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ラビリンスの扉を開いて

私には、片脚の伯父さんがいる。
伯父さんは母の兄で、私が生まれた時にはもう片脚だった。
伯父さんは若い頃に交通事故にあってしまい、それ以来人生の大半を片脚で過ごしている。

先日記載したnoteで、私が片脚のハトについて幼少の頃気にしていたというエピソードを書いたが、これはもしかして、同居している伯父さんのことがあり、状況的に無意識でも重ね合わせる部分があったからこそ、片脚のハトに執着していたのかもしれない。


伯父さんは祖父母と同居していた。

祖父母が大好きだった私は、自分の家で生活するよりも祖父母の家で生活する割合が圧倒的に多かった。
なので、伯父さんとも接する機会が多く、よく伯父さんの部屋に遊びに行っていた。

伯父さんは片脚だったが、義足をつけて歩く事ができたし、仕事にも車で通っていた。趣味は休日にふらっと行くパチンコと、自宅での映画鑑賞だ。

彼は部屋に遊びに来た私や妹をかわいがって、お菓子を分けてくれたり、冗談を言ったり、かわいい文房具をくれたり、一緒にテレビを見たりして過ごした。そのかわいがり方は今思えば自分の子どもに対するような接し方であった。

伯父さんの部屋には、レーザーディスク(レーザーディスク(LD)は、直径30cmのディスクに両面で最大2時間の映像を記録できる光ディスク規格)が戸棚一面にずらっと並べてあった。

私はその表紙を見るのが好きだった。表紙からどんな物語が描かれているのか空想していたのだと思う。伯父さんの部屋に勝手に入ってはそのレーザーディスクの表紙をよく眺めて過ごしていた。

そんな私の様子を見ていた母親が、伯父さんに許可をとって、少しずつ映画を見せてくれるようになった。

私はそこで初めて本格的に洋画に触れることになった。

「インディージョーンズ」や「ゴーストバスターズ」、「ネバーエンディングストーリー」「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」「バックトゥザフューチャー」など、たくさんの作品を毎回わくわくしながら見ていた。

映画の楽しさを感じたのはこの頃が始まりであったと思う。

おもしろかったものは繰り返し見ていた。インディージョーンズの猿の脳みそを食すシーンで「気持ち悪い、こんなの絶対食べたくない」と思ったり、リトル・ショップ・オブ・ホラーズで花がどんどん大きくなってしまうことに結末がわかっていてもドキドキしたり、妹達とキャアキャア言いながら楽しく鑑賞していた。

その中で、私が一番思い出に残っている映画は「ラビリンス」だった。

「ラビリンス/魔王の迷宮」は1986年に制作された映画で、登場人物がほとんどマペットであるのが特徴となっている。

<Wikipediaよりストーリー抜粋>
15歳のサラは多感な空想の世界に遊ぶのが大好きな少女。継母と実父が外出するために、異母弟・トビーの子守りを任されたサラはなかなか泣き止まないトビーにうんざりして、愛読書に登場するおまじないを叫んでしまう。「お願い、今すぐこの子をどこかへ連れ去って」。サラに興味を抱いていたゴブリンの魔王・ジャレスは、サラの言葉を真に受け、弟のトビーをジャレスの支配するゴブリンの世界「ラビリンス」にさらってしまった。そして弟を返してと懇願するサラに対し、13時間以内に迷宮を抜けて自分の城まで到着するという試練を与える。13時間以内にトビーを連れ戻さなければ、トビーはジャレスの力でゴブリンに変えられてしまう。サラはトビーを救うため、不思議な迷宮世界ラビリンスへと向かう。

このサラ役を演じたジェニファーコネリーの可憐さと、マペット達のユニークな動きやキャラクター、理不尽な迷路の仕掛けや、ゴブリンの魔王ジャレスを演じたデヴィッド・ボウイの耽美な雰囲気にすっかり魅了された私は、何回も何回も繰り返し映画を見ることとなった。

ラビリンスが私の原体験の一つになっているといっても過言ではないと思う。

このエッシャーの踏み絵に似ているような、ダンジョンでひょいっと現れるデヴィッド・ボウイの動きは今でも忘れられないし、においのきつい沼のシーンで本当ににおってきそうなぼこぼこしている沼の表現も思い出せるし、口紅で行き先のしるしをつけたタイルがくるっとまわされてしまうシーンで、もどかしい思いになるのも懐かしい。不思議な世界観はのちに私を形作る一つとして、強烈な印象を刻み付けていた。

このような世界に触れるきっかけを作ってくれた伯父さんに私は感謝している。

そして、私自身も自分の子ども達に、まだ見たことのない世界に触れるきっかけをたくさん作ってあげたいなぁと思いながら毎日過ごしている。


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