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#81 大嫌いだったのに今でも覚えてる小学5年生の時の先生。

小学5年生の時の担任の先生。
先生はその年にどこかから転勤してきた
熱量のある20代の男の先生だった。

その先生を私は大嫌いだった。
今思うと、思春期に入りかけたからだと思う。
同じクラスで仲良くしていた女友達も
同じく先生が大嫌いだった。

何が嫌いって、
・先生の声が嫌い
・先生のつけている香水も嫌い
・先生の話しかたも嫌い
・先生のジャージも嫌い
 (いつも緑色のジャージ?着ていた)

改めて書くと、先生の素質とか全く関係ない。
(先生、ごめん......)
父親が嫌悪の対象となる思春期の娘のようだ。
でも多分、きっとそうだったんだろう。

なんか自分でもよくわからないけど、
存在自体が嫌になる状態。

だから普段はなるべく口をきかないようにした。
極力最低限。近くにいると息を止めた。
(本当、今思うと最低。先生ごめんなさい)

そんなに嫌いな先生なのに、
密かに毎日楽しみにしていることがあった。
先生が、帰りの会で1冊の本を朗読してくれたのだ。
1日5分。毎日。1年かけて本を読む。

本の題名は灰谷健次郎の「兎の眼」

(あらすじ)
口をきこうとせず、いつも不潔にしていて、周りに暴力を振るうこともある小学一年生の問題児鉄三に、22歳の新米教師である小谷芙美が真正面から向き合う物語。 学校の近くにある塵処理場で働く親を持つ子ども達と裕福な家庭の子供達がいる学級。塵処理場で働く親を持つ鉄三の心を開かせようとする小谷先生はやがて鉄三がハエを飼育して可愛がっていることを知る。

小説はどの本もそうだけど、
最初はまだ話の設定も掴めず、わからないまま読んでるが、
少し見えてくると途端に夢中になる。

そんな感じの本だった。
なぜこの本を先生は読んだのか。
灰谷健次郎が自身の教師の経験を踏まえて書いた本。
先生も新人の小谷先生と自身を重ね合わせていた
いたのかもしれない。

西大寺の堂に善財童子という彫像がある。あいかわらず善財童子は美しい眼をしていた。ひとの眼というより、兎の眼だった。それはいのりをこめたように、ものを思うかのように、静かな光をたたえてやさしかった。

兎の眼はここからきているのね。

善財童子になぜあなたはそんなに美しいのと問いかけた、それと同じ問いができるのだ。わたしはなぜ美しくないの、きのうの子どもたちはなぜ美しくなかったの、と。処理場の子どもたちのやさしさを思った。ハエを飼っている鉄三の意思のつよさを思った。パンをもってかえる諭のしんけんさを思った。わたしは・・・小谷先生は青ざめて立ちあがった。その背にセミのなき声がむざんにつきささった。
「人間は抵抗、つまりレジスタンスが大切ですよ、みなさん。人間が美しくあるために抵抗の精神をわすれてはなりません」

レジスタンスは、ここでは多分反骨精神というよりは
自分の思うところに忠実に貫くという意味に近い。

小谷学級の元、成長していく子供達の様子を
私たち生徒に伝えたかったのかもしれない。

今となってはわからないけど。

先生は、この朗読を始めるときに言った。
「学校で習うことは当たり前のこととして
やるけれども、みんなの心に残ることを
1年かけてやっていきたいんだ。」

確か先生も恩師?が読んでくれて、それが
心の残っていると。だから繋いでいきたいんだ
とかいうことを言っていたと思う。

先生に習った算数とか国語とか
何を習ったかなんて覚えてないけど
先生が読んでくれたことだけは
なぜかしっかり覚えてる。

結局、5年生の間中、私は相変わらず
先生が大嫌いだった。
だから女友達と共謀して、
ほとんど口をきかなかった。
6年生になって、女の先生が担任なって
ほっとしたのを覚えてる。

「先生は大嫌い」のほとぼりが冷めたのは
中学2年生のとき。
ふと冷静に振り返って、
先生に悪いことしたな
と思ったのだ。

私と女友達はある日、
小学校に立ち寄ることにした。
先生はまだその学校にいた。

何くわぬ顔で、その先生と
世間話をした後、先生に言った。
「先生、あの時はごめんなさい。
 先生のこと1年間無視して。
 それを言いにきたの」
とか言ったと思う。

先生はふっと笑って、
でも少し嬉しそうに、
「いいんだよ」と言った。

あの時、謝ることができてよかったと
今思う。
謝ることができなかったら、
兎の眼もここまでいい思い出として
残らなかったかもしれない。

先生、お元気でしょうか。
先生に読んでいただいた兎の眼
今も私の中に残っています。

#忘れられない先生

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