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母娘の密な時間10

 金曜日は月いちの通院日だ。先月は腰痛がひどく動けなかった竹子の代理で、薬だけ処方してもらっていた。
「薬だけでなく、注射も必要ですからご本人が来てください」と看護師。腰痛がひどく移動が困難のため、通院予定を一週間延長申し入れ受理されていた。

 その当日の朝、竹子は久しぶりにお洒落をする。鏡をもってもらい、顔にクリームを塗り眉墨と口紅で彩った。外気に触れるのも久しぶりだ。寒いのか暑いのか、半袖で充分かズボン下は必要か、迷う姿はおんなそのもの。思うように動けずイラつき、ベッド上から引き出しの三段目からとってきて、右のタンスに入ってるはず、と指示が飛ぶ。ウチは新米スタイリストみたいにあちこち走り回って、外出前から息切れする。

 病院は空いていたが、竹子は採血と移動で疲れてしまったうえ、看護師達はぴりぴりと緊張した空気であり、診察を待つ間ソファーで横になるしかなかった。
 主治医は二か月ぶりに来院した車いす姿の竹子に驚いたが、逆にウチは医師の姿に驚いた。医師は眼鏡の上にゴーグルをかけ、感染防止対策を万全にしていたのだった。その日は触診はなかった。注射を受けひと月分の薬を処方してもらう。普段は混んでいる会計も人影まばらだ。
 その総合病院は感染患者受け入れ病院のひとつであり、空いていたのはコロナの影響だったのだ。

 帰宅後、疲れて眠ってしまった竹子。おやつの時間にはじめた12種類の薬の仕分け、朝・朝晩・昼・夜と分類し一日一回分ずつ袋詰めするのに2時間かかった。そろそろ夕飯の支度をしなくては。竹子もウチもしんどい一日だった。

花さかりのジャスミンの香りが、庭から漂っていた。

#いま私にできること

#母 #通院 #介護

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