恋愛ドラマという言葉で表すには余りあるほど「アオハライド」に心が揺れた。
同じ作品を見ているはずなのに、
見ている年齢が違うだけで感想が
まるっきり変わることがある。
私にとって「アオハライド」が
まさにそれだった。
累計発行部数1300万部を突破した
少女漫画で、私が学生の頃には、
アニメ化はもちろん、同時期に
本田翼主演で実写映画化もされた
超人気作。友人と映画館に行って
千葉雄大が演じる冬馬に心を
掴まれたことを今でも覚えている。
そんな人気作が、数年の時を経て
再度実写化されることが決まった。
「君に届け」の再実写化が一足早く
出ていたこともあって、そこまで
抵抗感はなかったし、キャスト陣が
発表になったとき、櫻井海音くんの
雰囲気が思いのほか洸だったのも
あって、胸キュンが楽しめそうだと
少し期待が高まっていた。
しかし、Season1とSeason2の
全13話を見終えたとき、私は
思いがけずボロボロ泣いていた。
まだ何の挫折も知らない、挫折だと
思っていたものはただのかすり傷
程度のものだと知らなかった頃の
中学生くらいの私は、この作品を
洸と双葉の恋の話だと認識して
いたんだと思う。
だけど、20歳をとっくに超えて、
夢に破れたり、人間関係の悩みに
打ちひしがれたり、何よりも家庭の
問題に雁字搦めになったりしてきた
数年を経て見る「アオハライド」は
恋の話なんて言葉では到底まとめる
ことはできなくて、何なら恋の話の
後ろにある葛藤や挫折がメインの
テーマにすら思えて、気付けば洸に
自分を重ねて号泣していた。
その時の感情を忘れないように、
ここに綴っておこうと思う。
【防衛本能と予防線】
まずはこの物語の鍵となる、双葉の
前から姿を消した中学時代の洸に
一体何が起きたのかについてここで
触れておきたい。
Season2で詳しく描かれるけれど、
当時、洸の両親は離婚をしていた。
母親についていき、長崎で暮らす
ことになった洸は、母に楽をさせて
あげたい一心で勉強に打ち込んだ。
しかし、母が病気を患っていて、
もう永くないことを知る。母親の
傍にいたのは自分だけだったのに
何で気付けなかったのか、もっと
早く気付けていれば、と洸は未だに
自分を責め続けていた。
Season1のときから、洸は再会した
双葉に対して、
「いなくなった奴のことなんか
どうでもいいだろ」
と言ったり、
「大声出すなよ、ウザいから」
と冷たい態度で距離を取ろうとする。
だけど、そのあとすぐに
「ごめん…灯籠祭」
と寄りかかったり、洸が可愛がる
野良猫を見て、連れて帰ったら?と
提案する双葉に、
「連れて帰ったら大事にしちゃう
じゃん」
「大事なものができるとさ、色々…
しんどくなるから」
と本音をこぼしたり、達観した
大人のような態度がぶれてしまう
瞬間が度々あった。
2人の想いがすれ違ってしまうとき
洸は双葉にこんな言葉をかける。
「やっぱ、そうなんだな、そういう
風にできてんだな俺ら」
母親のことだけじゃない。
両親の離婚の渦中で、洸は双葉と
灯籠祭に行くことが叶わなかった。
父や兄とも離れることになり、
双葉のことを諦め、その末に
唯一の光だった母親すらも失った。
双葉に対して冷たく接するのは、
洸の一種の防衛反応なんだと思う。
これ以上大切なものを失ったら、
自分を保てる自信がないから、
端から大切なものは作らない。
大切になる前に突き放す。
どこかで自分のことを諦めながら、
それでも心の底では大切にしたいと
思ってしまう洸の切ない想いが
痛烈に突き刺さった。
【四者四様、それぞれの苦しさ】
2部作となっているこのドラマで、
特に刺さったのはSeason2だった。
Season2になって現れた成海は、
母親にも見捨てられて、親戚の家に
預けられるも、肩身は狭く居場所が
どこにもなく、洸と出会った中学
時代よりも状況が悪くなっていた。
洸はそんな成海を放っておけず、
双葉といるにも関わらず、成海の
元へ向かってしまう。そんな洸を
無我夢中で追いかけ、名前を呼び
ながら赤信号へ飛び出しそうに
なった双葉を止めたのは冬馬。
そして2人の視線の先には、成海を
抱きしめた洸。双葉に見えるよう
わざと抱きついたと伝える成海を
受け入れたときの洸の表情はもう
全部諦めているようにも見えた。
きっと名前を呼ばれて振り返った
とき、洸はまた「やっぱりな」と
悟って、諦めたんだと思う。
双葉と洸、成海と冬馬の四角関係は
どこをとっても苦しくなる。
〇決着がつかない双葉の苦しさ
双葉の恋は中学時代から続いていて
ようやく洸と近づけたと思ったとき
成海が現れる。洸は自分の気持ちを
知っているはずなのに、応えるでも
突き放すでもなく成海の傍にいる。
それなのに冬馬との距離が近づくと
冬馬にけん制をする。叶わないと
思い知らされるのに、諦めさせては
くれない。そんな洸に嫌気がさして
投げかけた言葉が切なかった。
「洸は今まで自分のこと好きだった
奴が、他の所に行きそうなのが
嫌なだけでしょ。自分は好きじゃ
ないけど、自分のことは好きでいて
欲しいなんてそんな感じでしょ?
馬鹿にしないでよ。私がいつまでも
洸のこと好きだと思ったら
大間違いだから」
洸が冬馬にけん制する度に、双葉は
もしかしたら洸もと期待してしまう。
叶うんじゃないかと思ってしまう。
諦めようと思ってるのに、簡単に
諦めさせてくれない。どっちつかずで
期待だけが膨らむのは苦しすぎる。
洸と偶然会った帰り道、また洸に
期待してしまう自分を振り切るかの
ように走りだす双葉の
「いくらでも自分に都合よく
考えられてしまう。こんな想いに
追いつかれたくない」
という言葉が切なく、痛かった。
〇冬馬の悲痛な「俺を利用しなよ」
双葉に想いを寄せる冬馬もまた、
どっちつかずの洸に苛立っている。
洸が成海を追いかけるところに偶然
居合わせた冬馬は、洸を見て
「あいつただのチャラ男じゃね?
あっちにもこっちにも
いい顔してさ」
と嫌悪感たっぷりに友人にこぼす。
洸の事情を知っている視聴者から
すれば洸が不憫に思えるけど、
冬馬目線で見ればそう思うのも
無理はない。
周りからいじられる双葉を庇った
冬馬に洸が声をかける一幕の会話が
苛立つ理由を物語っていた。
「庇ってくれてどーも」
「お前に礼言われる筋合いないから
吉岡さんのためにやったことだし」
「だから俺が言ってんじゃん」
「どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だけど」
はっきりしないスタンスのくせに
彼氏面でけん制されたらそりゃあ
嫌悪感も増すよ…。
それでも冬馬はただ双葉を真っすぐ
思い続けて、その想いを言葉で
双葉にぶつける。
冬馬は胸キュン台詞止まらない
当て馬選手権優勝候補なので(?)
全貌は是非その目で見て欲しいけど
とどめの台詞は置いておこうと思う。
「俺を利用しなよ。最初は馬渕を
忘れるためでいい。吉岡さんの心に
今誰がいたって負けたりしない。
それごと全部引き受ける」
「吉岡さんは今のまんま、俺の
ところにくればいい。馬渕のこと
好きだったことなんてすぐに忘れる
くらい俺ばっかりにさせてみせる
から。俺、かなりおススメだよ?」
こんなに真っすぐぶつけられたら
さすがに心動くだろ…ってくらいに
冬馬はまっすぐ想いをぶつけて、
双葉と付き合うことになる。
だけど、洸と双葉の間にはやっぱり
特別な何かを感じざるを得ない。
そんな状況に今度は冬馬が洸に
けん制する。
「人の彼女に陰でちょっかい
出すなよ」
「じゃあこれからは堂々と
ちょっかい出すわ」
「フラフラしといて今更何だよ。
俺は、吉岡さんしか見てない。
お前とは違う。だから負けたり
しないんだよ」
「それは吉岡が決めることだから」
もうバッチバチ音が画面越しに
聞こえてくるんじゃないかって思う
くらいには火花が散るシーンだ。
でもそう言いながら、きっと冬馬は
いつ洸に双葉を取られるか不安で
たまらなかったんだと思う。
冬馬が双葉にキスをするシーンは
大抵、繋ぎとめたいという気持ちが
透けて見えたし、冬馬らしからぬ
行動だと感じた。
自分の努力ではどうにもならない
洸と双葉の関係性に焦る冬馬もまた
凄く苦しい立ち位置だと思う。
〇縋る先が欲しい成海
バチバチするのは洸と冬馬だけでは
ない。成海を突き放せずにいる洸を
見た双葉は成海に直談判しに行く。
「洸を解放してあげて欲しい」
「成海さんの境遇には同情する」
そんな言葉を投げかける双葉。
成海はその言葉に半分は怒って、
半分は泣きそうになりながら、
「吉岡さんがここにいるのは
洸ちゃんのためじゃない。
自分のためでしょ?」
「私といると洸ちゃんの時間が
止まるなんて妄想押しつけんでさ!」
と返す。学生時代は、このシーンを
見て「成海嫌な女!現に洸の時間は
止まってるじゃん!」と思っていた。
だけど、ドラマでこのシーンを見て、
「そりゃあ成海はそういうよ」と
双葉に嫌悪感を抱く自分がいた。
正直私はこのシーンの双葉が嫌いだ。
洸を失うのが怖いのも、洸の過去を
引き合いに出して気を引こうとして
見える成海が嫌なのも分かるけど、
成海の境遇を理解したかのように
「同情する」と言ってしまうのが
本当に嫌だ。双葉が成海に放った
“同情する”は、理解から程遠い
上から目線の言葉でしかない。
きっと洸と同じで成海もまた、
寄り添いのように見える同情を
たくさん浴びてきたんだと思う。
洸が成海に今までのように傍には
いられないと伝えに来たときの
言葉がそれをよく表していた。
「これ以上一緒にいるのは成海の
ためにならないとか、そういう
綺麗事で自分を守るようなこと
言ってさ!言ってくれんば文句も
言えないやん…」
両親にも親戚にも、もしかしたら
友人にも。成海はきっと綺麗事で
突き放されてきたんだと分かる
このセリフに思わず涙が溢れた。
洸は、同じ経験があるからこそ
綺麗事で突き放したりしない。
きっとそれは、成海が洸に惹かれた
理由でもあるんだと思う。
好きになった理由を離れるときに
また実感してしまうの苦しすぎる。
ただ好きなだけなら、洸が双葉を
思っているのを目の当たりにして
割り切れたかもしれないのに、
そこに、今洸を失ったら自分は
本当にどこにも行き場がないという
不安や苦しさが乗っかって、洸を
失いたくないと強く思ってしまう。
そしてそんな感情を誰より一番、
成海自身が理解していそうなのが
あまりにも苦しかった。
〇過去から踏み出そうとする洸
成海と同じような経験をしたことが
あるからこそ、突き放される側の
気持ちが誰よりも分かるから、
成海を守りたくて、助けたくて、
見放せずにいた洸もかなり辛い。
挫折をしたことがある人なら多分
分かると思うけど、人間って辛い
ことから逃げ出したいと思いつつ、
苦しんだ時間が長ければ長いほど
そこにいる自分に慣れて、その
苦しさに依存してしまうと思う。
きっと何か別の苦しさがあったとき
「あの頃よりましだ」と思えるし、
そこから逃げ出したあとで、また
同じような、はたまたその経験を
超える苦しさが起きたら耐える
ことができないと思うから、今の
苦しさに依存してしまう。
Season2の洸はそのジレンマから
抜け出せるかどうかの狭間にいる。
そして、その手助けをする存在が
洸と双葉の友人、小湊亜耶だ。
双葉を想いながらも、成海のことを
突き放せずにいる洸を見て、小湊は
「どんだけ女々しいんだよ」
「無理矢理同調すんな!そういう
楽の仕方すんなよ!」
と怒りながらぶつける。
その小湊からの喝で洸は少しずつ
変わり始め、自分の本音をこぼす。
「思い出したくないって言いつつ、
本当に思い出せなくなってきた
ことに罪悪感みたいなのが
あってさ。成海に便乗して
ちゃんと思い出して、ちゃんと
悲しんでる自分にどこか安心して
たんだと思う。こういう楽の仕方は
本当に違うよな」
まさに洸は、今の苦しさに依存した
状態だったんだと思う。小湊の
言葉を受けてからは、成海に謝り、
双葉にも気持ちを出すようになる。
「簡単だと思ってた。吉岡のこと
吹っ切るなんて簡単だと思ってた。
吉岡舐めてたわ」
と言う洸の表情は、いつも通りで
でもどこか決意した清々しい顔にも
見えて、心をぐっと掴まれる。
何度も始まりそうで始まらなかった
洸と私はそういう風にできてると
言った双葉に、洸が放つ
「いちいち間があるなら俺やっぱり
奪うわ、吉岡のこと」
「今度こそ始めるために俺を選べよ」
の破壊力は尋常じゃない。
一番大きな変化は過去と向き合う
覚悟ができたことだと思う。
修学旅行で長崎に行ったとき、
洸はグループを抜け出して母との
記憶をたどりに向かう。追いかけて
きた双葉を見て、自分は改札を
通った状態で「一緒に来てよ」と
声をかけた後、「何てな」と言った
洸にまた涙が出た。辛い過去と
向き合うって簡単なことじゃない。
苦しいし、目をそむけたくなる。
きっと怖かったはずで、双葉が
改札を通った瞬間、洸はきっと
好きとかの嬉しさは置いといて、
ただただ安堵しただろうと思う。
そんなことを考えていたら
ボロボロ涙が溢れていた。
洸が思い出の地を巡っているとき、
私はてっきり過去と向き合うのが
目的だと思っていた。でも、洸は
多分そうじゃなかったんだと思う。
自分の気持ちを押し殺して無理矢理
同調したり、過去にとらわれて今を
諦めてしまう自分を払拭するために
洸は過去と向き合うことを選んだ。
これは完全に私事だけど、私にも
いまだ向き合えない過去の大きい
トラウマがある。洸のように、
自分から飛び込んで、向き合って、
そこにとらわれる自分を払拭する
ことができるかと言われたら、
多分無理だと思う。考えただけで
呼吸が浅くなる。
だからこそ洸の姿に胸を打たれた。
中高生の頃、漫画やアニメ、映画で
観た時はキュンキュンする~と
思って見ていた作品に、こんなに
心を揺さぶられる日が来るとは。
過去のトラウマと向き合う姿とか
拠り所を失う怖さとか、そういう
部分の描写がリアルで繊細な
ドラマ版「アオハライド」を見て、
同じような感情を持つ人の希望が
増えたら嬉しいなと思う。
私も、今は無理だけど、いつか
もし向き合おうと思えたら、この
作品を見返そうと思う。
このnoteで取り上げたのは、双葉と
洸、成美、冬馬、そして友情面での
小湊だけだけど、他のメンバーの
恋模様も含めて、しっかり胸きゅんも
詰まった作品なのでそこも是非
見て欲しい🙂(特に小湊可愛いよ)
甘酸っぱくて、切なくて、苦しくて
でもどこか爽やかで、背中をそっと
押してくれる。一度きりの青春を
年を重ねてもまた再び味えるような
素敵なドラマだった。
※セリフは本編から引用しています
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