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アンビバレンス

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どんな形容詞も邪魔だ。
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2017年8月の記事一覧

清朝(成鳥)

固まった使用済みコンタクトレンズを蛇口に貼り付ける不躾さを自身に恥じるほど、彼女との生活は懐かしく馴染み、それでいて規律正しく機能していた。

洗面所を出ると、彼女が並べた机の上に寝袋を敷いて眠っている。効き過ぎた冷房を気遣って深夜に彼女の生脚にパーカーをかけたのだが、それは肌けて床に落ちている。

奇妙な寝床だった。無償で泊めてくれるキリスト協会の一室には、小学生用の机が無造作に並べられ

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『思い出のマーニー』

『思い出のマーニー』

魔法使いみたいな言葉遣いをする人がいるもので。その人といると、心地よい宇宙旅行をしている気分になるの。ふわりと漂って、呼吸も忘れる。それでも、生きていける。星々の瞬きは、二人を歓迎しているよう。

それはきっと、運命に導かれている。だから何一つ無理はしないで、リンゴが木から落ちたり風船が空へ舞い上がったりするのと同じく、ごく自然に幸せが降り注いでくる。怖いくらいの幸せだ。

『思い出のマー

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