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書評「生き物の死にざま」

比較心理学とは、人間と動物の行動の比較から、人間の心理を研究する学問である。進化論とも関連が深い。本書は比較心理学をテーマにしているわけではないが、動物や昆虫の死にざまは人間以上に人間らしいことがある。

生き物の死は種の保存と密接に繋がっている。それは人間も例外ではないだろう。

種の保存、つまり同じ遺伝子を持つ仲間を守り、次の世代に遺伝子を伝えることは、パートナーを持ち、子どもを産んで育てる者だけが担っている役割ではない。

兵隊アブラムシや働きバチは生殖機能を持たないが、同じ遺伝子を持つ仲間のために戦い、働き、死んでいくという。

卵を産んだ場所で息絶えたサケの死骸は、分解されてプランクトンの発生を促し、それが稚魚の最初の餌になるという。直接の親ではないサケの死骸も、同じように貢献している。

親ではなくても、遺伝子を守り、伝えることができる。誰もがその役割を担っているのだ。

私たちの目の前には重度の障害で寝たきりの人がいる。死が間近に迫り終末期にある人もいる。何のために生きているのか。その答えのひとつを本書から考えてみたい。

稲垣栄洋 著(2019年)

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