大阪都心の社寺めぐり-地域のお宝さがし-18難波八阪神社
■獅子に邪気をはらってもらい、幸運のパワーをもらおう!■
祭 神:素戔嗚尊、奇稲田姫命、八柱御子命
所在地:〒556-0016 大阪市浪速区元町2-9-19
■上があれば下がある■
当社は、延久年間(1070頃)から牛頭天王社として知られていました。祭神の素戔嗚尊は、牛頭天王の化身だとされ、農耕・悪疫退治の守護神です。元来、七堂伽藍・十二坊をもつ仏寺でしたが、兵火によって廃絶したそうです。
第15回で紹介した難波神社は、江戸時代には「上難波仁徳天皇社」や「上の宮」(『摂陽奇観』)と呼ばれていましたが、上に対する下は難波八阪神社で、「下之宮」、「難波牛頭天王社」(『摂津名所図会』以下『図会』)、「なんばの祇園」(『浪速の賑ひ』以下(『賑ひ』))と呼ばれ、難波一帯の産土神として信仰されていました。
■江戸時代の景観■
『図会』によると、境内には拝殿・本社のほか、「末社八王子祠・稲荷・霊府神・天満宮・歓喜天・采女宮」(図1)があり、社僧は大門坊、本尊の深妙(深沙)大王は、「是多聞天の化現なり」、すなわち多聞天が姿を変えてこの世に現れたもので、神仏混淆の様子が窺えます。
図1
●大門坊はどこ●
まず、当社が戎橋の南西に位置することを確認しましょう(注1・図2)。江戸時代の地図によると(注2・図3)、北端の瑞龍寺の「南四五町」(約490m、『大阪府誌』)にある「祇園宮」が当社で、大門坊は同じ境内の北側に確認されます。図3に描かれた、西側の鳥居・門、唐破風がついた拝殿の配置は図1と同じです。
図2
図3
注
1)「大阪市パノラマ地図」(大正13年=1924、復刻版、ワラジヤ)
2)「増修改正摂州大阪地図」(文化3年=1806)
●鳥居の前●
鳥居の前、すなわち西側の通りでは、毎朝、野菜や鮮魚、乾物類などを売る朝市が開かれ、「交易の繁昌なること言語に絶す」(『賑ひ』)と、大いに賑わっていました。また、正月14日には、壮大な「綱引」が行われました(図4)。
図4
これらから、西側が当社の正面であることが分かります。
■近代の景観■
図2で見たように、大正時代には当社の周辺には警察や郵便局などができ、急激な近代化(洋風化)により、景観が大きく変わっています。社地を見ると、西側と南側に鳥居がありますが、南側の鳥居の奥に社殿が見えていることから、南側が正面であることが分かります。
すなわち、神仏混淆の江戸時代には西面が正面だったのが、神仏分離で大門坊が廃絶し、明治5年(1872)に郷社となったおりに、南側を正面とする近代神社に変貌したと思われます。ただし、正面を南としただけで、江戸時代の社殿配置の構成は継承されたものと推測されます。
■現代の景観■
当社は、昭和20年(1945)の空襲に罹災し、同49年に再建されました。高い基壇の上に建ち、入母屋屋根[いりもややね]の平[ひら]側に大きな千鳥破風[ちどりはふ]、一軒[ひとのき]の軒先に優美な曲線の唐破風[からはふ]が設けられた拝殿は、図1と形態がよく似ています(図5)。
図5
唐破風の下は、下段の虹梁[こうりょう]の中央に蟇股[かえるまた]、上段の虹梁の下部に眉[まゆ]、左右に袖切り[そでぎり]と、若葉文様[わかばもんよう]が施され、中央に菖蒲桁[しょうぶげた]を受ける斗[ます]と笈形[おいがた]などで構成され、木造の形態が遵守されています(図6)。
図6
この部材構成は、坐摩神社拝殿(第14回目)に類似しています。圧巻は獅子殿です。目はライト、鼻はスピーカーとして機能しています(図7)。
図7
■閑話休題■
「綱引」は、江戸時代には、「村中競ひ勇んで賑へる事新春の一奇観なり」評判でしたが(『賑ひ』)、平成13年(2001)に、大阪市の無形民俗文化財に指定されました(図8)。
図8
獅子殿は、国内だけでなく海外でも有名なのでしょう。大勢の中国人がガイドブックを見ながら、「ホラ!あれだよ!!」と、騒ぎながら記念撮影をしていました(中国語は分かりませんので、雰囲気ですが・・)。神聖で静寂な境内であろうがなかろうが、ところ構わず騒ぎ、樹木の枝を折るなどの迷惑な行為にも慣れてきましたが、「あれでご利益があるのだろうか」と、ふと思いました。
【用語解説】
入母屋屋根:寄棟屋根と切妻屋根を合わせた屋根。
平:棟と平行な側。
千鳥破風:屋根面に設けられた切妻の破風。
一軒:地垂木だけで構成された軒。
唐破風:向拝などに設けられる、中央部が起(むく)り、両端部が反っている破風。
虹梁:社寺建築などに用いられる、中央部に起りをつけた梁。
蟇股:虹梁などの上に配される、かえるが股を広げたような形式の部材。
眉:虹梁などの下部に施された眉形の彫刻。
袖切り:虹梁左右端の薄く欠き取られた部分。
若葉文様:植物の葉を図案化した模様の総称。
菖蒲桁:唐破風などの破風板を支えている桁。
斗:組物を構成する、上部が直方体、下部が曲面の部材。「と」ともいう。
笈形: 大瓶束の左右に施された装飾。
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