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「小さな私」を抱き上げて

イエスが座り、十二人を呼び寄せて言われた。「いちばん先になりたい者は、すべての人の後になり、すべての人に仕える者になりなさい。」そして、一人の子供の手を取って彼らの真ん中に立たせ、抱き上げて言われた。「わたしの名のためにこのような子供の一人を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。わたしを受け入れる者は、わたしではなくて、わたしをお遣わしになった方を受け入れるのである。」

新約聖書 マルコによる福音書 9章35-37節 (新共同訳)

こんにちは、くどちんです。キリスト教学校で聖書科教員をしている、牧師です。

近頃YouTubeでBTSの動画ばかり見ているからか、こちらの動画がおすすめに出てきました。

8歳と42歳のARMY(=BTSファン)の対話。二人の間に流れる、穏やかだけれど微笑ましく温かな空気に、和みつつ視聴しました。

当然私はこの「42歳のARMY」さんに近いわけですが。対話の中で「好きな曲」として彼女が挙げたのは、「Wings」「2! 3!」「Magic Shop」。

分かる……分かるよ……! それ、私らの年代にこそきっとぎゅんぎゅん響くよね……!! と、激しく共感してしまいました。

彼女は続けて、それらの曲が好きな理由をこう語るのでした。

「おばさんが好きな曲は、大人を癒してくれるような曲で好きです。『ゆっくり行っていいよ』『あなたも愛されることができるの』みたいな気分になるからすごく好きです」

分かる……分かるよ……!!(2分ぶり2回目)

何でしょうね、BTSってこんなにキラキラした人たちなのに、めちゃくちゃ痛みを知っている人の気持ちを歌うんですよね。上手くいかなかったり、人から好かれていないことに気付いちゃったり、自信が無くていろんなことを諦めちゃったり、何かが手に入らないという事実を直視できずに欲しくなかったふりをしたり。そんな心のささくれに、ひとつひとつそっと優しく触れて、撫でてくれるような歌。それがアラフォーARMYの琴線に触れるのだと思います。ちなみに私が今「好きな曲は?」と聞かれて3つ挙げるなら、「Spring Day」「Lights」「00:00(Zero O'clock)」かな……。彼女より私の方が一層感傷的な感じがしますなぁ。

子どもは割とてらい無く「ねぇ、私を、僕を見て! こんなこともできるよ!」とアピールします。大人になると、比較だの謙遜だの卑屈だのがいろいろ邪魔して「私なんてどうせ……」と思ってしまいがちです。本当は褒められたい。「頑張っているね」と認められたい。でも「それくらいで何言ってるの」と切り捨てられちゃったらどうしよう、「他の人はもっとやっているのに」と否定されちゃったらどうしよう、そんな恐れがあるから素直に「頑張ったよ」と言えない。

私の場合、仕事でもそうですし、家事や育児でもそうです。「他の人はきっともっとすごく成果をあげている」「私なんかよりずっとしんどい中で努力している人もいる」「それなのに私はこの程度のことしかできていない」。自虐クドウがどんどん膨れ上がって、頑張ったはずの自分を責め苛んで、傷だらけにしていきます。

誰かと比べて「自分も頑張ろう」と前向きな気持ちが湧いてくるならともかく、そのことで落ち込んだり自分を傷付けたりしているなんて、何だか悲しいしもったいないですね。私たちが自分で自分をいじめることを、神さまは望んでおられないはずです。

冒頭の聖句では、「自分たちの中で誰が一番偉いか」とまさに比較しまくりな弟子たちに対し、イエスさまが「子どもを受け入れるような人になりなさい」と諭す場面です。

当時のユダヤ社会で子どもは文字通り「半人前」、厳しい言い方をすれば「まともな人としては扱われない」ような存在でした。その子どもを「抱き上げた」というこのくだりが、私は好きです。ふわりとイエスさまに抱き上げられる温かさ、自分の体重を預けられる安心感、「半人前」の自分を受け入れてもらえた喜び。そういったものが、読者である私たちにも届いてくる気がします。

小さいこと、弱いこと、序列が低いこと、力が無いこと。そういうことを否定して、「何とか前へ行かなくちゃ」「何とか上に立たなくちゃ」と、今の自分を傷だらけにしながらもがく私たちに、「いいんだよ、私はそんなあなたをそのままで受け入れているよ」と語りかけてくださるイエスさま。「小さな私」を卑下するのではなく、「小さな私」をそのままに私たち自身が受け入れる時、「私たちを受け入れてくれているイエスさまを、受け入れる」という「入れ子」のような信仰が生まれるのかもしれません。

私たちが私たち自身を受け入れて慈しみつつ歩むことができたら、その生き方自体が、「そんな風に生きても良いんだな」という、傍らの誰かの励ましになるかもしれませんね。自分自身を愛おしみ、抱きしめつつ歩むこと。それで誰かに「イエスさまを信じて生きるって素敵だな」と思ってもらえたら、素晴らしい宣教ではありませんか!

そういうわけで、イエスさまの言葉と共に、BTSの歌詞にも励まされつつ、できるだけご機嫌で過ごしていきたいなぁと思う今日この頃の私です(笑)

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