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承認欲求とさくさくスコーン

最近「承認欲求」について考えている。

自分が承認欲求を感じてもやもやとしている時はどんな時だったのだろう?といろいろと自分の頭の中をめぐっている時に、1つのエピソードを思い出したので今日は書き記してみようと思う。
(思わぬカタチで長文になってしまったので、お時間のある時にお読みください)


私が就職して1年目の頃。遡ること、今から15年くらい前の話になる。

当時、私の勤め先には非常勤の理学療法士の先輩が所属していた。先輩は私より5〜6歳年上の女性で、意見や主張や感情をその場できちんとしめすタイプの人であった。姉御肌で、後輩に対して面倒見が良く、御多分に洩れず、私も夫もこの先輩に半ばあきれられながらも随分と可愛がってもらっていた。

そんな彼女から研修の誘いを受けたのは就職してから半年くらい経ってからの話であった。

彼女はあるリハビリテーションの手技を学び続けており、私にもその手技を一緒に学んでみないか?という内容であった。

研修は2日間の日程。場所は那須にある某研修センター。宿泊先はその研修センター内で、同じ研修を受けた仲間と多人数のグループの相部屋に泊まることになっていた。

人見知りの私は、見知らぬ人たちと昼も夜も2日間同じ空間を過ごすことにやや不安を感じていたが、先輩は

「私の車で現地まで一緒に行こうよ。私は運営のお手伝いをするために前泊するから、その日は私と同じ部屋に泊まってもらって、翌日は研修仲間と相部屋になるけど、私は講師の補助としてずっと同じ場にはいるから、不安になることもないよ。」

と申し出てくれた。私は夫に相談したのちに研修への参加を申し込んだ。

当日は先輩が非常勤の出勤日であったので、勤め先からそのまま彼女のマイカーに乗車し、那須へ出発した。

夕方の渋滞の首都高をこえて、次第に森林が多い風景となっていく。私と先輩は、自分の話や、リハ業界の話、他愛のない話などを交わしながら、あっという間に現地に到着した。

宿泊先は大浴場があったので、先輩と一緒にゆったりと湯につかった後に、そこからお酒の好きな先輩につられて、めずらしく私もお酒を嗜みながら、わはわはと笑いあいながら時間が過ぎた。明日に備えて私と先輩は早めに床についた。

朝起きて、先輩から
「随分と飲んでたね。最後は手酌で飲んでたよ。まあ、楽しいなら何より。」と言われた。彼女は人をからかうのが好きなのである。

思わず赤面しそうになったが、そんな余裕もないままに研修の時間となり、その日は学びの時間を有意義に刺激的に過ごした。

私と同じグループは10人程の女性たちで構成されていた。職種は理学療法士、または作業療法士であった。年齢や卒後の経験年数も近い人で組むように配慮されていたため、グループのほとんどが20代であった。部屋は修学旅行を彷彿とさせるような畳敷きの和室である。

女性が10人も集まるとどうしても賑やかにはなる。

私は、性格的にあまり社交的でもないし、極度の人見知りではあるが、その場にいて話を聞くことくらいは唯一できるので、まわりの人の話に相槌を打っていた。

夜寝る前に各々が布団に入りながら、または座りながらなんとなく雑談をしていた時に、ある女性が「彼氏からメールが来ている」と話し始めた。

そこから、お付き合いしている人がいるのか、いないのかという話の流れになった。

それぞれ「いる」だの「いない」だの、話していく中で、既婚者は唯一私だけだということが会話の流れから発覚した。

ある女性の1人から「結婚ってどうですか?」と質問を受けた。他のメンバーも関心があるようで、矢継ぎ早に私に質問が集中する。
私は私なりに彼女たちにきちんと答えようとして、しばらく話をしていたのだ。

すると、奥にいた1人の女性からこう言われた。

「結婚なんて信じられない。私はそんなにいいもんだと思わない。絶対したくない。するとしても早いのは嫌だ。」

....もし、今の私だったら、と思う。

今の私だったら「なるほど、あの人はそのように考えているのだな」で終わることができたかもしれないが、当時の私は自分をその場で否定されているように感じてしまった。
彼女から悪意を感じた。

『私は結婚がいいものだとは一言も言ってないし、結婚しない人も尊重したいと思っているのに、なんであんな風に言ってくるのだろう。』

私は少しショックを受けて何も言えなかった。彼女も私に言っているというよりは、ひとりでつぶやいているような雰囲気ではあったが、その場の雰囲気はなんとなくもやもやしたものとなり、気をきかした他の人が話題を変えてくれたと思う。

しばらくして、最初に質問をしてきた彼女がこっそりと話しかけてきてくれた。

「さっきはごめんね。私も今お付き合いしている人と結婚したくてついついたくさん聞いちゃったんです。ありがとう。」

私は彼女がそのように話してくれたことに、感謝の気持ちを抱きながら眠りについた。

翌日、私は2日目の講習を受けるために廊下で待機していた。先輩が私を見つけて話しかけてきてくれた。

「楽しく学べているかな?」と、私の様子を気にしている先輩の顔を見た時に、私は昨日のことを話そうかなと思ったが、あまり心配をかけてもいけないと思い「ええ、とても学びが多く楽しくやっています。」とだけ伝えた。

それから、先輩は研修の内容について熱く語り始めた。運営サイドでは昨夜飲み会があり、あの先生はこんなこと言っていて....とか、こんな一面があって....とか、裏話的なものを話してくれた。私もその話を聞いて、落ち込んでいる気分が少しだけやわらいだ。

話を終えて、研修が始まった。この日は昨日の講義から内容も変わって、お互いのグループで話し合う時間が設けられていた。

各グループに先生や先生の補助のスタッフがそれぞれ1人ずつついて、研修生を取りまとめて司会を行なった。私のグループの司会はたまたま私の先輩であった。先輩は私の意見を聞く時に「はいはい」と他の人とは態度が違う様子を見せていた。仲が良いからこその態度であった。まわりの人もそんな様子に気づいていたと思う。

2日間の研修が終了した。
廊下で待機していた私にむかって、先日私に結婚のことで否定的に話していた女性がやってきた。

私は思わず身構えた。

彼女が次に話しかけてきたことばや態度に、私は驚きを隠せなかった。

「ねえ、〇〇先生(私の先輩)と仲がいいんですか?どんな繋がりで仲良しなんですか?紹介してもらってもいいですか?」

彼女は昨日とうってかわってにこにこと猫撫で声を出しながら私の様子を伺っている。

私はここで怒りの感情をおさえることができなかった。

『昨日はあんなに否定的な態度を示していたのに、私が自分が仲良くなりたい人と仲が良いからといって、手のひらを返したように態度を変えるなんて許せない』

私は怒りに支配されて彼女にやさしくすることができなかった。
結局その申し出も丁重に断った。

承認欲求とは自分の話を聞いてほしい、自分のがんばりを褒めてほしい、自分を認めて欲しいという心の欲求である。

私は今も昔も、私と話しているようで、私と話していない人が苦手だ。

私の向こう側にいる私の仲の良い人と仲良くしたい、話したい。私と仲良くしておけばいい思いができると思って、私と話しているようで、実のところ、私の裏側にいる人を意識して話している人の態度は鈍い私でもわかる。

それよりも私を認識して欲しい。
目の前にいる私を認めて尊重して話して欲しいという気持ちは、私にもある。ちゃんとあるのだ。

上記のような態度を取られると、心が冷え切ってしまう。そして、私もその人に対してはやさしくできずに冷たい態度で返してしまう。

その後、私は先輩と遅い昼食をとるために、センターの近くのカフェに来ていた。

元気がない私を見兼ねたのか、先輩はいろいろと話しかけてくれた。

覚えているのは、サンドイッチにはさまっているおいしい卵焼きを食べた時に、卵焼きをおいしく作るコツを先輩が教えてくれたこと。「そんなことも知らないわけー?」といつもの調子でからかってくれた。

そして、先輩が頼んだそのお店のスコーンがとてもおいしくて、私にもシェアしてくれた。

テイクアウトでもスコーンが購入できることを知って、先輩が自分の分と一緒に、私にもスコーンを買ってプレゼントしてくれたことがとても嬉しかった。


私はさくさくのスコーンと先輩の態度に元気を取り戻せたのだ。


承認欲求について考えているうちに、あの時の状況が今日は浮かんできた。

私は今までかなりのことにもやもやしながらも人生を送ってきた。
今、思い返せば、先輩や、スコーンみたいなものに、数々のいろいろなものに助けられながらも、なんとかやってきた。

今でも、あの時どうするべきだったのか、思い起こして悩むことがある。

答えはでないが、たぶんずっと考え続けていくのだと思う。

約40年生きてきても、なお、自分の欲求や気持ちというのは、自分でもわからない領域なのだ。

また年月をおいて考えてみたいと思っている。

おわり。


(あの時美味しくスコーンを頂いたお店のリンクを貼っておきます。また食べに行きたいなぁ。)

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