満ちた孤独

 さびしさとは孤独ではない。満ちた孤独はにぎやかだ。孤独とは無ではない。一つの現象である。身体を動かすと世界が揺らぐ。骨の位置が組み変わり、筋肉の緊張のバランスが変動する。呼吸が、脈がうねる。しばらく状態は続き、また変わる。あるいは常に変わる。細胞は振動し、皮膚は伸び縮む。

 動けば世界は変わる。十分に。精神は身体の観念であるとスピノザは言ったが、身体の動き、刺激で世界は変わる。ぐらっと、ちがうものへと。じっとしていても身体は不随意に動き続けている。だから、変わらない世界なんて無い。世界は常に現象だ。

 それを知るかどうか。感じ取るかどうか。世界=精神のにぎやかさはこれであろう。このとき人は〈満ちた孤独〉である。私オリジナルの世界をあなたは体験できない。これは私の身体なのだから。逆も然り。ゆえに孤独なのである。さびしくはない。

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