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今年の高考(中国の大学受験)日本語の問題にモヤモヤしたお話し

今年の日本語高考の解説を書いていて、最後までしっくりこなかったのが50番の問題です。

皆さんから様々な意見をいただきましたが、後半は日本語を理解する中国人からの攻撃的なメッセージの対象となってしまい、返信はフォロー限定にする羽目になりました。

まずは、この設問のどこに問題があるのかを説明します。そしてどうして中国人が攻撃してくる対象になったのかも考えたのでまとめます。

この設問のどこに問題があるのか?

この文章「彼女の( )だから、何をされても許してあげたいです。」は2つの部分に分けられます。

前件「彼女の( )だから、」
後件「何をされても許してあげたいです。」

この「名詞+のことだから」は、「名詞」について知っていることがあり、そこから当然推測できることを述べる時に使います。

彼女のことだから、きっと遅刻するだろう。
中国のことだから、ゼロコロナ政策を撤回することなどあり得ない。

このように「彼女」や「中国」について知っている人が、「彼女」や「中国」が取りがちな行動について確信をもって行動を予測するときに用います。

それで問題なるのは後件の「あげたいです」という表現です。これは動詞の「あげる」が「あげたい」に変化したものです。日本語教育界では意向形なんて言います。そして問題なのは意向形は通常自分にしか使えないってことです。

(わたしは)あなたにもチェルシー あげたい。(ネタが古い・・・

他人の心を読むことはできませんので、願望を持っていると自信をもって言えるのは自分のことだけです。

バスケがしたいです。

こう言った人がいて、まさか他人のことを代弁しているとは思わないわけです。

では設問に戻りましょう。

前件からすると、後件の主語も「彼女」になるはずですが、述語が「あげたいです」になっている関係で後件の主語は「わたし」になってしまいます。こうなると意味がわからなくなります。

「彼女のことだから、(わたしは)何をされても許してあげたいです。」

さらに、選択肢を(こと)以外の「もの」「はず」「わけ」を選んでも、主語の省略と説明不足で、どれも何を言いたいのかわからない文になってしまいます。

Twitterのリプでは以下のような考察もありました。

  • (僕は)彼女のものだから、何をされても許してあげたいです。

  • 彼女の(する)ことだから、(私は)何をされても許してあげたいです。

  • 彼女のことだから、(俺は)何をされても許してあげたいです。

  • 彼女の(初めて臭豆腐を食べる時の)ことだから、(鼻をつまもうが臭いって言おうが)何をされても許してあげたいです。

コメントを書いてくださった皆さん、ありがとうございました。いろいろ解釈できますが、結論を言うと原文を超解釈しないと正解は導き出せないってことですね・・・

さて、こんな変な設問、実は毎年1問か2問はでます。

日本語教師、もしくは日本語国語教師の監修がなされていないってことはあり得ないと思うのですが、チェックが抜けてしまうのでしょうか?不思議です。

さて、こういうコトを提起すると次のような人たちが現れます。

このリプですが、何度読んでも意味がわかりません。

そもそも「中国式日本語」ってなんなのでしょう?日本語に日本式とか中国式というのがあるというのを初めて知りました。英語ならアメリカ式とかイギリス式とかありますが。

人生を左右すると言われる中国の大学受験問題に曖昧な設問があったことを指摘したはずが、いつの間にか面子や利権、そして外国語不要論という中国の示しがちな特徴と結びつけられています。

また明らかに中国人のアカウントから「何が問題なのかわからない」とか「気にしすぎだ」などの意見を頂きました。

確かに、わたしは気にしすぎだと思います。

でも、わたしは日本語教師です。感覚でオーケーみたいな教師に日本語を教えてもらった結果、相手の聞き取り能力に依存した日本語話者が多い現実を考えると、きちんと理論だてて教える教師、つまり細かいところまで気を配る教師が必要だと思ってます。

論点をずらしたり、人の気質を問題視する攻撃パターン。中国ではありふれた光景です。正直、こういう反応には疲れます。

そして正直に言うと、お上が作成した試験問題に矛盾があることを、あんまりおおっぴらに取り上げるのも良くないと思ってはいます。

それで決してこの記事を中国語なんかに翻訳して、中国のウェブサイトに公開したりしないでくださいね。怒られるのは怖いし、怒らすのはもっと怖いです。

今日も最後まで読んでくれてありがとう。また明日。

ぜひぜひ、サポートをお願いします。現在日本円での収入がなく、いただいたものは日本語教材や資料の購入にあてます。本当にありがとうございます。