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「#旅のようなお出かけ」企画に参加してくれた、 かいよさんの「鈴の声」を読んだ感想。

 県庁所在地同士の県間移動と聞けば、遠くに移動するイメージがありますが、京都府と滋賀県に関してはそんなことはありません。JRでたった2駅しかない、わずかな距離。もちろん通勤でも気軽に通えます。
 さて第11弾のかいよさんが、書かれた作品「鈴の声」は、そんな京都と大津という、帰宅のための短距離移動がお出かけのテーマとなっております。


1、セレクトショップで疲弊の日々

 舞台は京都の寺町三条のセレクトショップ。かつては平安京の東の端だった京極通り。しかし現在は三条通と四条通を結んだ寺町京極と新京極という南北に2本のアーケードの商店街並んだ賑やかな地域です。さらに途中からは、東西に京の台所として名高い錦市場に通じるという繁華街の中核地点。ここで働く主人公・恭一は、夏バテとは明らかに違う心身疲労に悩んでいました。

 バイヤーという名の雑用をこなしながら、日々の接客業。彼は感性が鋭いため、接客には非常に向いていて客の受けも良いのです。ところがそれが仇となって、負の感情が襲うことが多々あり、それが自らの疲労を蓄積させていました。 
 この日もそんな疲労を蓄積させながら、どうにか1日が終わり閉店後の作業をしていると、思わぬ珍客がやってきます。

2、妹のような娘との帰り道

 それはすぐ近くにある美容院のオーナー。恭一もここでよく髪を切るほどの御近所付き合いのあるお店です。ここで従業員の娘「川村玲」を、仕事が遅くなり、電車ではJRの乗換とか時間がかかるので、恭一の車で送ってあげてほしいと言います。玲とは恭一にとってはかつて亡くした妹と同じ3歳年下。実家も美容師だという彼女は、恭一にとっては気軽に名前を呼び捨てできる「妹」のような存在です。一度だけ髪を切ってもらったこともありました。そこでオーナーの頼みを引き受けます。
 恭一の住んでいる大津から見て、彼女が住む瀬田という場所は、目と鼻の先です。そもそも断る理由が思いつきません。

 こうして買い換えて間のない軽自動車に玲を乗せて出発進行。三条通から河原町通りを南下。賑やかな四条通は近くにあるのは先斗町、並行して流れる鴨川を渡って東に行けば祇園方面です。
 だけどそのまま通り過ぎて五条通でようやく東に。弁慶と義経が戦ったとされる五条大橋を渡って東山までくれば、すぐ近くに清水の舞台で有名な清水寺とつづきます。正しく観光客が喜びそうな王道ルート。そこから低い東山の間を越えれば小さな山科の盆地を横切ります。県境の山間を過ぎればもうそこは大津。琵琶湖が見えてきます。

 ところが大津に入ると玲が草津のインドネシア料理店に行きたいと言い出します。もし病死した妹が生きていれば、同じように兄にわがままを言うのだろうか? そう無意識に感じたかどうかはわかりませんが、恭一はその申し出に同意。お出かけに最も機動力が高い車だからこそできる芸当ですね。

 さて琵琶湖に架かる橋と言えば琵琶湖大橋が有名ですが、同じくらいの距離がありながら、少し控えめな存在感があるのが近江大橋。橋から見える夜景の度合いはいかほどに。そこを渡れば草津の町。と言っても大津からそんなに遠い訳でなく、ナイトドライブには最適なコースです。

3、異国料理のディナーで聞こえる意外な音楽

 さてインドネシア料理店に到着しました。そこで意外な音楽にであいます。

デレク・アンド・ザ・ドミノスのレイラの間奏部分だ。店のスタッフの趣味なのだろうか。インドネシア料理店には似つかわしくないが、この曲を流すセンスの人間がこの店にはいるようだ。

 インドネシア料理店に限らず、アジア圏とかのエスニック料理に行けば民族音楽。インドネシアならガムランが定番です。しかしここはそうではありません。

ちなみに、音楽に疎い私はデレク・アンド・ザ・ドミノスのレイラと言うのがわからず調べて見ました。下に動画を貼りましたが「なるほどこれはいい曲だ」と感じました。

 余談ですが、東南アジアの都会、バンコクとかホーチミンシティに行くと、どんどん新しいスタイリッシュなお店が増えてきています。そこはもちろん民族音楽などありえない。こんなおしゃれな音楽が流れているお店が増えています。恭一の感性の良さが見事に調和した店で味わうものは未知の味。一緒に来た玲はインドネシア料理に詳しいのか、結局任せます。
 登場したナシゴレン、ミーゴレン、また玲が飲むビンタンビールと、インドネシアらしい定番フード・ドリンクが並ぶさまは、これだけで疑似海外体験ですね。ちなみにデザートで登場する甘いエスチェンドルは、恭一好みか否か。少なくとも玲の好みではありました。

4、夜の琵琶湖ロマンティックな夜そして妹以上の

 玲が夜景を見たいと言い出すので、そのままついて行く恭一。湖岸沿いにある駐車場に車を置き、そこから言える夜景の美しさ。恐らくは先ほど渡った近江大橋のイルミネーションのようなライトアップした姿も見えたでしょう。
 ここで玲は恭一が疲れたからこのプランを考えたと白状します。そのような思慮をようやく知った恭一。確かにいつもなら単なる移動として通過する県外も不思議とお出かけモードでした。異国の疑似体験で食べた食事。そして見落としがちな琵琶湖の素晴らしい夜景です。気が付けば疲弊していた心身が回復しているような気がしました。

 最後は瀬田の玲の住むマンション。最後に感性の鋭い恭一は「公共交通で帰っても意外に近いのでは」と見抜きます。
 でもなぜ玲は送ってほしいと願ったのか? ひょっとして彼女は自分の事を兄以上の存在と見ているのかも。自分の体の事を気遣ってくれた。「また店を誘ってほしい」と言って喜んで手を振っていた時の笑顔が忘れられません。
 帰り際に雰囲気ある瀬田の唐橋と鈴の音。妹以上の存在になるかもしれないのか、感性が鋭いからそう考えたのかもしれません。いずれにせよ心身を回復するお出かけ。玲が望んでいるのならまた誘ってみよう。夜の湖岸、来た道を引き返しながら恭一は、まだ行ったことの無い道の先に将来の長旅への可能性に思いをはせるのでした。

5、もし私がこの小説書いたら?

 そうですね。たとえばインドネシア料理の紹介時に、正式名称の紹介の後に分離するように焼き飯、焼きそばと説明があります。私はわかりますが、恭一のようにあまり詳しくない人は、どっちが焼き飯とか、ちょっとわかりにくいのではという気がしました。そこでビンタンビールを楽しむ玲はインドネシアに詳しそう。そこで彼女に「恭一さん、ナシはインドネシア語でご飯、ミーは麺。それからゴレンは炒めるとか、揚げる意味があるのよ」と、言わせてみたいですね。

 あとは、琵琶湖に架かる近江大橋の存在をクローズアップさせたい。最初に渡る際、琵琶湖の大きさを体感するような表現を加え、食事の後夜景を見る際に、そこから見えるであろう近江大橋を見て「あの橋さっき渡ったのね。あんなに美しいんだ。光のロープみたい!」みたいな会話を付け加えそうです。


まとめ

 この作品は、随所にリアリティアのある表現もあって、京都や琵琶湖の雰囲気が断片的に分かって、楽しいお出か家になっているような気がしました。送ってもらうという口実で、夜のドライブデートになったというあたり、日々のストレスが開放されながらそれに気を使ってくれた存在。彼女とこの後どういう関係に発展するのだろうかと、今後の展開も気になります。
 最後に走ったこともない道。そこを目指して鈴の音を連想させる玲とこれから長い旅が始まるのだろうか?ついつい続編を読んでみたくなりました。



※事前エントリ不要! 飛び入りも歓迎します。
10月10日までまだまだ募集しております。(優劣決めませんので、小説を書いたことが無い人もぜひ)


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