「レジ袋有料化は意味ない」は正しいが間違い
こんにちは、ゲスい経済学徒です。2020年7月1日よりレジ袋が有料となりました。2015年より後の世代からは「レジ袋がタダだったときがあったの?いいなあ」と将来言われるかもしれません。
さて、すべての政策にはいい影響と悪い影響があります。両者を比較して、いい影響が大きければ政策は成功ということになります。では、レジ袋有料化は成功したのでしょうか?
経済学的に考えてみましょう。
※時間がない人のための要約:レジ袋有料化は、環境への効果量としては非常に小さいので意味がない。ちなみに、レジ袋有料化は経済学のピグー税とよばれるシステム。この観点からすると、レジ袋有料化の議論は「やることに意味があるかどうか」ではなく「どのくらいの税が適切か」であるべき。「やることに意味がない」と結論するのは、「10円ガムはタダにすべき」と同じ暴論である
1、レジ袋有料化の政策意図
なぜレジ袋は有料化したのでしょうか?それは環境問題への対処のためです。政府の資料によれば、海洋プラスチック問題や地球温暖化への対策が背景にあると記されています。
また、別の資料によれば、ヨーロッパの先進国は軒並みなんらかの措置を講じていることが指摘されています。
※例
・ EU→指令で各国に対策を求める
・イギリス→有料化(10円程度)
・フランス→禁止
・他の有料化国→スペイン、オランダ
さらに、2008年には中国が有料化しています。
これらからわかることは、レジ袋有料化については「1、海洋プラゴミ問題への対処」「2、国際的な流れに遅れない」という政策意図があったと言えます。
理由が2つあるのはよくあることで、たとえ「数学やらなきゃ」と思っててもやらず、周りの友達がチャート式数学やりはじめてから「みんなやってる!やらないと!」となるのは日常生活でもよくあることです。
さて、では問題は「みんなやってるチャート式数学(レジ袋有料化)は効果的かどうか」です。
2、レジ袋有料化の効果(海洋プラゴミ問題)
もともとの政策意図に海洋プラゴミ問題と地球温暖化対策が挙げられていました。この二つについて考えてみましょう。
まずは、海洋プラゴミ問題です。
そもそも海洋プラゴミ問題は、2016年のダボス会議で「2050年には海の魚の量よりもプラゴミの量の方が多くなる」という衝撃的な発言があったことで大きくクローズアップされた環境問題です。
それでは海洋プラゴミの内訳はどうでしょうか?環境省の資料によると、海洋プラゴミで大きな存在感を放つのが、漁具ロープやブイといった漁業関連ゴミです。一般人が関わるゴミですと、ペットボトルになります。
問題はレジ袋=ポリ袋であって、なんと1%以下もの割合を占めています。
もしもレジ袋有料化のためにプラ袋が一切使われなくなったとすると、海洋プラゴミの量がだいたい1%も減るという計算になります。すごい!
若干皮肉めいてしまいましたが、(上の統計が取られた)日本近海に限ればレジ袋の有料化の効果量はかなり少ないと言えます。
3、レジ袋有料化の効果(地球温暖化問題)
次に地球温暖化問題についてです。
これについてはいい記事がありましたので、引用させていただきます。
レジ袋不使用によるCO2削減効果については色々な数値が出されていますが、環境省『我が家の環境大臣』によれば、レジ袋1枚(10g)を使わなければCO2を61g減らすことができるとされていますので、1日1枚として、年間 22kg減らすことができる計算になります。
一方で、Googleで検索するとでてくる世界銀行がソースの一人当たりのCO2排出量は、9.54トンです。
ですので、一切レジ袋を使わなくなったとすると、割り算して一人当たり0.01%もCO2を削減することができるのです。すごい!
若干皮肉めいてしまいましたが、レジ袋の有料化の効果量はかなり少ないと言えます。
4、中間報告:レジ袋有料化は意味ない
一つ目の政策意図である海洋プラゴミ問題、地球温暖化問題について、レジ袋有料化は効果があるがかなり少ないという結論になりました。
二つ目の政策意図である外国からの冷たい目線を回避することには繋がりますから、ここの効果は認めましょう。
ただ、実質的な効果量と言う点では意味がないと言わざるを得ません。
5、経済学的な環境問題への対処: ピグー税
しかし、ここはゲスい経済学徒のブログです。ここでは終わりません。
近代経済学の精神的支柱は「いろいろ考えるとやっぱり自由な市場取引をすると社会の満足度が最大になる」にあります。
その観点からは環境問題で人類の満足度が下がるのは、「市場の失敗」となり我慢ができません。
ここで経済学者は考えました。こうして考え出された市場の失敗を解決する方法で最も有名であるものが、ピグー税です。
そしてと実はこれこそがレジ袋有料化の本質なのです。
考え方は簡単です。
1、レジ袋市場
まず、普通のレジ袋市場を考えると下のようになります。供給曲線と需要曲線の交点で、価格と枚数が決定されます。
2、社会の満足度の大きさ
厚生経済学によれば社会の満足度は、下のオレンジの三角形で決まります。
3、レジ袋が環境に及ぼす損害
しかし、レジ袋は少なからず環境に悪影響を及ぼしています。それは下の赤い平行四辺形の面積で表されます。
4、環境への損害も含んだ、最終的な社会の満足度
オレンジの満足度三角形から、赤の損害平行四辺形を引くと、大体下のような台形が最終的な社会の満足度になります。
5、ピグー税を導入した場合の社会の満足度
ここでレジ袋1枚の害の大きさ分の税金をかけてやります。すると、値上がりするので、レジ袋の枚数が減ってしまいます。
そうすると、社会の満足度はオレンジの三角形になり、先ほどの台形より大きくなります。つまり、ピグー税を導入すると社会の満足度は上がるのです。
6、「レジ袋有料化は意味ない」は暴論
さて、ピグー税においては
・レジ袋が環境に損害を与えること
・1枚あたりの損害=一枚あたりの税金であること
が成り立てば、有料化は合理的であると言う結論になります。
すると、レジ袋の以下の事実から
・悪影響量は少ないとしてもレジ袋は環境に悪い
・1枚あたりの損害=1円〜5円は(私にとっては)納得できる
私にとっては「レジ袋有料化」は合理的であったといえるのです。
よく考えたら、「レジ袋の有料化は効果が薄いからよくない」は「10円ガムは店の売り上げからみたらほぼないに等しいので、タダにすべき」と同じ暴論です。
我々が議論すべきはレジ袋有料化が正しいかどうかではなく、いくらの税にするかです。
すると、1円〜5円くらいの税金は合理的だと思えるはずです。
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