「#旅のようなお出かけ」企画に参加してくれた、青海空人 さんの「月の檻」を読んだ感想。
企画の募集は一応終わりましたが、参加してくださった方への感想の記事はもうしばらく続きます。今週中には終われるようにやりますので、もう少しお付き合いください。
第二十七弾の青海空人さんの「月の鑑」。この物語は、ブルーハーツの「月の爆撃機」から創作された作品。本格的な物語の中に「旅のようなお出かけ」が、しっかりと含まれています。
1.先輩・出水の愚痴を聞く須田 そこに「月の爆撃機」が流れてきて(前編)
舞台は居酒屋で、和食店で働く先輩と後輩。先輩の出水亮介は、女にフラれたことへの愚痴を、後輩の須田雅孝に語ります。社会人でも上司や先輩の愚痴は本当はつらいもの。でも出水が「いい奴だ」と思えるほど後輩の須田は、話を聞いてくれます。シンクロして憤っていること自体うれしいし、本当に強力な味方がいるというところでしょうか? 現役大学生という立場も、高卒フリーターの出水にとっては憧れ。それでいて慕ってくれるのですからこれはありがたい。
そんなに飲めないけど、出水にとっては気持ちの上でいつも以上に酔えたのかもしれません。そしてここからがいよいよ話の本題に。ブルーハーツが歌う「月の爆撃機」が店のBGMとして流れてきました。そしてそれは須田にとって、懐かしき記憶が蘇ってくることへの始まり。
2.夏目美月との出会い そしてブルーハーツへの想い(前編)
ここからは回想シーン。須田が高校2年生のこと。軽音楽部に所属していて、ロックバンドを組んでいました。この日もエレキギター片手に演奏しようとしたら、近所に引っ越しする夏目家からのあいさつ。その中に同じ年の美月がいました。
ショートカットの女子で、男子のように見える不思議な美月。同じクラスに転校生と入ってきますが、最初の1か月は会話もなく続きます。須田にとっても転校生以上にロックバンドへの思いが強く、そのバンド活動がなかなか認めてもらえないことに少しの苛立ちもあり、むしろそちらのほうに対してひたすら練習に励みます。
そして仲間内で盛り上がる定期演奏会の直前。その美月が声をかけてきます。「月の爆撃機」の演奏の有無を。それに何気なく答える須田ですが。
夏目はそんな僕の態度が気に入らなかったのだろうか、眉間に皺を寄せながら、
「中途半端にやったら、絶対ゆるさない」
こんな大きな声、出せるんだ。
今まで聞いたこともないような大声で、この曲への想いをぶつけてきます。今までそんなこともなく何気なく演奏していたの、に下手なことはできないと思いました。そして実際に演奏会に美月が来ています。結局、この曲は封印となってしまいました。
「ヤバい奴」と美月を一時は拒絶しますが、夏休みになると唐突に話しかけてきて「自由研究」を手伝ってほしいという。転校生として入ってきても、クラスメイトにコミュニケーションを積極的に取らない美月は、完全に浮いている。結局は、近所に住む須田だけが頼りだったのだろうか。
「須田君にしか頼めない」この言葉ひとつ聞くと、断れるわけがない。ここは不思議な魅力を持つ彼女に、須田は一肌脱ぐことにします。
3.ブルームーンから向かった草津の湯(後編)
「ブルームーン」という喫茶店は、高崎駅から徒歩圏内にありました。そんな場所から夏目美月の自由研究を手伝うために向かった先は草津温泉。
群馬は関東でも温泉どころ。高崎市民の須田にはそんな魅力はわからないが、引越してきた夏目家にとっては珍しいもの。伊香保、四万、といった他の温泉への研究も美月は考えていました。
高崎からのお出かけは、途中専用バスに乗り草津の湯へ。10度違うという温泉地には有名な湯畑があり、そんなスポットを巡りながら、メインの温泉街でそばを食べるふたり。自由研究と言いつつ温泉デートを楽しんでいる。少なくとも周りからは、そう見えるのでしょう。
そのあとはカピパラ、西の河原公園の足湯、締めは「湯もみショー」と草津を存分に堪能したふたり。温泉なら本来旅館の宿泊や日帰り入浴とか思いつきますが、高校生ならそんな余裕もない。温泉街の見どころをしっかり押さえれば、存分に温泉を楽しみながら研究成果が出せる。
こうして自由研究が終わり高崎に戻ったときには、三日月が浮かぶ時間帯となっていました。
4.「月の爆撃機」の真相とは そして出水も気になる夏目美月とのその後?(後編)
美月はベンチを指さす。三日月を眺めながらしばらく過ごす夜。今日付き合ってくれたことへの礼をしてくれます。須田は写真の出来栄えだけを気にしました。
しかしここで美月は謝罪します。それは「月の爆撃機」のこと。ほかに心当たりはありません。なぜあそこまで眉間にしわを寄せてまで大声をだしたのだろう。その真相は、中学の時に好きになった曲。生演奏が聴けると知ってうれしくなった。でもそのときに発したのが、なぜかあの言葉。
須田は不思議に変換される美月の言い訳に思わず笑いがこみ上げます。それが原因だったのかと逆に質問されると、須田も種明かし。あくまでバンド内の問題であって美月は無関係と伝えます。
今まで言葉足らずや間違えてしまうという美月。途中からは名前の「月」に束縛されているとつぶやきます。実は兄がいて彼は死んだ。母は満月の日に兄に会えるという。だから兄と同じ長さの髪が似ているから、私の髪は短いのだと。
聞けば聞くほど深い話が伝わります。須田はそんな美月に「捕らわれた檻」に閉じ込められていると悟り、爆撃機で破壊して解放してあげたいと思ったのでした。
そして回想シーンが終わります。出水はその後の美月との関係がとが気になって仕方がありません。しかし須田は「恋バナ」ではなくあくまで「思い出話」と言い張ります。
後ろでは酔ったスーツ族のざわめき。フリータの出水には嫌なシーン。そして須田も立ち上がり、ここで立ち去ります。一人残された出水。さて彼はなぜ中座したのだろう?それは分からない。でも気になる恋バナの続き。
でもそれは読者も同じ。しかしこれは読者の想像にゆだねられるのでしょう。
「旅のようなお出かけ」に隠されたヒントは、恋バナか思い出話か、それとも。
5.もし私がこの小説書いたら?
そうですね。もし付け加えるとすれば前編が終わって、後編の冒頭かなっと思います。前後編が切れているタイミングで仕切り直しでしょうか?あくまで温泉のお出かけは回想シーンなので、ここでいったん現実戻にしてから再び回想シーンに戻る。例えば後半の最初にはつぎのように。
「美月ちゃんか、そういう不思議な子って、聞いているだけでも魅力的だなぁ。で、向こうから『手伝ってほしい』って、スダちゃん、お前モテモテじゃないか」「どうでしょうね。まあ近所だからでしょう」
「で、自由研究とかいいながら美月ちゃんと、どこかお出かけしたのか」「はい、まあ」「どこ、遊園地か?それとも映画館!」まるで水を得た魚のように元気よく質問攻めする出水。対照的に須田は静かに首を横に振った。
「じゃあスダちゃんどこだよ」「草津温泉」「く・草津温泉?なんで高校生が、そんなジジババが行きそうなところ」「だから自由研究なんですよ」といって、須田は、レモンサワーを軽くを口に含んだ。そして話の続きを始める。
とか入れてみたいですね。
まとめ
本格的な作品で、じっくりと読ませていただきました。旅のシーンは少なめでしたが、重要な役割を担っていました。回想シーン最後のクライマックスのところや最後に読者に結末をゆだねるようなところもいいですね。旅のようなお出かけは、思い出の一ページを彩ってくれる。
素敵な作品をありがとうございました。
おまけ:いつもありがとうございます。
※募集は終わりましたが、企画参加してくださった方の作品を集めています。よろしければご覧ください。
第一弾が販売されました。
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