不和不和からふわふわへ
娘のことについて今日は書いてみようと思う。
娘はこの春で中学二年生に進級する。
娘が三学期に入って不登校になってから、わたしたち家族は、わたしたちなりに葛藤し、話し合い、励まし合い、守り合い、あまり平坦ではない道のりを歩んできたような気もする。
けれどもその道が決して断崖絶壁の崖っぷちだったとか、ぽっかりと落とし穴が開いていたとか、途中で橋が切れていたとか、そんな大それたものではなかったようにも思う。
映画のようにわかりやすいピンチという訳でもなく、映画のようにわかりやすくスーパーヒーローも現れないのが現実だ。
娘の昔好きだったアンパンマンだって、今好きなトム・ホランドのスパイダーマンだって、こういう時は来てくれないんだ。
それはみんなよく知っている。
結局のところ、日は沈んで、時間が経てば日はまた昇り、一日が始まって、みんな自分の歩みで自分の事に向き合っていかなくちゃならない。
そういうもんだろう、と思う。
夫婦で何度も話し合った。親子で何度もことばを交わした。うまくことばを紡げない日もあったし、涙を流したし、気持ちのすれ違いもあった。
何よりわたしたちの関係性は、家族というもので自己完結しているものではなくて、社会と学校と祖父母と世間とどこかしらで繋がっているのだ。それが一層、心を波立たたせて、ゆらがして、歩んでいく道は痛みを伴う不安定な地面になる。
けれどもわたしたちは、お互いにお互いの事が好きだし、思いやりをもっていた。
今はだいぶタフになってきたし、みんながみんなへなちょこで凸凹で弱いところもあるけど、カバーし合って、完全ではないが、気持ちを整えられることができてきたのかなと思う。
ひとまず、学校に行くことより、娘の健康状態がよくなることを優先して、かかりつけ医に受診しよく眠れるように眠剤をもらったり、学校にはリモートでの授業を協力して頂いたり、聴覚過敏に対して少人数制のクラス(特別支援学級)への編入手続きをすませたり、気晴らしになること(映画館に行ったりカフェに行ったり夫婦で連れ出した)を続けたり、心理士さんのカウンセリングを受けたりした。(スクールカウンセラーは合わなかったので、民間の方に依頼した)
その結果、娘は朝、少しずつ起きられるようになってきたし、不意に「死にたい」と泣き叫ぶこともほとんどなくなった。
そして、今回一人の強力な助っ人を得る事になった。
彼女はこの春に高校二年生になる子で
私の知り合いのお子さんである。
名前は仮名でツーちゃんということにする。
話は遡ること二十年前。
私は当時、専門学校に通っていた。
専門学校は、私の住んでいる市の隣の市にあったので、当時まだ免許を持っていなかった私は、電車や自転車を駆使して学校に毎日通っていた。隣の市の駅の近くに、ツーちゃんのお母さんが経営しているこじんまりとした飲み屋さんがあったので、そこに自転車を置かせてもらう事になったのだ。
ツーちゃんのお母さんは私の母の友人だ。
ツーちゃんのお母さんは私の母より若くて、気立ても良く、さばさばっとしていて、顔のくっきりとしたタイプの美人なお姉さんだった。
私は学校の帰り道に自転車をお店に置かせてもらう時に、開店前のお店に立ち寄る事があった。そして、ツーちゃんのお母さんにいろいろと人生相談的な悩み(友人のことや恋のことなど)を聞いてもらっていたのだ。
そこからツーちゃんのお母さんとは、ちょこちょこと折に触れて、直接的にではないにしろ交流が続いていた。
今回は私の母親が、私の娘の現状をツーちゃん親子に話したところ、ツーちゃんが「会いたい」と言ってきてくれたので、連絡をとって会う事になった。
ツーちゃんは娘と同じく中学の頃不登校だった経験がある。そして聴覚過敏も娘と同じく体験している。おそらく、そんな境遇から今回のような提案をしてくれたのだと思う。
娘は以前にも増して人見知りが激しくなっていたので、この話をした時に不安そうな表情を見せていたが「お母さんと一緒ならいいよ」と彼女なりに一歩を踏み出してくれた。
会うのは家の近くの海が見える公園にした。
最初は三人で話す。
娘は緊張して黙っているので、私とツーちゃんで話していた。
そのうちツーちゃんが好きなものの話になり最近絵を描き始めた事、はまっている漫画の事を楽しそうに伝えてくれた。
「SPY×FAMILY...私も好きです」
娘は好きな漫画が重なっていたためか、そこから話に加わって、ほわっとした笑顔が見られた。二人で話せるようになった頃合いを見て、私は彼女たちから離れて、近くにいるハトと戯れる。
ハトの動きは不思議だ。
首の動きは見ていて飽きない。
ハトは私が餌をくれると思って警戒心もなくまわりを歩き出す。
鳥の胸のカーブが私は好きだ。鳥の胸ってふわふわっとしてる。
私の娘の心も
ふわふわっと
軽くなって
あったかくなったらいいのになと思う。
たんぽぽの綿毛みたいにふわふわっと
飛んでいけたら
春の陽気に誘われて
風にのって
自由を手にしてほしいと願う。
海風が強く寒くなってきたので、私はツーちゃんにわたしたちの家に来てもらう事を提案した。ツーちゃんもツーちゃんのお母さんの仕事が終わって迎えに来るまでいられる事を伝えてくれた。
家では三人でお絵描きをした。
ツーちゃんは最近お絵描きに目覚めたそうだ。
最近という割に模写がすばらしく上手で、鬼滅の刃や呪術廻戦のキャラクターを描いたスケッチブックを披露してくれた。
娘は娘でオリジナルキャラクターをたくさん描いてくれた。とっても楽しそうである。
私はツーちゃんから「(くまさんが好きな)ナナミンを描いて!」と言われたので久しぶりにナナミンを模写する。
うーん、下手だな。
でも三人とも楽しいからいいね。
時間はあっという間に過ぎて娘は「また会ってほしい」と話していた。ツーちゃんも「私もとても楽しかったからまた会おうね」と言ってくれた。お互いにLINEの交換をしてお別れした。
娘は夫に「楽しかった!」と笑顔で報告していた。私はそんな姿を見て思わずにんまりする。
少しはふわふわっと飛べたかな。
気持ちは軽やかになったかしら。
良い出会いは人を変化させるものだ。
昨日の朝
娘は
「新学期から学校に行ってみようと思う」
と話してくれた。
私たちは娘なりの一歩を応援したい。
そして、チャレンジして
たとえうまくいかなくとも
きっとあなたのまわりには
たくさんの楽しい事や
あたたかい人たちが
いつでもそばにいるから。
自分の道を信じて歩んでいってほしいと思う。
私もその姿を見届けていきたいと
今までも
もちろんこれからも
強く強くこの胸に感じているのだ。
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