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友人の初彼女が僕の元セフレだった

先日、つくづく世界は狭いということを実感させられる事件があった。

ことの発端は先月のある日。大学時代の友人から突然飲みに行こうとお誘いを受けた。

こんな時期に遠方の人間と飲み会などけしからん!だとか、卒業後しばらく経ってからのお誘いはだいたいマルチ!だとか、偏見を持っていなくもないのだが、疎遠になっていた友達が自分のことを覚えてくれていたことが嬉しく、何かと人恋しい僕は二つ返事で承知した。

その友人をAと呼ぶことにしよう。Aはいわゆる残念イケメンだ。
彫りの深く整った顔立ちで高身長。有名人で言うと阿部寛のような風貌をしているが、大学時代にルックスが活かされることはなかった。
初対面の人とは目を見て話せないくらい人見知りで、男子校出身だったため女の子とは全く話せない。卒業まで童貞を貫いた男だ。
卒業と同時に東京にある超大手企業に就職した後疎遠になってしまっていたため、その後のことはよく知らないが、旧友と集まると「あいつどうなったんかな?」と話題に上がるようなナイスガイだ。



仕事終わりに待ち合わせ場所に着くと、見覚えのある顔があった。記憶よりもいささか痩せたように見えたが、変わらぬ姿に「これならマルチとか誘われずに済むだろう」と安堵したのを覚えている。

大学時代によく行っていた安居酒屋に入り、昔話を酒のつまみにしばらく飲んでいると、Aが突然「実はお前に伝えたいことがあったから会いにきた」と切り出してきた。

僕に緊張が走った。この流れから怪しい投資ビジネスやマルチ商法の勧誘を幾度となく受けたからである。
直接的に誘われたら最期。もはやこれまで。縁を切らざるを得ない。牽制も兼ねて「お金には困ってないよ。」とジャブを打った。

「何の話?そんなことよりついに彼女ができた!」
すみません、僕が悪かった。損得なく付き合えるのは学生時代だけ!と豪語していた僕が大学時代の友達を疑ってしまうとは。思い上がりも甚しい。陳謝せねばならない。

素直に、だが最大の祝福を友人に捧げようと心に誓った。しかしここで疑問が残る。

なぜ彼女が出来たことを僕にわざわざ直接伝えたかったのか?

確かにAに彼女が出来たのは一大事だが、それだけを言うためにコロナ禍の中会いに来るだろうか?それも卒業以来疎遠になっていた僕に、である。
怪訝な顔をしていたのが伝わったのか、畳みかけるように「彼女の写真見てみて気づくことない?」と写真を見せてきた。

確認すると、その答えはすぐにわかった。友達の初彼女は僕の中学の同級生、山田さんだ。ショートカットでスクールカーストの序列2番目くらいのグループに所属し、どんな人とも明るく会話できる性格の良い女の子だ。無論、同じクラスだった僕は仲がよかった。家も近くたまに一緒に帰ったりしていた。

しかし僕らはただの友達はなかった。僕らはかつて大人の友達、いわゆるセフレだった。

時は遡って、社会人1年目に開かれた中学校の同窓会。彼女が「中学生の時、実は好きだった。」と告げてきたことから始まった。
お互いそこそこ酔っ払っていたことが引き金となってそのまま同窓会会場を抜け出して、静かなバーへ行ってしまったのが過ちだった。気づいた時にはすでに翌朝、2人で仲良く並んで寝ていた。

当時、お互い恋人がいたため恋人になろうという話にはならなかったが、同窓会の一夜の過ちと言う話にもならなかった。仕事終わりに会ってはホテルに行くという、だらしない関係は彼女が東京へ転勤するまで続いた。


時は戻って現在。僕は今、Aに試されていることを悟った。
気づかないふりをするべきか、洗いざらい懺悔すべきか。世の中にはしくじってはいけない選択があると思うが、まさに今その選択に迫られている。

大学時代には目を見て話せなかったAが僕の目をしっかりと見据えたまま僕の回答を待っている。心なしか、その目は笑っていないようにも思えてくる。

「もしかして山田さん?」名前だけを言った。
「そうそう、山田さん!中学の同級生って彼女から聞いたからね。」

選択肢は間違っていなかったようだ。安堵したのも束の間、

「彼女もお前に会いたがってるから、今度東京に来た時3人で飲みに行こうな」

彼が伝えたかったこと。それは地獄への招待状を渡すこと。
僕に残された選択肢はただ一つ。動揺を悟られないように、最大限よそよそしくならないようにこう言った。

「もちろん、楽しみにしているよ」

X DAYは間近である。今からお腹が痛い。

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