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母娘の密な時間12

 線路にて立ち往生した経験はあるだろうか。100人中2-3人はいるかもしれない。しかし、電車にひかれそうになり乗客に助けられた人は滅多にいないに違いない。

 実家近くを走る路面電車、警笛代わりのちんちんという鐘を聴きながら、ウチと姉は育った。小高い丘陵の電車道からゆっくり下った先に、その停留駅はあり、そこから車道との真ん中に線路がひかれ、車と交わりながら一緒に徐行のような低速で走っているのだ。その道路を渡る際、路面電車の轍に、竹子をのせた車椅子の車輪が挟まったのだった。
 ひと月前のこと。その日は竹子の車椅子初デビュー、ウチにとっても車椅子を押すのは初体験だ。診療所で「圧迫骨折」全治三か月と告げられ、意気消沈したまま、停車駅前を渡ろうとしたところ、轍に車輪がはまり車椅子ごとつんのめった。竹子「わ、わぁ。助けて」。焦るウチは竹子プラス車椅子の重量を持ち上げられず脂汗が噴き出す。駅から発車しようと、ちんちん、ちんちん!とうるさく鳴らす電車。そして、駅に走り降りた女性(たぶん同じ年ごろ)が「大丈夫?」と車椅子を持ち上げるのを補助してくれ、九死に一生を得たのだった。線路のない電車道兼車道で、ほんまヤバい一瞬だった。どこのどなたか知りませんが、本当にありがとうございました。

 診察を終えた医者はそろそろ階段を上る練習をしてもよいと許可を出した。帰り道、今回はうまく車椅子で路面電車駅は来ておらず、そろりと車道を渡ることができた。ほっと胸をなでおろす。
 階段上っていいなら明日からお風呂も入れるなぁ、と促すと、今日は?今日からお風呂入ってもいいんちゃう、と竹子。ひと月ぶりの入浴にうれしそうだ。ところが、帰宅すると「だるい、今日はもうええわ」とベッドで横になるとすぐ眠ってしまった。まだまだ先は長いのだった。

ある日のごはん:手羽先マヨネーズ焼、ほうれん草、かやくごはん

#いま私にできること

#母 #おうち時間 #おうちごはん #チンチン電車



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