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父と私と音楽と

東京国際フォーラムに、クリストファー・クロスとエア・サプライのliveを一緒に観に行ったのは、いつの日であったのだろうか。

私の父は音楽を愛する人だ。

生活の中にいつも音楽があった。

私が幼少の頃にはレコードに針を落としていたが、今はアップルのワイヤレスイヤホンがお気に入りだ。おそらく朝のウォーキングの時に使っているのだと思う。新しい物への関心がいつも高い。

ドライブする時も必ずセレクトした曲をかけている。

彼はいつも音楽とともにある。



父とliveに行ったのはこの時だけではないのだが、2人で行ったのは2回。

私の好きな山崎まさよしに付き合ってくれた武道館liveと、このlive。


終わったあとに、おいしい牛タンシチューのお店に連れていってくれたのを覚えている。あのとろける牛タンの濃厚な味や、驚くほどのやわらかさは覚えているが、お店自体は覚えていない。おそらく、live会場からあまり離れていなかったような気がするので、丸の内のどこかのお店だったと思うが・・・。

クリストファー・クロスはCDと同じ、いやもちろんCD以上の圧倒的な美声で会場の観客を包んでいた。


あれから何年経ったんだろう。




父は私が思うに人前で「自分」をあまり出さない人である。


私と父は似ているところがある。


世間的にはすごくやさしいと思われているところだ。

でも、そうじゃないことを私は知っている。
八方美人なだけだ。人の話をうんうんと聞いている方が楽だ。

父は人の話をよく穏やかに聞いている。

家庭でも友人でも職場でもそうだ。(職場が以前一緒だったからわかる)

他の職員には「お父さん、やさしいわよね」とか、「お父さんのファンなんです」とかよく言われた。
若い頃の私は、そんなことばを聞くたびにあきれた顔をしていた。「あなたが思っているよりはそんな事もないかもしれませんよ」と否定するような意見を伝えることもあった。


父は聞いているようで聞いていない時もある。母は「認知症なのよ」と冗談交じりによく話している。私も夫に指摘されるのでそのようなところがあるような気もする。


そして、基本的にあまり人のやることに反対しない。

これは私もそう。父親ゆずりなんだと思う。


反対するのが、面倒くさい。相手の事を大切に思っていないからだ。

母なんかは「そんなことはしない方がいいと思う」と親身になってよく人の相談に乗っていた。彼女は懐が広く情熱の塊のような人だ。

人に対して熱くなれない、冷たい人でなし。


私は自分自身に対してずっとそう思っていたし、父親に対してもそう思っていた。

人でなし親子。何が悪いんだ。共犯者のような気持ちだ。

しょうがないじゃん。こんな性格なんだもん。

私はどうにも自身を肯定できなかったし、似ている父親の性格も今一つ全面的に肯定する気持ちになれなかった。



でも、大人になって働いて、家庭を持って・・私の考えは変わったかもしれない。


人の話を聞くこと。

意外とこれは特技なのかもしれない。

自分を出さずに話を聞くというのは、話をしたい人にとっては貴重な存在であったり、心のよりどころになるのかもしれない。


人のやることに基本的に反対しないこと。

相手のやることに関心を持ち、一緒に何かをすると、自分だけでは知らなかった世界を知ることができる。
相手が楽しいと思っていて、価値を重んじている世界にいったん身をおいてみること。何事もやってみないとわからない世界がある。

そうすることで、自分自身に対しても発見が出てくる。

自分と他人は違う世界を生きているのだ。

そして、何事も体験した人でないと見えない世界があるし、言えないことがあると思う。

「領空侵犯しない」


父親はきっと、自分と他者に対して父親なりの距離をとりながら人生を楽しんでいる。

相手に対する熱が見えないのは、相手を尊重しているからだと思う。

自分の熱が見えないようにそのままの温度で接することもまた、人に対しての思いやりであるのかもしれない。

母のやり方も父のやり方も、私はそれはそれでいいのだと思う。


その父親が思う存分熱を吐き出しているのは、だいたい彼にとって楽しいことだ。

人生を楽しむこと。


子どもに執着せず、私の親は親自身の人生を楽しんでいる。


父は音楽を聴いていることで、自分でいられるのだと思う。


私も音楽を通して、難しい思春期も父親と関係性を保つことができた。

昔だったら、聴くのも恥ずかしかったライオネル・リッチーとダイアナ・ロスの「エンドレス・ラブ」の両親のデュエットも

今なら笑って許せるような気もする。

私も人生を楽しんでいきたい。

そして、そのように育ててくれた親たちの背中を見て、これからも過ごしていきたいと願う。







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