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夜が明ける

「日本はすばらしい。町はきれいでゴミは落ちていないし,ホームレスはひとりもいないし,何より治安が良くて平和」と先週、L.A.出身男性から称賛された。

ほんまにそう⁈
外国人に見えないところで、無理しちゃてない?建前ばかり美化してるんちゃう。

そんな外からみた日本と実際とのギャップを真正面から書いてくれた西 加奈子さん。読了後、まだしばらく主人公ふたりの想いが抜けずに物語を引きずってしまう。

あらすじ

俺は、高校のクラスで北欧のアキ・マケネケンに似た男と友達になり,「おまえはアキだ」とその俳優のビデオを貸す。アキは超長身で吃音でみんなから恐れられているが、俺を交通事故から救ってくれた恩人であり、アキを演ずることによりクラスで存在感をましていく。

俺とアキのかなしみは異なる。

もとあるものを奪われる悲しみと、
はじめから無く知らなかった哀しみ

高校3年のある日、俺はいきなり父を事故で亡くした。平和な家庭は壊れ、父の借金が残った。俺の人生は一変してしまう。

かなしみの原因について考えると心が痛い

安心して過ごせる居場所をもたない子どもたち・若者たちは日本中でどれほどいるのだろう。

ヤングケアラー
ネグレスト
シングルマザーと貧困
交通遺児
奨学金の罠
自傷行為
過重労働
パワーハラスメント 

物語に記されるのは、泥底に溜まったオリのような現実。重くてつらくて、私は何度も本を閉じた。

表紙も西 加奈子さん画

「負けないで」
「負けるんじゃないぞ」
「絶対負けたくない」

何に勝ちたいの?
なに不自由ない友人に?理不尽な組織に?
国に?現実社会に?それとも自分自身?
「俺」はずっと闘っている。みんな汗や血や涙を流しながら必死で生きている。


そして、時折あいだにはさまれる、ひらがなの日記が深く、胸にせまる。

あかいはなをうってるおんなのひとがいた。ぼくはそれをかった。
かびんをもっていないから,こっぷにはなをさした。
とてもちいさなおんなのひとだった。
ぼくのことを、こわがらなかった。
もうあえないけれど、きょういちにちは,あのひとのためにいきよう。

西 加奈子/夜が明ける

最終ページで何度も繰り返される一文。そのことばの力を、その行間を自分ごととして染み込ませる。

明けない夜はない,というが本当に光はさすのだろうか。日本の未来を、希望を、信じたい。


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