宮崎駿の世界にあるほんとうの幸い
「おそらく、訳が分からなかったことでしょう。私自身、訳が分からないところがありました」
という宮﨑駿監督のコメントは、
宮沢賢治の言葉を想起させた。
宮沢賢治の世界もわからないことばかりだ。
子どものころ『銀河鉄道の夜』を読んで
全然わからずおもしろくなくて読まなかった。
大人になって、『銀河鉄道の夜』を読んでびっくりした。
あの世へいく鉄道だったの?!
そんなに深いお話だったとは。
ラジオ番組の中で、
取り上げられた宮沢賢治の作品を、
朗読することを頼まれた。
貴重な機会をいただいて、
朗読するために賢治の作品を読んだ。
初めて読むものが多かった。
どれも不思議な世界を醸し出している。
番組で日本大学の山下聖美先生が
先生なりの解釈をお話しされているが、
それがとても深い。
すべての賢治の作品の根底に
死の気配がある。
そんななか、
『君たちはどう生きるか』を観た。
観ながら思った。
私は自分の母親を自分で選んで生まれてきたのだと。
その感想を先生にお話ししたら、
インパクトがあったらしく、
その足で観に行かれたらしい。
番組内での賢治の作品解釈に、
宮﨑駿監督の『となりのトトロ』も挙げられた。
宮﨑駿監督作品の源に、賢治と重なるところがある。
過去に宮崎駿は、ある母親に自分の幼い子どもが
トトロが大好きでビデオが擦り切れるまで見ている、
と言われて大きなショックを受けたという。
映画は一度見ればいい、
そのあとは本当に自然の中に入って遊んで欲しかったのに、
ずっと自分の作ったアニメの世界に入り込む。
自分の矛盾に気づいた。
この世が美しく素晴らしいということを示すために
アニメーションを作ったのに、
子どもたちは宮崎駿がその現実よりも素晴らしい
アニメーションの美と快楽に囚われている。
『君たちはどう生きるか』にあらわれる異界は、
美しくすばらしい世界というよりも、
不気味で不穏な気配に満ちていた。
アオサギの中からおじさんが出てくる気持ち悪さ
と対照的に、
現実世界であらわれた新しい母親である
夏子さんの登場シーンの
ハッとする美しさと女らしさ。
陰と陽を両方をしっかりと描く。
なぜなら、この世界は
陰と陽が必ずセットなのだから。
宮﨑駿監督が、これまでしっかりと
筋道立てて意味を把握してつくりこんでいたとすれば、
『君たちはどう生きるか』は
おりてきたものを描いたのだろう。
宮沢賢治が何か大いなるものに突き動かされるように
書いたように、
個人としての宮﨑駿監督を超えた存在が
つくったのではないだろうか。
だから、自分自身も訳がわからないところがある。
賢治がほんとうのさいわいを求めたように
宮﨑駿監督が思うそれがあらわれている。
胸元に汗が流れ落ちた。
と思ったら、
顔から流れ落ちた涙だった。
からだが震えるほど
ぼろぼろ泣いた。
私は自分で、
母を選んで生まれてきた。
なんでそんなことがわかるのかと聞かれても、
もうどうしてもそんな気がしてしかたがない
としか思えない。
母の子どもで私は幸せだなと思った。
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