を庭(ヤード)に並べて売買する個人でやるフリーマーケット。ネットオークションやフリマアプリがまだまだ存在していなかった当時、新聞の個人広告欄にはよくヤードセールのお知らせが載っていて、時には御近所一帯ワンブロック合同のことも。合言葉は「誰かのゴミは私の宝物」。
追記②
Spencer‘s というのは「あやしげ」なものを沢山取り揃えてるお店。ハイになってる時見つめてると楽しい(?)という LAVA LAMP とか、下品なジョークのT-シャツとか、キャラクター商品とか色々。
キライではない。むしろ好き。ジョージア州に住んでた頃も近辺のモールにはもれなく出店されていて、若者達でいつも賑わっていたチェーン店。ウェブサイトを覗いてみたらカナダも含めて北米全土で展開中。『鬼滅の刃』Tシャツを取り扱っている一方でオンラインショップだとアダルトグッズとかボディピアスを全面に押し出した感じになっていてちょっと焦る。実店舗ももしかしたら最近はそういう感じなのかしら。
暗闇だとイッキにあやしさを増すLAVA LAMP↓↓

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追記③
Food Court (フードコート)。お食事コーナー。寿がきやとかが入ってる感じの広場。”court” は「四角い庭」「広場」のこと。テニスコートの「コート」や裁判所という意味も。フードコートはピザから中華まで、各種ファストフードのお店が広場を囲むように並んでいて、共有スペースに並べられた椅子とテーブルでそれぞれ食事をするシステム。郊外型ショッピングモールがあちこちにできて今ではすっかりおなじみになったけど1990年代の地元ではあまり見なかったスタイル。最近だと高速道路のサービスエリアでも一般的に。


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