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サワーを飲んだら、ミイラ取りがミイラになるらしい

「ごめん、私4年前、浮気してたんだ」

結婚して2年目。ゴールデンウイークが終わり、ようやく上着がいらなくなって心地よい天気が増えてきたころに、突然の懺悔。

せっかく話題だったサワーと肉の店に来ておいしく楽しんでいたのに、急に味が分からなくなった。

「いや、今言われても」

なぜかその後、具体的に起きたことや男にされたことをとうとうと語られたが、気持ちが悪くなるばかりだった。

その場は苦笑いでごまかしたが、数日たった今、不信感が募っていくばかりだ。左手についてる指輪が、ここまで忌々しく感じる日がくるとは。

—-

4年前といえば、俺がまだ転職する前。名古屋に配属されて2年ほど、遠距離だった。

慣れない仕事、馴染めない人達に囲まれてひとりぼっち。日々思う事があっても、なかなかはけ口がないものだ。

それでも、とりあえずしがみついて頑張れるまでは頑張ろう。機械系の営業で、覚えることは多い。

文系出身で機械いじりをしたことのなかった俺は、毎日つなぎを着て現場に出向いては勉強する日々を送っていた。

オフィスは名古屋の郊外、というか名古屋市でもない。空港が近く、トラック通りの多い幹線道路だ。油と排気ガスの臭いまみれで、正直くさい。

そんな辺鄙な場所で働くオフィスに女の子はおらず、友達もいない。文字通り、孤軍奮闘である。

1年目が終わった頃には精神的に参ってしまって、躁鬱症状だと言い渡された。正直ほっとした。「病」じゃないだけマシだし、原因は分かっていたから。

ストレスの根源から離れれば症状が治まると聞いて、転職を考え始めた。

そんな中、今の奥さんは東京丸の内で働き、華麗なるアフター7を過ごしていた。毎日食べ歩き飲み歩き、日中は営業をゴリゴリする仕事だった。

バチっとスーツを着てスマートに働いていれば、そういう機械の9や10程度はあるのだろう。

いくら頑張って1ヶ月に2回会うようにしていたって、そういうイベントは不可避である。

思えば、そういう話はチラッと聞いてはいた。

「これからごはん行ってくる」

こんな連絡が来るときは、いつも男だった。

何故わかるか?

言える相手なら「これから〇〇とご飯たべてくるね」と名前を出すからだ。

最初からウソでも準備しておけば良いのに。意味が分からん。

当時の俺は「嫌われたら、その時はその時。俺がしっかり好きでいれば大丈夫」とかわけわからんことを考えていた。

何故なら、俺は彼女と違って「モテ」というものを知らないから。

高校生までオタクとして生きて、アニメや漫画に熱狂していた俺は、当然高校時代の青春をアニメと漫画の中でしか過ごしたことがない。

そんな青春を取り戻そうと思って大学で頑張った結果、今の奥さんと付き合って、長い関係を続けてきた。

正直、他の女性に受け入れられる自分が想像つかないのだ。

だから、俺はしがみつくしかない。

そう思っていた・・・

—-

結婚して住んでいる以上、物理的に逃げるわけにもいかない。離婚を叩きつけるほど決定的な何かがあるわけでもない。強いて言えば、まだ子供がいないから動きやすいぐらいだ。

「浮気された」だなんて話を聞いてまともでいられるはずもなく。普通にテンションがダダ下がりである。

まあ、今週は会社の飲み会がある。会社で毎月行われる飲み会だが、低予算で意外と楽しめるイベントなので個人的に気に入っている。今週も楽しみだ。

飲み会に向かって、終わらせるべき仕事を残業して終わらせる。家に帰らなくて良いし、嫌なことだって忘れられる。仕事に逃げていると言われれば、その通りだろう。実際その通りだ。

そして金曜日・・・

「「「「お疲れ様です!!!かんぱーい!!」」」」

カシュっという音が部屋中に鳴り響く。

少しだけ良いレモンサワーをのどに流し込む。ああ、このために1週間頑張ったんだ。アルコールがのどに染みわたる。ストレスも浄化してくんないかな。

今の会社には転職して1ヶ月程度。とはいっても入社前に何度か飲み会には何度か参加しているので、すでに慣れた光景である。

近くのピザ屋からピザを調達し、サラダ系はスーパーから買い込んだ。金がないベンチャー企業感があるが、これはこれで楽しい。

10人以上の飲み会であるあるだが、会が進むにつれてもっと細かい3人や4人という小グループに別れてくる。例にもれず、俺も4人の小グループに別れて飲んでいた。

「飲みたい酒はなくなったし、買い出しにいこうか!」

そう言い始めたのは、うちの酒番長、もとい酒女王。

そしてついていくあざと女子と、酒好きな顔がきれいな女子、そして俺。

必要な酒を買って、オフィスに戻り、3階建ての1階部分で飲みなおしていた。バーのようなカウンターがあるので、こういう時にうれしい作りをしているオフィスだ。

酒と酔いが進み、気が付いたら4人そろって陽気になっていた。どうでも良い話でも爆笑できる回り具合で、もう終電も近い。

「彼氏できても続かないんすよねえ」

そんな相談をしていたのは酒好き顔綺麗女子だ。

普段は仕事モードでキリっとしているが、酒が入るといつも下がっている口角が上がりまくりな人。ちょっと好みだ。

「そうなんだ」

「なんで続かないんだろうねー」

生産性のかけらもない会話だが、まあ会社の飲み会だ。そういうこともある。と、思ってふと時計を見るとそろそろ帰らなければならない時間だった。

「やべ、俺そろそろ終電なんで、帰りますね」

俺が食器を洗ってレモンサワー缶を捨て終えたところで「えー!」という声が隣から聞こえた。

声に反応するように右をふと見ると、酒好き顔綺麗女子がこちらを見上げてきた。なんかむふーっと笑っていた。

え、目でか。顔綺麗。目の周りキラキラしてるし、なんか目がめっちゃうるうるしてるし、なんか・・・うん、かわいい。

これ、好きだわ。

この笑顔で、落ちてしまったのである。

「おつかれしたー!」

そう言って、俺はオフィスを出た。先ほどの笑顔を噛み締めながら足早に駅に向かう。

本当に、あれは反則だ。ただでさえ顔がきれいなんだから、あんな笑顔見せられたら困ってしまう。

ふと、1週間前のことを思い出す。そういえば、懺悔された時もレモンサワーを飲んでたっけ。

まったく、レモンサワーは俺にとってかなり鬼門なのかもしれない。

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