寒い日はうちに帰ろう
私の家には薪ストーブがある。
今の家に引っ越してからは、寒い日になると夫が薪をくべてくれる。
炎がゆらめくのを私はただひたすらに眺める。
火は強くなったり弱くなったり、形を変え続ける。
時々、燃え落ちた薪がトンっと小さな音を立てて崩れる。
近くにいると、体の芯からあたたかくなる。
家の中があたたかなオレンジの光につつまれる。
安心してウトウトとまぶたが重くなってくる。
火には不思議な魅力がある。
人間が扱えるようになるまでは長い歴史があった。
現代人は,火打道具,マッチ,電気などで簡単に発火できるようになり,火になじんでいるので,火を当然のものと受止めている。しかし,旧石器時代の熱帯林の狩猟民から新石器時代の最初の定住農民にいたるまで,火が人類の発展の本質的要素であったように,その後の1万年間にも文明の発達の全段階で火は不可欠の要素であった。火は調理や土地の開墾,あるいは洞窟や小屋の暖房や照明への使用から,粘土を焼いて土器をつくったり,銅やスズを取出して溶かし青銅 (前 3000年) を生産したり,鉄 (前 1000年) を得るために用いられたりしてきた。近代の科学技術の進歩は,火を通じて人間が使用し制御できるようになったエネルギー量の継続的増大に特徴づけられる。利用可能になったエネルギーの大半は,火の量と種類の増加によってもたらされたものである。(出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)
文明やエネルギーは火によって発展してきた。
遠い祖先も火を眺めていることがあったのだと思う。
狩猟から帰ってきた家族を、あたたかい火で迎え入れていたのだろう。
寒い季節は、家に早く帰りたくなる。
早く帰って、また、薪ストーブをながめよう。
薪ストーブのあたたかい火を見つめよう。
何も言わずに薪をくべてくれる夫のやさしさに感謝しよう。
いずれ火に帰る日の道のりまで、私はこのあたたかい火を忘れないだろう。
やさしいこの空間をいつまでも心に残しておこう。
たとえ、ふれることができなくなっても体がきっとおぼえているから。
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