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金の糸

「金継ぎ」とは
欠けたり割れてしまった陶器の破片を、金や漆を使ってつなぎ合わせ繕うこと。金の糸(継ぎ目)が加わることで、元の器よりもさらに価値ある芸術に生まれ変わる、とも。

さて、本編の舞台はジョージア。旧ソ連領土だった時代を生き抜いた三人の老人の最終章である。

冒頭、エレネは(誰も覚えてくれていない)自分の誕生日のためにおめかしする。赤い髪のエレネは前衛的な作家だが、杖が無くては生活できず、若かりし頃のようにタンゴを踊る事も出来ない。
旧体制派だったミランダは身体に不自由はないが、アルツハイマー症候群をわずらっており、エレネの娘(ミランダとは嫁姑関係)は一家との同居を提案する。
そこへ、数十年ぶりに、元恋人のアルチルがエレネ誕生日祝いの電話をかけてくる。

何気ない会話の中で、エレネとアルチルの二人がまだ想いあっていることが分かるのだが、移動もままならない老人どおしゆえ、燃え上がるのではなく温もりのある情愛だ。
そして、エレネとミランダはかつて旧ソ連政府側と反政府側と明かされる。三人は「金継ぎ」のように過去のほころびを繕い、人生を再生させ、生きる希望を持つことができるのか。

※以下、ネタバレをふくみますのでこれから観る方は要注意

ピアノの連弾。中庭を囲む階上と階下の住人とのやりとり。ワインを愛する国ならではの食卓。
印象的なシーンは数あれど、私がもっともドキリとさせられたのはこの言葉。
「(旧ソ連時代の)政党会議でソノ本は発行禁止になったの。」とミランダ。
 まさか!ミランダが会議で発言したせいで?それって真実?
「そのせいで、私は20年間たったの1行も書けなくなったのよ」と絶句するエレネ。

ミランダの発言はアルツハイマーのせいで、真実なのか妄想なのかはっきりせず、もやもやするのはエレネも観ている側も同じだ。評議会が最優先される時代を指し、”会議が!会議が! ”つぶやきながら徘徊するミランダは痛々しい。※ソビエトとは評議会という意味らしい。
しかし、どんな過去でも修復可能だとしたら、はたして現在のジョージアは旧ソ連の蛮行を許せるだろうか。
迫害を受けたものは、粛清した相手と、わだかまりなく接することができるのだろうか。答えは霧の中である。

ところで、私も祖父から受け継いだ九谷焼の急須を「金継ぎ」工房に預けている。修復は短時間でできるものではなく、接着面を塗って乾かし、また塗って乾かす、という工程を数回経るため数か月も、私の場合ほぼ1年かかるのだ。

映画「金の糸」では、
時間をかけて修復しようにもすでに残された時間が少ない、のが切ない。

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ソビエト連邦について、その建国と崩壊についてはこちらを参考に.

ジョージアとウクライナの位置関係

金の糸     フランス/ジョージア(2021年)  ★★★▽☆3.5

監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ  
出演:ナナ・ジョルジャゼ, グランダ・ガブニア, ズラ・キプシゼ

#金の糸 #金継ぎ #ジョージア #旧ソ連  
#映画レビュー #映画感想文 #ムヴィオラ

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