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【感想】オリエント急行の殺人②|アガサ・クリスティー


  ポアロは乗客全員を食堂車に集め、2つの推理を披露し、どちらを採用するか問いかける。

その前に少し状況整理。

  • ラチェット(カセッティ)は夜中の0〜2時の間に何者かによって殺害された。

  • 0時37分頃、ラチェットの部屋から呻き声が聞こえ、車掌が部屋を訪ねるが、部屋の中から「なんでもない。間違えたんだ。」と返事があった。

  • 1時15分頃、ハバード夫人が自分の部屋の中に、男が隠れていると言って騒ぐ。

  • その後、真っ赤な着物風ガウンを着た女か背の低い男がラチェットの部屋の前を通るのを何人かが目撃する。

  • ハバード夫人の部屋から、車掌の制服のボタンが見つかる。

  • ハバード夫人の化粧ポーチの中から犯行に使用された短剣が見つかる。

  • メイドのヒルデガルデ・シュミットのスーツケースから車掌の制服が見つかる。


1つ目の推理。


犯人はラチェットに恨みを持つ外部の者。
途中の停車駅でオリエント急行に忍び込み、あらかじめ用意しておいた車掌の制服を着て、合鍵を使ってラチェットの部屋に侵入。
ラチェットが睡眠薬を飲んで眠りこんでいるところを刺し殺す。
隣のハバード夫人のコンパートメントに忍び込み、犯行に使用した短剣を化粧ポーチに押し込む。その際、制服からボタンがとれる。
それから誰もいないコンパートメントのスーツケースの中に車掌の制服を押し込み、普通の服に着替えた上で、車内から立ち去った。

※ここからは犯人に関するネタバレが含まれます。


2つ目の推理。


ポアロを除く、イスタンブール=カレー間の寝台車にいた乗客全員が、アームストロング事件の関係者だった。
乗客たちは、アームストロング事件の復讐のためにオリエント急行に乗り込んでいたのだった。
ラチェットは有罪であることは間違い無いのに、裁判で無罪となってしまった。
そこで関係者12人が自ら陪審(陪審は12人で構成される)となり、死刑を執行した。

乗客の正体

  • メアリ・デブナム アームストロング家で家庭教師をしていた。

  • アーバスノット アームストロング大佐と親しかった。

  • ヘクター・マックィーン ソニア(アームストロング大佐妻)を崇拝していた

  • エドワード・マスターマン 大戦中、大佐の当番兵を務め、のち召使いとして働く。

  • ハバード夫人 正体はソニアの母で、女優のリンダ・アーデン

  • ドラゴミロフ公爵夫人 リンダ・アーデンの友人

  • ヒルデガルデ・シュミット アームストロング家の料理人

  • アンドレニ伯爵夫人 ソニアの妹

  • アンドレニ伯爵   (アームストロング事件と直接関わりはない)

  • サイラス・ハードマン 殺されたデイジーの子守りをしていた子守り娘の恋人(この子守り娘は犯人と疑われ、自殺してしまった)

  • グレタ・オールソン デイジーの乳母

  • アントーニオ・フォスカレッリ アームストロング家の運転手

  • ピエール・ミシェル 子守り娘の父親

全員がお互いのアリバイを証言し、外部の者の犯行に見せかけるような証拠をわざと落としておいた。
さらに、捜査を撹乱させるため、真っ赤な着物風ガウンを着た男か女かわからない人を登場させた。

実は0時37分頃の「なんでもない。間違えたんだ。」と言う声はフランス語だった。
ラチェットはフランス語が話せない。この時にすでにラチェットは殺されていて、犯人がこう言ったと思わせようとしていた。

実際にはもっと遅い時間に、ラチェットは殺された。
アームストロング事件の関係者12人が順番にラチェットを刺した。
そのためラチェットには12箇所刺された跡があったのだった。

ポアロと殺されたラチェット以外で、寝台車にいたのは13人。
この中に1人、犯行に関わっていない者がいる。
アンドレニ伯爵夫人だ。
彼女だけは犯行に関わっておらず、代わりに伯爵が参加した。

鉄道会社の重役のブークは2つの推理を聞いた上で、1つ目の推理を採用する。
事件が解明されたところで、物語は終わる。


犯人を知った上での感想

私の予想と全然違った、というか外しまくってた。
(唯一犯行に関わっていない人を犯人と思うとか、本当にダメなものだ。)

複数人が犯人で、その人たちがアームストロング事件の関係者だとは思ったけど、まさか全員とは思わなかった。

ハバード夫人、、、ただの陽気な騒がしいおばさんだと思ってたよ。全部演技だったんだね、、、私も完全に騙されてたよ。

国籍も階級もバラバラな乗客がみんな知り合いだった。
そんなことが起こりうるのは、アメリカくらいのものだ。
と言うセリフが出てくるのだが、本作の描かれた時代を反映しているなと感じた。
1930年代のアメリカは今以上に多様性に富んだ自由の国という感じだったんだろうな、と思った。
こういう当時の人の感覚を知ることができるのも面白かった。

こういう犯人をわかった上であえて見逃す、大岡裁き的な解決をすると言うのが意外だった。
刑事ドラマの影響か、犯した罪はちゃんと償ってくださいというのがミステリーの定石なのかと思っていた。

そしてラスト。1つ目の推理を採用したところで、スパッと終わるのがいい。
その後どうしたんだろうとは思うけれど。

日本語で初めて訳された時タイトルは「十二の刺傷」だったそうだ。
本を読む前はよくわからないけれど、読んだあとこれ以上なく本作を的確に言い表しているなと思う。
でも原題が「MURDER ON THE ORIENT EXPRESS」だから、やっぱり「オリエント急行の殺人」なのか。

結末でハッとなるような小説をあまり読んだことがなかったので、とても新鮮だった。
ミステリー好きな人はきっとこういう瞬間がたまらないんだろう、と思った。

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