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電車に乗るのは嫌いじゃない

家から一歩でると途端に体温に近い生ぬるい空気が身体中にまとわりつく。ただでさえ朝一番、低いテンションを奮い立たせて家を出るのに、爽やかさという言葉の対局にあるぐっしょりと重い空気が背後霊のように背中に乗っかり、上げたテンションはぐぐんと下がる。

とはいえ、お金をいただいて働いている身としては、暑さ寒さにめげている場合でもない。駅のホームに立っていると、JRの車両が滑り込んできた。入線します、という駅員さんのアナウンスが好きだ。入線という言葉がなんだかカッコいい。2時間近く通勤に時間をかけているがこの電車の中、という生活空間は、とても特殊だ。席を譲ったらありがとうと丁重に言ってもらってほっこりした気持ちになったり、うっかり落としたスマホを近くに立つ方にどうぞと拾ってもらったり、そんなことで、なんか生きてて良かったなあと思う。一方で、空いた席に突進する人に突き飛ばされたりすることだってある。毎日何かしら嬉しかったり腹立たしかったりする。

大学生の頃、片道2時間半かけて大学に通っていた時期がある。そうなると毎日がダンジョンである。最寄りの駅は単線で、電車はラッシュ時でも一時間に3本くらい。駅にバス停はひとつという小さな小さな駅から明け方に電車に乗り、3回乗り換えてようやく大学の最寄り駅にたどり着く。毎日何本も電車を乗り換えるうちに、若さもあってすべての時刻表を覚えてしまっていた。ここでこの電車に乗ると、次の乗り換えは急がないといけないな、とか、これに乗っても次の電車に乗っても、次の乗り換えの時は同じ電車だしゆっくり行こう、とか、時刻表と各乗り継ぎ駅の構内マップを頭の中に思い浮かべ、往路復路で戦略を立てた。車両の中でのポジショニングも大事で、この辺りにたてば次の駅で席が空きやすいから座れるかもとか、何かしら電車ではずっと考えていた。

長距離の通学なので座れることも多く、大学卒業前は薬剤師国家試験の勉強をしていた。ある日、今日は気が乗らないし勉強しなくても良いかなと思って座っていたら、前に立っていた男性に「今日は勉強しないんですか」と声をかけられ驚いたことがある。毎朝、私が勉強している様子を見て、そっと応援してくれていたらしい。今も車内で勉強している方々を見ると頑張れと思う気持ちと共にそのことを懐かしく思いだす。っていうかお前もまだまだ頑張れよと自分に突っ込んだりもする。

電車の中は、学生らしい人たちを除くとおおよそ男性ばかりである。女性の多くが家を守っているのだろうか。男女共同参画というけれど、この国なりの男女共同参画のあり方が有るんじゃないだろうかとか小難しいことを考えたり、これだけの知らない人同士が毎日集う場所はそうないのだから、ここに何か呼び掛けたら新しいイノベーションが生まれるような仕掛けを作れるかも、吊り広告でそんなことって出来るだろうか、と気がつけばあれやこれやとアイデアを考えている。こうした時間は新しいことを思い付くのにも結構活用できているように思う。

新快速の敦賀行きが入線します、の声に、このまま終点まで行ってしまえたら楽しそう、とテンションがちょっとだけあがった。今日も一日頑張ろう。

電車に乗るのは嫌いじゃない。

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