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【宣伝】Youtubeで創作怪談企画やってます

 実話怪談が隆盛である。各所で実話怪談を語るイベントが催され、実話怪談本が次々と出版され、実話怪談を語る怪談師が続々と生まれている。そんな中で、創作怪談をやってみようと思ったのである。

 単純に、自分が創作怪談が好きだということもある。しかしこの連続企画には裏テーマがあるのだ。サブタイトルの「variations of darkness」というのがそれである。「暗闇の種類」。私は様々な種類の暗闇を取り揃えてみたかったのだ。だが、「こんな副題をつけておいて、大した種類が集まらなかったら格好悪いな」と弱気だった私は、当初動画にこの副題を入れなかった。だが嬉しい大誤算により、私はこの副題を復活させることになる。それについては後述する。
 この企画を思いついた私は、早速闇を作ってくれそうな人達に声をかけて回った。要は「この人いい闇持ってんな~」という人達である。失礼な言い方かもしれないが、そうとしか言いようがない。これは訓練して作れるものではなく、またそうなろうと思ってなれるものでもない。「闇についての物語」を語る人はそこそこ居る。だが「闇」そのものを作れる人はそうそういない。ただ、私にはそのような人たちを嗅ぎ分ける嗅覚がある。私自身にはセンスも才能もないが、それらを本当に持っている人達を見つける才能はある訳だ。
 最初に書いた「嬉しい誤算」は一人目から早速やってきた。私の日記に度々登場する、怪談師のインディ氏である。彼は元々特殊なパターンで、大抵闇側に属しているゲストの面々に対し、この人だけは完全に光なのだ。ただ、彼くらい強すぎる光だと、出来る影は濃くなって、結果、闇になる。結局闇が出来上がる訳だが、その成立過程が前述のように複雑、という次第なのだ。
 インディ氏はいわゆる「ヒトコワ」というジャンルに特化した怪談師であり、今回もそのような「人の闇」の話が出来上がってくるのだろうと思っていたら、なんと「歴史の闇」、詳しく言うなら「現代史の闇」をテーマにした創作怪談を作ってくれたのである。ここで一気に闇の種類に幅が出たと思った。私のテンションは爆上がりし、これならいけると一度上げた動画のタイトルを再編集し、副題を加えた。
 次に来てくれたのは作家であり大学の准教授でもある朱雀門出先生である。こちらは「闇の一人博覧会」とでも言うべき「闇のフルコース」であった。夜の闇、異形の闇、心の闇、未知の闇…… 様々な闇が詰まった、闇の遊園地である。まさにこの企画を象徴する創作怪談だと、一人勝手に悦に入った。
 更には朗読Youtuberの136氏も来てくれた。普段は「誰かが書いた作品を朗読する」立場の136氏であるが、この企画では自身で物語を書いてもらった。ギミックが各所に散りばめられたトリッキーな作品で、普段文章を書かぬ方の作品とは思えない。やはり私の眼は確かであったとほくそ笑んだ。
 闇の幅を広げてくれたのがインディ氏であるならば、深さを掘り下げてくれたのがラッパーのハハノシキュウ氏であった。深く、昏く、静かに沈んでゆくような闇。底に着いたと思ったら二重底で、そこから更に落とされる。その構造は無限を感じさせる。そして何より闇が深い。命、あるいは命の誕生の否定。それはやむを得ぬものではなく、気軽に、何の気なしに否定される。そして、それを否定しているのは怪談に登場する謎の女性ではない。この話の主人公・語り手の方なのだ。その闇の深さ。

 創作怪談を語ってもらった後はインタビューをさせてもらった。自作解説をしてもらったのである。実を言うと自分は「作者本人の自作解説」というやつが大好きで、むしろ自分にとってはこちらがメインである。解説してもらうために怪談を作ってもらった……とは言いすぎであるが、それに近いものはある。つまり自分は、映画館で映画を観れば必ずパンフレットを買って監督や脚本家のインタビューを読み漁るタイプの人間なのだ。しかしこれが予想以上の収穫であった。
 特に取れ高の多かったのが朱雀門先生である。元々中国古典文学に詳しい上に海洋生物学の准教授であるという、理系文系どちらの知識もカバーしているスーパーマンであるから土台からして恐ろしいほどの知識量なのだ。中国の古い伝承である「回煞(かいさつ)」についての話に、SF映画「ソラリス」の原作者スタニスワフ・レムが書いた架空の書籍の書評集の話、怪談の書き方の秘密、果ては怪談集の話の並びについてのこだわりまで話して下さった。もう大盤振る舞いである。こんな話の面白い准教授がいる大学の学生が羨ましくて仕方がない。途中からインタビューである事をすっかり忘れてひたすら面白がって聴いていた。ただし、この回は私が二種類の録音ソフトのうち一つを起動し忘れて30分以上を録りそこね(もう一つは途中で気づいて起動した)、朱雀門先生に冒頭をもう一度喋ってもらうというトラブルがあった事を告白しておく。先生、その節は本当に有難うございました。土下座。
 136氏は自身でもたびたび朗読のこだわりについて語っておられたので、ファンにとっては同じ話の繰り返しになってしまった部分が多い。この点については反省しきりなのだが、新しい話も幾つか引き出せた。速読に挑戦したことがあるという事や、朗読する際に映像をイメージするのはアニメやゲームが好きな事が関係あるかもしれない、というくだりである。自分は映画もドラマもアニメも縁が薄い為、なるほど映像作品にはそのような効能もあるのかと感心しきりであった。そして話を聞いていてわかった事は、朗読技術のこだわりを突き詰めると技術と心構えの境目はなくなるものらしい、という事である。一つの事を突き詰めた人の話というのはやはり面白い。著者が「この人に朗読してもらって良かったと思ってもらえるように」という言葉には136氏の優しく誠実な人間性を見た。
 仰天したのはハハノシキュウ氏である。彼はラッパー兼小説家であり、更には「ラッパーの怖い話」という怪談イベントで自作の創作怪談を語る事もある。小説にしろ怪談にしろ、彼の作品の特徴は「伏線回収の鬼」である事だと思っていた。かなり綿密なプロットを書いて制作に臨んでいるのだろうと踏んでインタビューの構成を考えていたのだが、いきなり「プロットは一切書かない」と言われて頭が真っ白になった。ならばどうやってあれらの作品を書き綴って来たのかと混乱したのだが、どうやらラップの「サイファー」という文化に関係があるらしい。複数のラッパーで短いラップをどんどん繋げていくという、俳句で言うところの連歌みたいなものだ。その際には勿論直前のラップの内容に繋げたり、フレーズを拾ったりする。それと同じ感覚で、自分で書いた小説の内容を自分で拾ってオチをつけている、という事のようなのだ。正直、そんな書き方で小説を書く作家には初めて遭遇したので、最初は理解が追いつかなかった。まさに驚天動地である。冒頭からいきなり予想外過ぎて、インタビューもボロボロであった。いつかリベンジさせていただきたいと思っている次第である。
 その優しい人柄がモロに出たのがインディ氏であった。なんと氏は、私のインタビューに答える為に、わざわざ裏設定を盛り込んで話を作ってくれたのである。収録前に「作者の自作解説が大好きだ」と私が言ったのを気に留めていて下さったらしい。「解説をする為の裏設定」を前提に話を作って下さったというのだから感激した。まさに親切の権化である。そして勿論、その裏設定というやつが面白い。ゴールデン街に実際に住んでいるインディ氏ならではの裏設定なのである。インディ氏の特徴として、幅広い知識の上に自身が走り回って突入し聞き込みをした体験を積み重ねるという行動原理があるのだが、それが最大限に発揮された裏設定であった。

 なお、この企画に出演して下さった方々の共通点は「全員性格が良い」という事である。当然だろう。チャンネル登録者数2桁、などという弱小チャンネルの動画に出てくれるのだから性格は良いに決まっている。それが何とはなしに嬉しかった。この世界にも、まだ天使は残っているのである。しかし、そんな性格の良い人に限って話が面白いのはどういう訳だろう。どれだけ話を聞いていても飽きないのである。
 もしこれを読んで下さった方で、少しでも当企画が気になった方が居たなら、Youtubeでゲストの方々の名前を検索して、インタビューを聴いてみてほしい。なにもチャンネル登録をする必要はなく、動画を自分のリストに入れておけば登録しなくてもいつでも動画が見られるのである。できればこの動画を、そしてゲストの方々のチャンネルを観に行ったり、イベントを観に行ったりしてみてほしい。絶対に、損はしないから。

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