見出し画像

月例落選 俳句編 2022年9月号

投函したのは5月30日。前日29日、東京は晴天に恵まれ過ぎて31度を記録、今年最初の猛暑日となる。

題詠のお題は「都」。「都」という文字を見て、都市、首都として捉えるのがたぶん一般的だろう。だから、都市ではない都を考えたのだが、「都こんぶ」くらいしか思い浮かばなかった。「都こんぶ」は商標なので、さすがにこれでは選ばれない。

昼寝覚め都こんぶで渋茶飲む

陽炎に誘われるまま古都の宿

昆布は大阪土産として有名だ。もちろん昆布の産地は北海道沿岸。その昔、北前船が運んできた昆布の集散地が大阪だった。「都こんぶ」は堺に本社を構える中野物産の商品であり、その創業者である中野正一が開発したものだ。関東でも駅の売店や駄菓子屋に並んでおり、あの赤い小箱に入った甘塩っぱい昆布は子供の頃から知っていた。

たまたま何年か前、国立民族学博物館友の会の体験学習会で昆布出汁がテーマの回があった。四天王寺の近くにある普茶料理店の阪口楼を会場に、講師は空堀商店街のこんぶ土居の四代目店主である土居純一さんと民博の飯田卓先生。昆布というのは身近なものとの思い込みがあったが、その思い込みが木っ端微塵に砕け散った。どんなこともそれぞれに深い話があるものだが、昆布の種類と産地の違いを初めて知って大いに感心した。京料理と大阪のそれとでは出汁に使う昆布が違うというのも驚きだった。味というものはそれほど微妙なものなので、昆布と水の相性も当然にあることは容易に想像できる。関西と関東とでは水の硬度が違うことも味付けの違いと関係あるだろう。昆布のことは言い出すと際限がないので別の機会に譲る。

雑詠は以下の3句。5月は最寄り駅近くのマンションの一階店舗の軒下に営巣している燕のことがとても気になる。昨年は営巣したものの雛を孵すことなくいなくなってしまったので、今年は特に気になった。幸いにも今年は無事に巣立ちを迎えた。

軒下の巣を見上げると、巣の縁に雛の菱形に開いた口が並び、そこに親鳥と思しき燕が忙しなく出入りしている。ある時、その親鳥が2羽よりも多い気がしたのだ。燕の世界にも手伝いのような役回りの者がいて、自分の雛でもないのに面倒を見るのに一役買っているのか。自分の雛だと思い込んで、他所の巣の面倒を見ているのか。はたまた、何か魂胆があって敢えて他所の巣の世話を焼いているのか。真相は本人(本鳥)にしかわからない。

なんとなく親子とか家族というものを特定のツガイを核に想定する習慣が人間の側にある気がする。受精という限定された現象においては、特定の雄と雌との関係が明らかになるのだろうが、それ以外の生活の営みも果たして受精に関わった雄と雌がそのまま義理堅く関係を継続するものなのだろうか。今はDNAの検査などで生き物の親子関係が容易にわかるようになったので、そのあたりのことは生物学では明らかになっているのかもしれない。

燕の子親が二羽とは限らない

燕の子口から先に成長し

富士山にまだ雪残る猛暑の日

住まいのベランダから富士山が見える。冬場ははっきり見えるし、夏は見えない日が多い。だから、ベランダから見える富士山は頭が白いという印象が強い。今年のように猛暑日を迎えているのに冠雪した富士山が見えると、ちょっと妙な気がする。

結局、今年もエアコンを買わずに夏が終わろうとしている。昨年の夏よりも暑い日が多かったが、風の無い日がなかったので、暑くて眠れないという日はなかった。こんな夏は、今の住まいで暮らして初めてかもしれない。温暖化で大変だと大騒ぎしているが、ミランコビッチ・サイクルと呼ばれる大きな周期としては寒冷化に向かっているらしい。わけもわからずに大騒ぎするよりも、ひとりひとりが節度を守って生活をすれば、そうひどいことにはならないのではないか。尤も、人間が節度を守って暮らすというのは、おそらくあり得ないことなのだろう。

読んでいただくことが何よりのサポートです。よろしくお願いいたします。