096 奇跡は続くよ、ど~こま~で~も

しばらくnoteを休んでいたのは、奇跡的なお客さんとの出会いに恵まれなかったからではなく、書くのに飽きたから。飽きっぽいボクのことですからお許しを。

本当に、次々と感動的な出会いはあるんですよ。
でも、今回ばかりは書かずにはいられません。
一体全体、こんなことって。。。

つい最近のことです。
リュックを背負ったガタイのしっかりした男性がやってきました。
リュックを背負っているというと従兄を思い出しますね、山男の。

「もしかして、山登りの帰り?」
「えっ?」
怪訝そうな顔をした彼は、リュックから一冊の本を取り出しました。

「この本を小林書店ですすめられて」

聞けば、チュプキタバタでドキュメンタリー映画『まちの本屋』を見て感激し、尼崎にある小林書店まで行ってきたそうです。
「東京から来たと言ったら、店長の由美子さんに、この本がおすすめと言われまして」

彼が手にしていたのは、去年、この店で常連客と一緒につくったインタビュー本『足はいつだって前を向いているじゃん』でした。

新幹線の帰りに読んで感激し、次の休みには絶対この店に行こうと思い、来てくれたというのです。嬉しいと言ったらありませんね。当然、一杯サービスしました。(って、そのことを自慢したくてこの稿を書いているのではありません)

『まちの本屋』を見ていて、尼崎の小林書店に行ったことがあり、九条Tokyoにも来て、『足はいつだって前を向いてるじゃん』を持っている人は、ボクを含めて3人目です。
いや、『まちの本屋』の大小田直貴監督を入れれば4人目か。

それだけでも稀有な存在でしょ。ノーベル賞をあげたいくらい。
でも、それだけならnoteを復活する気にはなっていないかったかも。

彼は障碍者施設で介護の仕事をしているそうです。だからあんなにガタイが、、、いや、順序は逆かもしれませんが、とにかくそうそう勤まる仕事ではありません。
連想ゲームがあるとして、『まちの本屋』、尼崎の小林書店、九条Tokyo、『足はいつだって前を向いてるじゃん』ときて、その次に介護の仕事、しかも障碍者施設のとつながったら、それって凄いことだと思いませんか。光り輝くワードがいっぱい、、、
って自慢しすぎ?

そのあと、どういう流れでか、彼のパートナーの話になり、フェアトレードの団体で働いていると言うのです。ボクの連想ゲームは涙腺崩壊に近づいています。

「どうして、その仕事に就こうと思ったんだろう?」
ボクは反省することだらけの人生を生きてきましたが、別の人生を生きたいと思ったことはありません。でも、もし許されるのならば、もっと若い時にそうした仕事に就きたかったかなぁ。この星の持続性とか人権とかフェアさとかを仕事に。

「東ティモールの独立を描いた映画がありまして、それを見て感動して、、、」

「ええー、それって、『カンタ・ティモール』のことでしょ」
「ええっ? どうして、その映画を知っているのですか?」
「知っているも何も、『まちの本屋』もそうだけど、『カンタ・ティモール』もうちの店で上映会をやったんだよ。以来、うちの店で出すコーヒーは東ティモールの有機フェアトレードのコーヒーなんだけど」
「それって、ボクのパートナーが働いているところで仕入れているものかもしれません」

なんと!
なな、なんと!

それから、
彼が見た『まちの本屋』は、うちの店で上映会をしたときに盲目のオペラ歌手・天野亨さんが感動してチュプキタバタに紹介してくれて実現したこと、
『カンタ・ティモール』は何回も上映しているうち、監督サイドから、毎回上映費を振り込んでもらうのは手数料もかかるでしょうから、まとまった金額になった時でもいいと言ってもらったこと、
などを話しました。

そういえば、最近、『カンタ・ティモール』の上映会してないなぁ、、、また、やんなきゃ。

最後に、少し前にボクが見て感動した映画、『My small land』の話をして別れました。
すると数日後、彼からメールが来て、そのメールには『My small land』を見て感動したこと、ボクに教えられなかったら見逃していたと思います、いい機会を与えてもらいました、と書いてありました。

いまどき、なんて丁寧な、相手のことを慮った(つまり、エンパシーにあふれた)文面でしょう。

ボクはこの感動を尼崎の小林書店の由美子さんにもと、顛末をメールしたのですが、即、彼女から丁寧なメールの返信があり、その末尾には
「彼のことをよろしくお願いします」とありました。
よろしくって、彼のほうがボクよりずっと行動的で、しっかりしてるじゃんかねぇ。。。

さらに「追伸」まであって、大小田直貴監督のこともよろしくお願いします、と書いてありました。まるで、お母さんみたい。
でも、もう二人とも立派な大人ですよね。見ている方向が素晴らしい。

この猛暑もあり、まったく客足の戻らない店で、たった一つの出会いが次々とつながり、ボクは一人感動にむせびながらグラスに、、、いや、それは感動とは関係ないですね。勘当ものだわ。

と、この稿はここで終わっても、充分「たびたび店で起きている奇跡」について書くという趣旨に見合うと思うのですが、その翌日に、またまた『足はいつだって前を向いてるじゃん』つながりの奇跡が、、、

尼崎からつながった彼が現れて嵐のような感動を置いていった翌日、ボクより一回りは年上と思われる男性が遅いお昼にやってきました。
「こんな時間でも開いていて、助かったよ」
仕込みに追われて、単にボクが看板をclosedに代えるのを忘れていただけなのですが。

オーダーされた料理を厨房でつくっている間、彼は『足はいつだって前を向いてるじゃん』を読んでいたようなのです。

料理をお出しすると、「この本を2冊ほしい」と言うのです。
待っている間に少し読んで気に入ってくれたそうです。

「でも、なぜ2冊も?」と訊くと
「ついこの間まで、通常の治療から見離されたガン患者が治療を受ける病院に入院していて、ありがたいことに、ぼくは1か月半で退院できたんだよ」
「それは、、、」
こういうとき、返事に困りますね。

「でも、まだ入院している人たちがいてね、毎日メールを交換しているんだけど、もう励ます言葉が見つからなくなってきてね」
「はぁ、、、」
「そこで見つけたのが、この本ってわけさ。この本を贈ってあげたいんだ。ぼくより20歳以上若いんだけど、まだ入院してて、息子さんが大学を卒業して結婚するまでは生きていたいって頑張っている女性がいるんだ」

言葉が出て来ませんね。そんな人たちのお役に立てるのなら、あの本をつくってよかったぁ、、、
しかも2日続きで、そう思わせてもらいました。

「ついでに、この内子ワインも譲ってもらえないだろうか。この店で出してる本を、そこで買ったんだと伝えたいんだ。こんなこともあるんだって」

ボクは泣きそうになっていました。涙腺が弱くなったのは歳のせいもありますが。
でも、映画『峠』を見て泣く気にはなれませんでした。って、どうでもいい話ですね。
でも、でも、あの名作を映画にしようなんて考えること自体が間違ってると思っていたけど、その通りでしょ。(すいません、余計な話ですが、一言申し述べておきたく)

数日後にも『足はいつだって前を向いてるじゃん』は2冊売れて、1週間で5冊も!
去年の6月に発行して以来、もっとも売れた1週間かもしれません。
6月って、忘れられないことばかりだわ。

ウクライナやら、香港の返還(変換?)25周年やら、帝国主義的な荒っぽい行動が目の前で起きて、この戦後70数年はなんだったのかと呆然とすることも多いこの頃ですが、奇跡って起きるものじゃなくって、起こすものだということを、改めてここに記しておきたいと思います。

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