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「戦国武将の霊が追いかけてきた」“統合失調症”と診断された方が語る、幻視・幻聴の世界

「統合失調症」(とうごうしっちょうしょう)は、幻覚妄想という症状が特徴的な病気です。聞き慣れない方も多い病名かもしれませんが、統合失調症は、およそ100人に1人弱がかかると言われています。

「戦国武将の霊が追いかけてきた」
「突然、殺すぞ!と聞こえてきた」

これは、統合失調症と診断された方が語ってくれた、ほんの一部です。

幻覚や妄想に苦しんでいる方は、周囲とは見ているもの、聞こえていることが異なります。そのため、苦しみを理解されず、孤独を感じてしまう方もいるのです。

症状が出てきたとき、ご本人が周囲に「こうしてくれたら助かる」と思うこと。反対に、「こうされて悲しかった」と思うこと。

そのふたつを、ご本人の症状と合わせて、詳しく伺いました。

■ともしび さんの場合(28歳・女性)

<症状が出てきた時期>
2015年9月
<統合失調症と診断された時期>
2016年3月
<現在の状態>
寛解はしていないが、症状は落ち着いている

① 病気の発症後は、どんな症状が出ていましたか?

統合失調症の症状として、私は人の顔と模様がセットで見えることが多かったです。

性別がなんとなくわかるくらいに見えるときと、誰なのかがわかるくらい、はっきりと見えるときもありました。表情は、不気味な笑顔のときや、真顔のときがありました。その人たちが、私になにかを言ってくることはなかったです。

模様は、顔の周りにびっしりと細かな模様が見えるんです。お花と葉っぱの模様が多かったですが、長方形が部分的に重なっている感じの模様や、車のシルエットが見えることもありました。

あとは、耳鳴りかと思う感じのものや、誰かの足音、なにを言っているのかわからない声が聞こえることがありました。

家にいたときに、突然「殺すぞ!」と聞こえたこともありましたね。声は中世的な感じで、性別はわからなかったです。

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② 病気の症状を自覚したきっかけはありますか?

症状が出てきたときは学生時代で、精神医学を学んでいたんです。統合失調症の知識もあったので、もしかすると……という予感はありました。

四六時中「死ね」と聞こえてくるときがあり、最初はそれが本当の声だと思っていたんです。でも、周りを見ても誰もいない。

それでも声が聞こえてくる状況に、"これはおかしい、幻聴だ"と自分で気がつきました。

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③ 症状が出ているとき、周囲にどう接してほしいですか?

否定することなく、話を聞いてほしいです。

できれば、単に話を聞くのではなく、傾聴して、どうすれば楽になるのか一緒に考えてほしいですね。

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④ 症状が出ているとき、周囲にされて傷ついた接し方はありますか?

母に笑いながら軽い感じで話を聞かれたときは、もっと真面目に話を聞いてほしいと思うことがありました。今でも、親には病気のことは話しにくいです。

今はグループホームに住んでいますが、グループホームの世話人さんや、作業所の職員さんのほうが親身に話を聞いてくれます。

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⑤ 病気と診断された方の、周りにいる方に伝えたいことはありますか?

私は、病気の本人に寄り添うことが、一番本人の為になると思っています。なにを望んでいるのか、どうしてそう思うのか、じっくり聞いてあげてほしいです。

統合失調症に限らずですが、精神疾患を持っている方は、相手の言動、雰囲気などに敏感で、自覚はなくても人からの愛情を求めています。

本人に病識があってもなくても、支援する人からすると、「また同じこと言ってる」と思うこともあるかもしれません。

治療を受けて症状が落ち着いても、根本的な部分が改善されない場合は、「ボタンの掛け違い」が生じているんだと思います。その掛け違いを直すのは、やっぱり本人への愛情だと、私は思います。

「あなたは私にとって大切な人なんだよ」と伝えてほしいなと思いますね。

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⑥ 病気の症状で苦しんでいる方に、伝えたいことはありますか?

一言で言うなら、「明けない夜はない」ということです。

私は元々、身体もメンタルも強くはなく、統合失調症と診断されたばかりのころは寝たきりで「人生詰んだ、終わった」と思っていました。

でも、診断から3年以上経って、自分の中で症状と付き合えるようになってきました。周りの方々の助言を受け入れて、出来る範囲で実行していけばきっとよくなる、そう信じています。

どんな些細なことでも、周りの人に相談してほしいです。

治療に専念することも、とても大切だと思っています。自分に合う薬を見つけて、服薬を欠かさずして、睡眠をしっかりとって規則正しい生活を送ることです。

絶対よくなる!病気に負けないぞ!と思うことも大切ですが、うまく病気と付き合うことも、もっともっと大切だと思っています。

■ねむりねこ さんの場合(25歳・女性)

<症状が出てきた時期>
2014年8月
<統合失調症と診断された時期>
2016年5月
(急性一過性精神病性障害と診断後、統合失調症に診断名が変わる)
<現在の状態>
寛解(再発経験もなし)

① 病気の発症後は、どんな症状が出ていましたか?

寝ている私の上を、たくさんのおばけが百鬼夜行のように通り過ぎていったことがありました。「目を開けたらだめ、開けたら目を潰されちゃうよ」と言われて、怖くて怖くて、ぎゅっと目を閉じていました。

でも、いい幻聴もあったんです。怖がる私のそばに、好きな漫画のキャラクターが寄り添って、「大丈夫だよ」と励ましてくれたんですよ。

ただ、夜が明けるとそのキャラクターに「お前が悪いことをするから、こういうことになるんだよ」と責められるんです。そのときは、自分が悪いんだと思い込んでいました。

救急車で病院に運ばれているときは、戦国武将の霊が地震を起こしながら、自分を追いかけてくるような妄想がありました。「誰か助けて」と、心の中でずっと思っていましたね。

母も救急車に同乗していたので、「ふたりとも霊に潰されちゃうんだ…」と怖くなったのを覚えています。

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② 病気の症状を自覚したきっかけはありますか?

病院では病名は伝えられず、訳もわからず入院しました。

入院後に、たまたま入院計画書に「統合失調症」と書かれていたのを見つけて、スマホで検索したことが、病気を自覚したきっかけになったんです。

元々、統合失調症を少しだけ知っていたんです。検索した内容と自分の状態を照らし合わせて、同じ部分を見つけていきました。

すぐには、納得できなかったですけど……。入院中に、周りの方とお話をしていく中で、少しずつ自分の中で納得できるようになりました。

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③ 症状が出ているとき、周囲にどう接してほしいですか?

病気の症状だと自分がわかっていないなら、とにかく早く病院に連れて行ってほしいです。私は家族が病院に連れて行ってくれたから、適切な治療ができました。

私の母が妄想を重く受け取らなかったのも、今考えるとありがたかったなと思います。妄想の影響で、私も言うことがコロコロ変わっていたので……。ひとつひとつの言動に母が振り回されていたら、大変なことになっていたかもしれません。

私の話を否定もせずに、かと言って熱心に聞きすぎもせずに、必要以上に取り合わないでいてくれました。「そうなんだ、じゃあご飯食べようか」「そっかそっか、まずは寝ようね」とやるべきことを促してくれたのは、助かりました。

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④ 症状が出ているとき、周囲にされて傷ついた接し方はありますか?

相手の好意で、困ってしまったことはありました。入院中に、同じ患者さんの男の子がチョコレートをくれたんです。

そのときの私は妄想がひどくて、人のものを自分の身の回りに置いてはいけないと思い込んでいたんです。優しさはうれしかったけど、もらうこともできず、どうしようかと思ってしまいました。

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⑤ 病気と診断された方の、周りにいる方に伝えたいことはありますか?

妄想が出ているときって、妄想が世の中のルールになっていることがあるんです。他の人からしたら突拍子もない行動でも、その人は真面目にルールを守っているだけ。

私が病院でチョコレートをもらえなかったのも、自分の中のルールを守った結果でした。相手のなにかを拒否したとしても、その人を拒否したのではなく、ルールの中で生きるために必死になっていると思ってくれたらうれしいです。

病気になった責任が、周囲や本人にあるわけではないということも、知ってほしいなと思いますね。私は、人の対しての恨みや世間のやるせなさが積もって、病気になったわけじゃありません。誰であっても、病気になるときはなります。

病気になった人を、世間に溶け込めなかったはじかれ者として扱うのは、できればやめてほしいです。

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⑥ 病気の症状で苦しんでいる方に、伝えたいことはありますか?

助けを求めていい社会だと、知ってほしいなと思います。

家庭などの、小さなコミュニティの中で助けを求めることが無理だとしても、社会という大きな枠組みの中では、助けを求めることが許されていると思うから。

いろいろな国の制度があるし、支援してくれる専門職の方もいます。「助けてほしい」と言ってもいいんだと、自分を許してほしいです。

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自分には見えないものを見たり、聞こえない声を聞いていることに、不安な気持ちを抱く周囲の方もいるかもしれません。けれど、目の前の人の言動の一部が「病気の症状」だと知ることで、抱く気持ちが変わることもあるのではないでしょうか。

統合失調症は、適切な治療を進めていくことで、多くの方が回復に向かっています。どうか、ひとりでも多くの方が、自分に合った治療、そして信頼できる先生に出会えることを願っています。

「自分になにができるかわからない」という周囲の方も、知ろうとする・理解しようとすること自体が、きっと大きな一歩ではないかなぁと思います。

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