<定理10-12>自分のしたい呼吸に意識を向ける重要性について

呼吸の重要性は大きい。自分がどうしたいかを知りたい、あるいは少しでも幸せな方に向かいたいと思うとき、呼吸は大きな指標となってくれる。

呼吸が自分の望むような感じであるならば、その時自分は幸せを感じていることになる。呼吸が乱れるというのは大抵、自分以外の何か(人物、状況、時間のなさ、焦り、病など)によって、自分の存在力が乱されていることを意味する。

自分が自分でいられているとき、呼吸も心地よいものになっている。それが深いか浅いか、早いか遅いか、激しいか穏やかであるか、に関して絶対的に良い呼吸などなくて、各々の状況において自分にとって心地よい呼吸がある。ランニングをしている時は睡眠時より呼吸は早く激しいだろうが、それでも心地よい呼吸となりうるように。

だから、私たちは呼吸と向き合うと幸せな状況を作りやすい。自分がどのような状態を望み、今それがどの程度実現しているのかを、身体の一定のリズムで測りやすいのである。

なぜ呼吸なのか。別に心臓の鼓動でも手の指の力の抜け具合でも表情筋の緩みでも肩が上がっているかでもいいじゃないか、と。確かにそれらが指標として機能することもあるし、人によっては、あるいはその人が今いるフェーズとしては、そちらの方が望ましいこともある。むしろ呼吸ばかり意識して、他の可能性を得られないのは広がりがない。

しかし、やはり帰ってくるべき指標として呼吸が良いように思われる。呼吸は四肢を動かす筋肉のように自分がコントロールできる随意的領域と、内蔵を動かす筋肉のように制御が困難である不随意的領域の交差する身体現象であるとされる。ゆえに、コントロールがある程度でき、かつメンタルや内蔵部分にも影響を与えることができる。

そして、呼吸のあり方は、身体の部分でなく総体的な状態を表現するように思われる。また、リズムや量など知覚のしやすさ、という点もあげられる。呼吸の浅い、深い、早い、遅いなどは誰しも直観的に理解しやすい。

以上の理由から、自分の身体、すなわち精神の総合的な状況を自覚し、ある程度制御する意識する対象として、呼吸は理想的なものである。

呼吸は先ほど述べた通り「正解」というものが一義的に確定したものではない。そのため、都度より良い呼吸を発見する必要がある。もちろん、「こういう呼吸が基本的には心地よい」という方向性みたいなものを認識しておくのは大きな助けにはなれど、この世界で全く同一の状況が起こることはない以上、その時の好ましい呼吸を見つけることなる。

この感覚は、自らの欲望と向き合う時とも親和性が高い。「私は今何をしたいのか/どのようにありたいのか」という方向性も、その都度考えるべきである。それは環境や相手やパートナーや隣に座った人や猫の状態や家事の溜まり具合や体調などに応じて変わる。全く同じ欲求ということはあり得ない。それを都度探していくのである。

これは「今私はどのような呼吸を望んでいるのか」という問いで代わりに表現することが可能である。たとえば、今自分のありたい呼吸を見つけようとしてみればいい。浅くなっていたので少し深く呼吸する。胸でなく腹にまで到達するイメージで。という風にした時から、あなたは自分の欲望についての認識も深まっていると思われる。この文章を読んだらどうしたいのか、あるいは読み切らずともどうしたいのか、それに関する判断が微妙に、あるいは決定的に変化するだろう。

「今自分がしたい呼吸」は、ストレスがかかる状況でこそ真価が発揮される。なぜなら、機嫌が良いときはすでに良い呼吸をできているからである。そうでないとき、私たちの呼吸は乱れるので、心地よい方に持っていく意識が必要となる。たとえば、これから一生懸命練習してきダンスを披露する舞台が迫っているとき、緊張感があなたの呼吸を乱すが、その時に深くゆっくり呼吸することで、精神、考え方、パフォーマンスの全てが向上するであろうことは想像に難くない。

理想の呼吸状態にすることは困難であるが、少しでもそちらに近づけられるなら良いのだ。人はどちらに向かえばいいのか、そして少しでも自分の力でそちらに向かえるのだという認識を持てた瞬間から、自分のエネルギーを表現する自信を取り戻す。

緊迫した状況に置かれたとき、少しでも呼吸に意識を向ければ、そして「呼吸をどのようにしたいか」を考えれば、怒りが緊張が不安が焦りがストレスがパニックが、穏やかになる可能性は高まる。

これを知っているだけでも、負の感情に飲み込まれずあなたが自分でいられる予防策になっている。実際体験してみて、腑に落ちているのならこの効果はさらに高まるであろう。

あなたは、どのように呼吸し(生き)たいだろうか。

定理
(10)呼吸は、身体や心の総体的な状態を自覚し、改善するための優れた指標となる。
(11)「正しい呼吸」が一義的に決まっているのではなく、都度「望みの呼吸」を見つけていく必要がある。
(12)ストレスがかかった状態こそ、「自分のしたい呼吸」を見つける努力の効果を実感しやすい。

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