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時にはコップの中から溢れ出てみる

大学生や大学院生のキャリア相談に乗ることも少なくない。真っ白なキャンパスのように純粋な彼らを見るにつけ、若かりしころ、とても世間知らずだった自分の未熟さを思い返し、面映ゆい気持ちになる。就職が決まりましたとキラキラの笑顔で報告をくれる学生達は、これから意気揚々と社会へと歩みだす。歩んでいく先々に挫折し、落ち込み、ぼろぼろに傷つくこともあるかもしれない。そんな彼らを見守り祈るしか出来ないに自分は、彼らが居場所を失い拠り所を求める時にはそれを受け入れ、癒して、再び大海原に送り出してあげられるような、港のような存在でありたいと切に思う。

渡辺美里さんの歌にBelieveという歌があり、その歌詞に「追いつく自分の弱さを追い越す」というフレーズがある。自分に諦めそうになる度にこの言葉で自分自身を奮い立たせたものだった。

弊学の大学院講義では、経営コンサルタントでいらっしゃるジェネックスパートナーズの眞木和俊先生に特別講師としていらしていただいている。先日、先生は講義で受講生と議論をされていたが「若い皆さんは『権威の前ではどうせ何を言っても変わらない』などと諦めないでほしい」とおっしゃった。その言葉に、近頃ともすれば権威の前に諦めぎみだった自分はそれにはっとした。これはつまり、自分には世の中の体制なんて変えようがない、どうしようもないと諦めることで、知らずに自分に追い付かれていたのだ。

変える、ということは容易ではない。何もしなくて良いのだから変えない方が圧倒的に楽だ。でも否応なしに世の中はどんどん動き、雲のように刻々と形を変え、時に穏やかに時に激しく人々の生活に及んでくる。私たちはそれに順応し、場合によっては予見して先回りしないといけない。それはとりもなおさず自分が守りたい家族のためでもあり、共感し共に働く仲間のためでもあるが、回り回って結局全部自分が幸せでいるためなのである。

イマジネーションは泉のように常に心から湧き出しているもののはずなのに、社会通念だの常識だのといった言葉に縛られ決められたサイズのコップの中からなかなか溢れ出すことができない。でも若い方々には是非いろいろ挑戦してほしい。何もしなかった後悔はきっと何かに挑戦して失敗した後悔よりも重い。コップから溢れたものはきっと誰かが受け止めてくれるから、しなかった言い分けを自分にし続けることがないよう、人生を是非力一杯謳歌して欲しいと思う。

京都大学大学院「医学領域」産学連携推進機構
鈴木 忍

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