Today`s songs　「HOW TO GO/くるり」

私は今日、車の中で泣いた。

最後の利用者さんの訪問が終わって、帰社すべく、車を運転していた。

夏が近づいて、だいぶ明るい時間が増えてきたと思う。

太陽は空に残り別れを名護惜しんでいる。
空は「もうそろそろだよ」と時間を告げるかのように、なだらかに傾いて色合いを変えていく。

色がかさなり溶けて、ゆっくりとゆっくりと町はうす茜色に染められ

人が町が山が雲が落ち着いていく。

みんなはあるべき場所へかえっていく。

私はおいてかれそうな太陽に思いを馳せた。

ふいにステレオからくるりの「HOW TO GO」が流れた。

昨日の今日からは一味二味違うんだぜ
自信も根拠もしゃれこうべみたいな顔のまま
意識は遠のくまるで昨日の夢のよう
さっきまで気にしたHow to play guiter 灰になる
いつかは僕達も離ればなれになるのだろう
僕達は毎日守れない約束ばかりして朝になる

くるりの人気曲はきっと「ばらの花」や「ハイウェイ」などになるのだろう。

でも私はくるりで一番好きな曲は？と聞かれたら

間違いなくこの「HOW TO GO」をあげるだろう。

若い頃におかしくなるくらいこの曲を繰り返し聴いた。

この曲の魅力は、何と言ってもありえないほどのスローテンポである。

このプロモーションビデオも見ていてとても不思議な気分になる。
くるりのメンバー以外の登場人物が、少し早く動いているような感じに見える。実際は、メンバーが非常にゆっくりとした動きの演技をしているだけで、それを倍速で流している。

私はこのプロモーションビデオをいつも自分に重ねる。

私はこのくるりの岸田さん達と同じだ。

昔から「のんびりしている」と言われる。

人よりてきぱきできない自分をいつもはがゆく思う。

一生懸命やっているつもりでも、たいてい誰かに抜かされる。

私のせいいっぱいの、ありったけの、はやさで努力していても

まわりをいらつかせているのがわかる。

生産性が求められるこの社会の中で

不器用な私はこのプロモーションビデオのように

まわりの人たちのはやさに追いつけずに取り残されている。

みんなはどんどん作業をこなし

私はよけい混乱していく。

真夏の太陽は少し眩しすぎるかな
スマートに大好きなこの曲と旅に出たいのにな
何だかな　まったり
夕暮れまったり
するなよ

いつかは想像を超える日が待っているのだろう
いつかは想像を超える日が待っているのだろう
毎日は過ぎていく　でも僕は君の味方だよ
今でも小さな言葉や吐息が聴こえるよ

気づいたら泣いていた。

涙の理由はわからなかった。

会社を辞めた。
新しい会社にうつった。
会社は順調に利用する方が増えた。
職員も入りたいと希望する方がたくさん声をあげてくれた。

担当していた方がこの世から旅立ち
私は何もできなかった。
私とほとんどかわらない年の人が
難病でもがいていた。
好きなことができなくて
自宅で閉じこもることしかできないさみしさを抱えた人がいた。
自分が置かれた状況がわからない妻は
その不安から夫を責め続けていた。

私はやっぱり昔と一緒で

頭の回転数も遅く

てきぱきこなすことができずに

もたもたと足踏みしているだけだけど

昔と違うところは

このプロモーションビデオを見てよくわかったのだが

岸田さん達は遅れていることを気にも留めずに

ただ自分のペースで食事をしていることに

私は気がつくことができた。

歌詞のように、いつかは離ればなれになることなんて知ってる。

私は誰かと小さな約束もできないまま、時間だけが過ぎていく。

けれども、のんびりとでも、たとえ醜くても、スマートじゃなくても

いつかは想像を超える日が待っているのだから

私はまた自分が上手く飲みこめるように

ゆっくりと咀嚼しながら

少しずつ少しずつ

小さな吐息を聞き逃さないように

遅れていた太陽と一緒に

この世界一やさしいロックンロールを聴きながら

あの頃想像していた未来を超えていこうと

夕焼け色の車の中で涙を拭き、扉を開けて一歩を踏みしめた。