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福島に行った3頭のぼんの話。その2

2年前の2011年元旦
新しい年の幕開け

生き物を扱う我が家には、ゆっくりした休みはなかったけれど、それでも、
つかの間の正月気分を味わいました


牛舎にもしめ飾りを飾り
お神酒やおそなえもちも
いつものように、牛たちの鼻先にちょんちょんとお神酒をつけながら
「今年もよろしく。良い年にしようね。」と、1頭1頭の頭を撫でて、新年の挨拶を交わしました

この年は年明け早々、出荷の準備がありとても忙しい日々でした
もんぼんとしずぼんが2月3日に市場に出品予定
そして、3月2日にはゆきぼんが市場に出品予定
3頭とも、安平町の市場に申込みました

うちの仔でいられる期間もあとわずか…
体調を崩さないように気遣い、最後まで精一杯の愛情をそそぎます
元気に次の飼い主のところへ行けますように
牛の毛並みを良くするブラシかけにも、自然と力が入りましたし
愛らしい瞳を見ていると、込み上げてくるものがあったりして…

感傷に浸ってばかりいては、牛飼いなんてできないのでしょうが
いつも どの仔にもそんな思いで、出荷の日までを過ごしていました


そうして、
もんぼんとしずぼんが、市場に出品される日がだんだんと近づいてきました
仲良しの2頭が一緒に出場することで
私たちは、いつもより少し気楽な気持ちで当日を迎えようとしていました

小さい頃から、ママ牛のおっぱいを離れた時から、ずうっと仲良く一緒に過ごした2頭
もしも別々に出荷した時に受けるであろうストレス
ずうっと一緒にいたのに突然引き離される恐怖は感じさせたくない、できれば避けたいと思っていましたから
一緒に仕上げて一緒に出場させたいと思っていました
もちろん準備は怠りませんでした

例えば餌のこと
市場に出場した当日は、ずうっと繋がれてせり落とされて、次の飼い主の牛舎や牧場に着くまで
それが遠方にある牛舎や牧場の場合は、何日も絶食状態が続くことがあります
もちろん水や牧草等を用意して、移動中の家畜車の中でもちゃんと食べさせてくださる購入者さんが大多数ですが
中には
「ほんの1~2日だから」とか
「たくさんの頭数を載せているのでそんなことまでしていられない」とか
何も与えてくださらない方もいるわけです(本当にほんのごく一部です)

でも動物にとって「お腹が空いた」というのは1番の拷問だと思うので
万が一を考え、出荷の何日も前から好みの配合の、いわゆる「特別食」に切り替えて
お腹いっぱい食べて、出かけてもらうようにしています

もんぼんとしずぼんもそうやってお腹いっぱいおいしく餌を食べて
たくさんの寝ワラを入れてもらってふかふかのきれいな牛舎で眠って
出荷の当日まで本当にのびのびと過ごしました

ちびっこのころの脱走の思い出やあどけないしぐさ、たくさんのイタズラ
いろんなできごとを思い出しながら毎日を過ごし
もんぼんとしずぼんがお出かけする日はあっという間にやってきました



もんぼんとしずぼんおでかけの朝
当日もたくさんの餌をおなかいっぱい食べて

紫色のかっこいいもくし(牛を繋ぐために牛の顔に掛けるロープ。牛の顔の形に合うように編んである。)を装着、うん、今日もかっこいいよ

家畜車におとなしく載せられ、隣同士で繋がれ、安平町の市場に向かいました

もちろん私たちも後ろから自家用車で追走
「多分今ごろどこに行くんだろう?なんて2頭でお話してるのかもね」。なんて言いながら

高速を使えばあっという間
何度も通った道はこの日もスムーズに到着
すぐに2頭を降ろし、体重を量り
出場番号を頭に着けて番号順に繋がれます

もんぼんとしずぼんは出場番号も順にもらい、市場でも隣同士に繋がれました


もちろん市場で繋がれているときにも、食べられるコには餌を与えるようにしています

ですが牛は臆病な動物
何千頭も牛ばっかりつながれて、ある意味独特な雰囲気のする市場では
強烈なストレスを感じて
餌なんか食べられなくなるコがほとんどです

あちこちから牛の絶叫のような鳴き声が聞こえます
次々とたくさんの家畜車が止まり、中から何頭もの牛が降ろされます

購買者が、お眼鏡にかなった牛を見つけようとあちこちを歩き回り、出品名簿を照らし合わせながら牛を1頭1頭確認しています

私たちのような出品者は、自分の牛を研いて、競り開始直前まで手入れをします

他に、市場関係者もあちこちに
牛を家畜車から下ろし、引っ張ったり繋いだりしています

各地域の農協関係者の顔も多数見えます


なんともいえないものものしい、だけど騒々しい雰囲気の中
もんぼんとしずぼん、そして私たちは落ち着かない気持ちの中で
セリの開始時間を迎えようとしていました