075 録音してもいいですか?

そう訊かれたのは、人生で初めてかも。

「顔を写さないのであれば、もちろんどうぞ」と答えたものの、どこか落ち着きません。人様をインタビューしたことは数え切れないくらいありますが、インタビューされるのは初めてです。

昔と違ってマイクを向けられるわけでもなく、テレコがテーブルの上に置かれるわけでもなく、スマホです。あまりインタビューされてる感はありません。でもねぇ。。。

そういえば、これまでの長いインタビュー経験で、一度だけテレコが動かず、録音できなかったことがあります。

取材対象は準備の悪い奴っちゃなーと胡散臭げな目でボクを見るし、同席しているクライアントは出掛けに点検して来なかったのかとハラハラしています。

その時の取材相手は、元大蔵官僚で高名なエコノミスト。汗がドッと出てきました。経済音痴のボクがエコノミストにインタビュー?

メモと記憶だけが頼りの1回勝負。

そもそも経済音痴のボクがなぜインタビュアーに、って話ですが、あれだけ断ったのにと悔やんでも、すでに時遅しですね。

どうやって、その1時間半を切り抜けたのか覚えていませんが、原稿は意外と苦労しなかった気がします。もっと苦労した取材相手はたくさんいます。福島県の地方都市での取材では、訛りがすごくてほとんど意味が理解できなかったことも。帰りの車中で、同行した地元の人にメモを見ながら「通訳」を頼みました。

ほかにも困ったのは、まるで判を押したように、事前に読んだインタビュー記事と同じ受け答えをする芸能人とか、、、でも、その話は個人が特定されるといけないので、ここではカットします。ってオーバーな、、、

実を言えば、録音した内容を後で聞き返すことはまずありません。取材中のメモで十分だし、仕上げる2000字のストーリーは、ほぼインタビュー中に頭の中で仕上がっていることがほとんどでした。

ボクって偉〜いって話ではなく、若さってヤツですね。記憶がすぐ取り出せましたし、複数のことが同時にこなせました。質問を投げて回答をメモしながら、これは見出しに使える、この話はエンディングに使おうってな具合に。

繰り返しますが、若いって素晴らしい。あれあれ、あれだよ、みたいな醜態はなかったなぁ。

それが今は行方不明になった記憶と、適切な語彙が出てこないという二重苦に苛まれ、インタビューするのが昔ほど好きではなくなっています。のくせに、『足はいつだって前を向いてるじゃん』では十人余りにインタビューさせていただきました。ありがとうございます。

勘違いしないでください、人の話を聞くのは好きです。それを書き起こすのは、あんなに好きだったはずなのに、年々、困難さが増しているように思えます。

さらに困るのは、自分で取ったメモが読めない。

勘違いしないでください。自分の字が汚すぎて判読できないのではなく(それは前からです)、小さい字が読めなくなってきたんです。ほんと歳を取るって泣きたくなりますね。

ええっ?

簡単なことじゃん、大きな字でメモれば、というアナタは甘ーい。メモは1枚にまとまっているからメモ。前に出てきた話との関連性をすぐ結びつけたり、さっきも似たような話をされましたね、とすぐ指摘できません。何枚ものメモをパラパラめくって探しながら、ええっーと、さっきどこかでこう言ってましたよね、なんて間の抜けた姿、超カッコ悪いでしょ。

それに、インタビューしながら、書き上げる原稿の構成を同時に考えたりもできません。1枚なら、これとこれは前後入れ替えてとか、ここは答えになっていないから次の質問に関連させてもう1回訊こうとか、インタビュー時は頭がフル回転しています。

どんだけセッカチなんや、って話ですが。。。そうだ!認知症予防に、インタビュアーになるっていいかも。これって「九条Tokyoマスター式認知症予防法」とでも予防、いや呼ぼうじゃん。すごい発見だと思いませんか?

さて、話は戻って何を取材されたのか?

その女子大生2人は、ジビエについて調べているんだって。へぇー、ってなりますよね。

今度はボクがインタビューする番に早替わり。

「その歳でジビエに関心を持つって、一体全体どういうこと?」

と訊けば、2人とも田舎の出身で、ジビエを食用にしている現況を調べようと思ったと言うのです。

「田舎ってどこよ?」と訊くと、山梨と長野だと言います。全然田舎じゃ、あーりません。ボクなんて、、、

それはさておき、周りの同級生が都会育ちが多く、2人が妙に馬が合ったというか、残り物に福があった? いや、馬じゃなく鹿か猪が合ったというべきでしょうか。。。ええーい、そんな余計な言葉放り込まなくてもええわ〜。

でも、訊けば一人はまだ20歳前。専門の研究テーマを決めるような時期でもありません。

「私の父が狩猟免許を持っていて、小さい時に父が捕ってきた猪を食べたのですが、臭くて、、、」と山梨娘。

「私は美味しかったんです」と長野娘。

同年代の仲良し2人なのに好みや感性がなぜ違うのかを確かめようと、サイトを調べて九条Tokyoにやってきたと言われちゃってはねぇ。。。

えっ? ホッペは緩みっぱなしなんてことはなかったですよ。嘘だと思うなら取材の一部始終を見せてもらってって、残念ながら顔は写っていません。

九条Tokyoが仕入れている4ヶ所のジビエの産地と卸屋のことを紹介し、試食してもらいました。ホッペが落ちたのは彼女たちのほう。ホントですってば。

訊けば、公共政策学を学んでいるんですって。ボクたちの時代にはなかったよなぁ、そんな学問。遠い昔に聞いたアメリカの大学生の就職先の話を思い出しました。

AランクはNPOへ。社会のためになる仕事で待遇もいい。そこが日本と決定的に違います。いいことをする人は待遇もいいんです。当たり前のことですよね。

Bランクはベンチャー企業へ。

Cランクは大手になった元ベンチャー企業へ。

Dランクは公務員へ。でも例外があって、正義感の強い優秀な人は検事になるそうです。そこまで優秀でない人は弁護士に。大抵の弁護士は金儲けの味方だそうで、あまり尊敬されていないとか。でもさらに例外があって、弱者や社会の正義のために尽くしたいと弁護士になる人もいるそうです。

Eランクは金融機関など大企業へ。

日本は全く逆でしょ、だから変化が起きなくて沈没していくんだって、その友人に教えられました。

話は戻って、まだ19歳と20歳になったばかりの2人に、るみ子の酒珈琲リキュールがけバニラアイスのデザートをサービスして、長いインタビューは終わりました。

あの録音は聞き直されることはあるんだろうか。それとも、大人をからかっただけ?

ちょっと気になった午後でした。



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