【400字ショート】イチねこ



「むぎは僕のイチねこだよ」


 初めて会った時から変わらない優しい匂いのままボクに言う君は、今日もまた、誰かを思って何かを飲み込んだみたいだ。固まりかけている心が見える。ボクは君にも君自身を大切にしてほしいといつも思うけれど、人間ってのはそう簡単じゃないらしい。


 ボクには君と話したり君の頭を撫でたりはできないけれど、できることもある。昔、お母さんが教えてくれたんだ。「私たちは心を触ることができる生き物だから、みんなの心を固めたりほぐしたりできるのよ」って。


 だからボクは、今日も寝ている間に君の心をほぐす。毎日頑張っているねって、頑張れ、頑張れって思いながら前足で心をフミフミする。そうして次の日の朝「おはよう、むぎ」って笑いながら言う君の顔を見るのが幸せなんだ。


「むぎは僕にとって、たった1匹の大切なイチねこだよ」


 いってきますと手を振りながら言う君に、ボクは「ニャー」と返事をした。




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