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落下するベビーカー【怪談】


グチャ、とかベキャみたいな音を激しく立てて空き地の中央にベビーカーが落下し、砕け散って消える。

借りたマンションのすぐ隣に空き地があって、毎週土曜日の夜10時を回ったあたり、暫く待っているとそれが起きる。

例えば心中とか心労が祟ってとか殺害がとか、そういう話は聞いた事がないけれど、とにかく毎週ベビーカーは落下してくる。試しにトラロープを越えてその真下まで行ってみたけれど、ぶつかって死ぬなんて事はなく、ただすり抜けて地面にぶつかり砕け散るだけだった。

秋口になりその空き地にマンションが建つ事になった。12階建てのファミリー向け。
工事が始まる前に地鎮祭を行ったものの、相も変わらずベビーカーは落ち続けた。時間が時間だけに労働者達が知っているのは噂程度でしかなく、施行主の意向もあって工事は進み、翌年マンションは完成した。

完成したからと言って落下が収まる訳もなく、部屋の壁をすり抜けて上から下まで落下していく。
各階1号室のシンクの真ん中を通り抜けていくものだから、皿洗いなり家事をしている人を何人も何人も驚かせては引越しさせていく。
住人から管理事務所に電話がいってその落下現象を確認してもらったものの、やれる事はやったと無下にされ、1号室の住人はことごとく出ていった。

それから数年が経ち幾度と無く1号室の住人は入れ替わり、その入れ替わりに恐れをなした他の部屋の住人も引っ越していった。
途中でサラリーマン用の月契約のマンションへと変更したが、それも長くは続かなかった。

更に数年後、マンションを建てた施行主が管理人室で首を吊った。

廃墟と化したマンションには時々肝試しにやってくる若者がいる程度で、全く人が寄り付かず、行政の命令で壊す事になった。

工事が終わりまた更地になったその空き地には、首を吊った管理人がいて、相も変わらずベビーカーは落下する。

私はただそれを見続けている。

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