見出し画像

聞ひたゞけでも身の毛が逆立つ地獄は既に血肉と化して

2022年2月24日、ロシアとウクライナが戦争を始めました。ウクライナ東部にある親ロシア派の州を独立国して認めた後に、武力支援と称してロシアはウクライナ国土に侵攻しました。首都キエフを陥落させてウクライナ大統領を拘束する軍事作戦でしたが、ウクライナ大統領はウクライナ国民に向けて武装蜂起のゲリラ戦を指示します。侵攻開始から3日が経つ27日現在、ロシア軍は苦戦してキエフ陥落には至っていません。ロシア、ウクライナ双方共に多くの死傷者が出ています。28日にはロシア、ウクライナとの停戦交渉が始まり、3月に入っても何度も交渉を重ねています。その間、抗争は続いていますが、ロシア軍の士気の低さと、武装蜂起したウクライナ国民の強い抵抗により、一方的な戦勝を収められない状況にいます。ウクライナはNATOに加盟していないので、欧米のNATO加盟国は、ウクライナに侵攻するロシアを止めるための武力行使は行えませんが、ウクライナに向けての武器供給などの間接的な支援、ロシアに対する経済制裁を始めています。国連総会ではロシアに対する非難決議が可決されています。このnoteを公開する3月19日現在も膠着状態が続いていて、ウクライナ大統領は世界各国に向けてオンライン演説を行いウクライナ支援を呼び掛けるなど、過去の戦争には見られない戦略が目立ち始めています。

2022年の今の時代に、前時代的な侵略戦争が始まるなんて思ってもいませんでした。それと同時に、どんなに人道主義と民主主義の意識が高まっていても前時代的な武力解決を選ぶ政治指導者が現れてしまう現実に、身を震わせています。ロシアのプーチン大統領は、誰もがやるはずがないと思っていたことを断行してしまったのです。人によっては、今の時代になっても批判を恐れずに大胆な行動に踏み切る者がいるものだなと評価するかもしれません。それこそが、21世紀の新時代に入っても人間は前時代の狂暴性を忘れはしない、ということを証明しています。だからこそ、ウクライナ国民に武装蜂起を求めることで、前時代の狂暴性には前時代的な対抗をするしかない、とウクライナのゼレンスキー大統領は決断したのでしょう。

そして、世界各地でロシア侵攻を非難する反戦デモが広がっていきます。ロシア国内でもプーチン政権を批判するデモが行われましたが、逮捕者が続出しました。それはロシア国民とプーチン大統領が一枚岩で繋がっていないことを証明しています。全てのロシア国民がウクライナ侵攻に賛成している訳ではない。プーチン大統領の独裁的で独りよがりな狂気がウクライナ侵攻を決断させたと言ってもいいでしょう。しかし、少なくとも血を流すのは国民です。ロシア兵は血を流し、それに対抗するウクライナで武装蜂起した国民も血を流すのです。このような狂気の只中で、ロシアとウクライナから遠く離れた日本の平和な安全圏内で、deus ex machinaというテクノポエトリーリーディングユニットは新作を発表します。題して『DoglaMagla: rebootmix』 大正時代に夢野久作という作家が発表した小説『ドグラ・マグラ』を、読了したら精神に異常を来すと言われている小説のリーディングを、既に異常を来している現実世界に向けて、発表します。

……このサムネイルを見て、えっ?と思った人もいるでしょう。ロシアとウクライナが大変な時に発表する、日本の知る人ぞ知る大正ロマン溢れる怪奇小説をモチーフにした動画が、何故こんなにペラっとしているのか。ウクライナの平和を求めるイメージや、大正ロマンの鬼滅の刃的なイメージが普通だと思う人もいるでしょう。……普通じゃダメなんです!その理由を下記で説明しますね。

サムネイルに引用している二人はThe KLFというテクノユニットです。KLFの意味はKopyright Liberation Front(著作権解放戦線)になります。知る人ぞ知るABBAのダンシング・クィーンを無許可でサンプリングして曲を作り、それでABBAからクレームが来たので、交渉しようとABBAの事務所に訪れたが留守だったので仕方無く事務所前で大音量で曲を流して、その後に近くの畑で持参したクレーム曲の入ったレコードを焼却していたら農夫に怪しまれて発砲されたという、ネタのようなエピソードを持つ二人組です。そして我々deus ex machinaはThe KLFをリスペクトして、ふんだんに既存映像を引用した『DoglaMagla: rebootmix』を作りました。クレームが来たら大音量で笑って胡麻化します。ロシアとウクライナが大変な時に、怒りと悲しみに匹敵する笑うという感情を、我々は守っていく所存です。

原作の『ドグラ・マグラ』は知らない人はいないでしょう。もし知らなかったら、このWEBサイトがわかりやすく説明しているので見てください→https://koten-ibuki.com/dogura-magura/ 個人的には『ドグラ・マグラ』は上記画像の左端にある、米倉斉加年さんのエッチなイラストが一番ドグラ・マグラを象徴しているなと思っています(1981年初版の角川文庫版ドグラ・マグラの表紙に米倉斉加年さんのイラストが使われています。1983年に私家版として出された画集、絵浪血花にも同意匠が掲載されています)
そして右側の少しだけ昭和の匂いが漂う好青年三人組は、YBO2という名のロックバンドです。彼らは『Doglamagla』という曲を1986年に発表しました。それは原作ドグラ・マグラに挿入された「外道祭文気狂い地獄」の一節をストレートに歌った怪作です。大正時代のチャカポコリズムをハードコアパンクの性急な2ビートで現代風にアレンジして、和楽器の尺八の音色をジミ・ヘンドリックスのようなノイズギターで再構築を試みる、クールジャパン的なセンスが爆発しています。歌唱法は明治大正のオッペケペー節が進化した80年代日本語ロックのジェンダーレスな叫びであり、deus ex machinaのリーディング担当のM*A*S*Hはこのジェンダーレス性をリスペクトしてリーディングしています。

deus ex machina音楽担当のvanillableepは、『DoglaMagla: rebootmix』はYBO2に引き摺られず、YMOのテクノデリックとSPKのZamia Lehmanniを意識した、と語ります。YBO2とYMOとSPKの略語が魔術の呪文のように並びます。アルファベットの頭文字を少しだけ摺らすことでその効果は絶大に変わる。そのことをvanillableepは熟知しています。
YMO (Yellow Magic Orchestra) は、やはり知らない人はいないでしょう。テクノを流行らせた日本のおじさん三人組と説明するのが粋でしょう。1970年代にアナログ・シンセサイザーを取り入れた実験音楽はタンジェリン・ドリームやクラフトワークなどがオリジネイターだと言われましたが、そこにポップミュージックのエッセンスとポップアートのアティチュードをエスプレッソのように濃縮させて、世界の辺境であり特異点でもあった日本から全世界に向けてテクノポップを輸出することで圧倒的な文化的収益を得たのがYMOなのです。そんな彼らの五枚目のアルバム『テクノデリック』は当時登場したばかりのサンプラーを駆使して、今まで強調してきたポップ要素を全て排除した上でミニマルに繰り返される実験的音像の重なり具合に新たなポップ性を見出だす、メタ認知のような芸術作品に仕上がったのです。
SPKはSozialistisches Patientenkollektiv(社会主義患者集団)という意味を持ちます。オーストラリアの精神科病院の患者と看護人が1978年に結成したインダストリアルノイズ・ユニットです。後に患者だったニール・ヒルは自死をして、看護人だったグレアム・レヴェルはその後ハリウッド映画のサウンドトラックのコンポーザーとして活躍していきます。このように説明すれば前々々々述のThe KLFのようなネタ的な興味本位を抱く人も現れるでしょう。Fuck off. 初期SPKは電子的なハーシュノイズと人間の狂った叫びが同居する名状し難きものでしたが、今回vanillableepが推す『Zamia Lehmanni (Songs of Byzantine Flowers) 』は、ニール・ヒルを失ったグレアム・レヴェルが亡き友に捧げるレクイエムとして制作したものかもしれません。過激なノイズ成分は影を潜めて、ノイズの代わりにゴシックでトライバルでダークアンビエントな美的成分が全面に散り嵌められています。……ここで説明したYMOの微細な抒情性とSPKの愛憎翻る抒情性を、原作ドグラ・マグラの大正ロマンの抒情性にぶつけることによって、現代的なエモみ率の400%超えを狙う。それがvanillableepの音楽的思想なのかもしれません。

The KLF, 米倉斉加年、YBO2, YMO, SPKとイメージが目紛るしく変化していきました。原作ドグラ・マグラの固定観念を壊すことが、我々deus ex machinaが作ったDoglaMagla: rebootmixの使命です。そしてイメージの変遷はこれで終わる訳ではありません。リーディング、音楽に続く第三の表現形態である動画のイメージ変遷を下記で説明します。

この訳のわからないGIF動画はdeus ex machinaが去年の秋に作った『ダンウィッチの回』の動画の一部分を切り取ったものです(全編はその下にあるYouTubeのリンクからどうぞ)。これはポエトリーリーディングではなく、アマチュアB級作家を自認する(日曜画家と言われたアンリ・ルソーに似たアティチュードを持つ)小林猫太さんの小説をリーディングしています。原作小説は実はH.P.ラヴクラフトのクトゥルフ神話を主題に。だから動画も正統派クトゥルフのイメージ通りにすればいいものの、GIF動画を見ればおわかりのようにクトゥルフ系クリーチャー(1955年公開のアメリカ映画『水爆と深海の怪物』から引用)の後でいきなりラーメン!(立川ラーメンスクエアにある麺屋ごうせいの雪国長岡生姜醤油ラーメンをM*A*S*Hが食ってます。小林猫太さんが新潟出身だから愛を込めた挨拶になっています!)つまりこの段階に於いて我々は「クトゥルフの禍々しさとはラーメンのメタファーである!」という、常人のエンタメセンスでは理解できない境地に達したのです!(このように説明すると、我々のことを理解できない人が今後も増えていき、デメリットに繋がる可能性がありますが、それでも正直に説明していく所存です!)

このGIF動画は『ダンウィッチの回』の次に作った『Thema from deus ex machina』の一部分を切り取ったものです。我々はリーディング担当M*A*S*H、音楽担当vanillableep、動画担当M*A*S*Hと役割分担していますが、これは動画もvanillableepが担当、vanillableep成分を100%近く抽出した旨さを提供しています。『ダンウィッチの回』の常人が理解できない異常性と、新作『DoglaMagla: rebootmix』の著作権解放戦線的な破壊に至る以前の状態である、シンプルなディレッタントの美しさが『Thema from deus ex machina』に秘められています。これが、deus ex machinaの本質なのです。

これらの『ダンウィッチの回』『Thema from deus ex machina』成分を更に熟成させたものが『DoglaMagla: rebootmix』になります。これ以上、説明はいらないでしょう。まずは下記『DoglaMagla: rebootmix』から抜き出したGIF動画をティーザー予告感覚で体感してください!

どうですか、お客さん!……客なんてどーでもいいんだよ! バイブスの無い奴はとっとと帰れ!……恐らくこんなことを言えば今流行りのキャンセルカルチャーで『DoglaMagla: rebootmix』はガン無視されるかもしれません。まあでも、それで無視する人はマジにそれでいいですよ。著作権解放戦線を謳うが故に、このティーザーGIF動画を見てやべえと言う人は出てくるでしょう。通報する人も出てくるでしょう。それでも、ロシアが国際法を破ってウクライナに侵攻して、ウクライナ国民は戦える者は家族と今生の別れをした後にゲリラ戦でロシア兵に立ち向かい、ロシア兵は訓練だと聞いていたが実戦なのでウクライナ国民を殺すことができずに震えて、ロシア国内ではプロパガンダが効いてウクライナはネオナチだと信じる者が出てくるという、現代の狂気の只中で、著作権違反なんて戯言だ! 聞いただけでも身の毛の逆立つ地獄というものは『DoglaMagla: rebootmix』の中にあり、その中にあるリーディングを、音楽を、映像を、完全に噛み砕いて飲み込んだ後に、地獄の業火は喉元過ぎれば熱さを忘れて、狂気を飲み込んだ人間の体内には狂気に対抗する抗体が生まれて、狂気は健常者の血肉と化す。それが『DoglaMagla: rebootmix』の本質である。これを見て、笑うんだ! 戦争に怒り、悲しむという人間の根源的な感情に匹敵する、笑うという感情を思い出せ! 『DoglaMagla: rebootmix』は戦争に反対する。戦争を行う愚かな人間を笑い飛ばす。人間は時には狂う。狂えば人間同士は憎しみ合うのか? そうではない。笑い転げて殺し合うのを忘れてしまうこともある。それが『DoglaMagla: rebootmix』の狙いだ。さあ、みんな! 聞いただけでも身の毛の逆立つ地獄というものを、思う存分に愉しんでくれ!

この記事が参加している募集

スキしてみて

休日のすごし方