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富岡→半原 (愛川町日記 2015年8月29日より転載)

僕の実家は、サーフショップをしている。


愛川町の人にはなじみはないだろうが、宮崎県日南市という所だ。

日南海岸とは「新婚旅行」のかつての人気スポットとして聞いたことがあるだろう。

当然、サーファーがその商売の対象だが

日南の海と戯れるサーフィンを売りにしているところもあり、「観光客」という言葉にも敏感になる。

宮崎県日南市。人口は5万人ほど。

愛川町と変わらない。

観光地としては<漁師町とサーフィンのできる海岸線を持つ「海」>と<市内陸部に位置する「飫肥城」を中心とした中世の町並み>であるが、この二つは距離があり、連動性は取りにくい。

愛川町は、多少強引に割り切れば、あいかわ公園や塩川の滝などの観光客が立ち寄り愛川町を体感できそうなスポットは半原エリアに集中し、その点では徒歩移動でいくつかのスポットを巡れる利点はある。
(三増や八菅も当然観光スポットとして成り立つが、単体で成立する観光地だと思う)


「観光」というのは難しく、草花のように自然に花になり実になりというものではないし、工業のように製品をいくつ作ればいくら儲かるという数字的なものでもない。

感動や喜び、旅愁など精神的なものに訴えるものが多い。

だからこそ、少しでも訪れる人に良い印象を与えた上で、口コミで広げてもらったり、リピーターになってもらうことが大切だ。



連休を利用して群馬県富岡に行った。

言わずと知れた、世界遺産・富岡製糸工場のある場所だ。

夏休み期間は毎日たくさんの人が全国から押し寄せてきたであろう。


私は無料駐車場を利用したのだが、そこでもらった地図を見てちょっと気づいたことがある。


(富岡製糸工場ホームページより)

大型無料駐車場や駅から意外と遠いのである。

富岡製糸工場の成立過程や町の発展過程もあり、工場そばに大型の駐車場を作りにくかったということもあろうが、はじめて来た者にとっては地図上で見れば歩くのを少し躊躇する距離に思える。

しかし、実際に歩いて見るとそうでもなかった。




町が歓迎をしているのである。

このすだれの絵は、無料駐車場や駅から大通りに向ける道にあり、ほぼすべての家がそれぞれの趣向を凝らして軒先をにぎわしている。

それだけではなく



お店には<一口メモ>が書かれており、すだれやこのメモを読むだけでも楽しい。

メモを見ながらのんびり歩いていても、



道に標識があり迷うこともない。

こうもはっきりと書かれていると従いたくもなる。

しかも、この標識の先は



お土産点や飲食店が立ち並んでいるのだ。

これは、観光客も便利だし、なんといっても商店は潤う。

途中の商店には周辺観光マップや観光パンフレットが並べてあり、ついつい手に取ってしまう。

駅や無料駐車場まで20分くらいあったが、退屈することもなく、いろいろ寄り道しながら、世界遺産までの道を楽しめた。


駐車場から観光地・世界遺産までの道。

もともとこうだったのか、世界遺産認定後にこうしたのかわからないが、

地域の人々の<少しでも富岡を楽しんでほしい><少しでも富岡で思い出を作ってほしい>の気持ちを感じる。

そう。

「おもてなし」の心、を感じるのだ。


確かに、半原地区と富岡市を比べるのは観光地の規模としては酷である。

ただ、その観光手腕や方法は学ぶところがあるのではないか?


あいかわ公園の駐車場を無料にして観光客を増やしてほしい。

という言葉を聞いたことがある。

しかし、これこそナンセンスな感が否めない。

それをしたところで「県立あいかわ公園」の人出が増えるだけで、愛川町には何を生み出すのか?

公園の駐車場への入庫まちの渋滞くらいだろうか?

それよりも、半原の商店街を動線とした駐車場を作り、商店街を見ながらあいかわ公園に行くほうが地域としてもよい。

バス利用者には繊維会館を道の駅化して観光拠点すればいい。

あいかわ公園に行き、その先は愛川町外ではなく、半原内で塩川の滝や半原水源地など次の観光地へと誘導するルートをこちらでつくっていくのだ。(当然、その先の三増や八菅への誘導も)


なにか一つの施設を見て感動する。

観光とはそうではなく、<その施設までの移動><対応してくれた人々の顔><町の空気>などを含めて観光である。

それらが、密接に絡み合って「いいところだったね」「また来たいね」という精神的な購入者になる。

ただ、やみくもに観光施設をアピールするのではないし、愛川町に新しい観光施設を作り出す余力はないだろう。

ならば、「ハード」ではなく、「ソフト」で勝負をするしかないのだ。

お土産を見たり、観光案内の看板を見たり、地元の人と交流を持ったり。

車を降りて、バスを降りて、人々に「愛川町に来たんだ」という空気を感じてもらいたい。



半原の撚糸は、富岡製糸工場の機械を模倣して水力を補助動力する軽工業であった。

今度は世界遺産の観光手腕を模倣してみたらいかがだろうか?

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