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藤鬼様

我町の片隅にある神社の境内にある大きな藤の花 樹齢を200年超えるというその木にはこの時期だけ子供は近寄ってはいけないと言われている 「藤鬼様が出るから子供は近付くな」 ここで言われる常套文句 藤の木に宿ったという鬼は子供が大好きで 不用意に木に近づく子供を食べており 神社の娘でもある巫女が命懸けで鬼を封じたが、それでも鬼の力が強くなる藤の花が咲く季節には封印が破られるのだという 以下、この話は私の祖母である頼子から聞いた話である 頼子は幼い頃、近所に蝶子という幼馴染がいた

    • 恋に酔う

      こちらはyoutubeにてemiko様が朗読されました https://youtu.be/7w9ys1Q8Ug0?si=98Hr2vOfvnpFekcf 俺は営業で外回りの仕事をしている 俺の外回りコースの一つにある寺の藤棚をこの時期の休憩場所としている 平日だと見学に来る人間も少なく 沢山の花と葉はちょうど日陰を作る 日差しよけとなった藤棚の下にそよ風が吹き最高の休憩場所となる 心地良い日陰で10分ほどの仮眠を取る 多分そこの住職には俺の存在がバレているのだろう それで

      • 悲しい思い出 華餓鬼2

        https://note.com/kudan2022/n/n7fe8dd153698 続編 また憂鬱な季節が不穏な報せと共にきた 都市部で働いていた娘の交際相手の奥様からの内容証明 「彼は奥さんと別れてくれるって言ってたんだ。奥さんが妊娠出来ないから妊娠した私と結婚したいって」 下腹部を撫でながら娘らしき生き物が微笑む 「そんなのは遊び慣れした男の常套句じゃ無いか」 別れた妻も同じ様な男に引っ掛かり、俺と離婚した 「まさかお前まで母さんと同じ事をするなんて。相手の奥さんの連

        • 心霊愛人(ゴーストハーレム)

          台湾は占いが浸透している占い大国でもあるの 占いは日本でも盛んでも台湾ではそれが自分の人生にまで関わるの 占いなんて軽いイメージに捉えられるけど占い師にと通っては天機(天の神秘)に触れるという行為になる つまりは秘密をばらしすぎてバチが当たるとも言われるの ある意味命がけね だから占ってもらった者は謝礼として赤い封筒に謝礼を入れて渡すんですって それで占い師の寿命を伸ばすという願いも込めるの それくらい台湾の人にとっては占いは神聖なものであり、天命ともいうわね その占いの中に

        藤鬼様

          桜が怖い

          ちょうどこんな季節でした 春といえど肌寒い夜 カップの熱燗を片手に夜桜を眺めていた俺に男が話しかけていた 同じく熱燗のカップを片手にコンビニおでんを持っていた 軽く乾杯し、一口含む 少し高めの温度の酒が喉を通るとカッと熱くなる そこに男から貰ったおでんの大根を含む 同じく熱い大根が胃に染み込む 「見事に咲きましたね」 満開の桜を眺める 電灯に照らされて白く浮かび上がる桜 昼間の青空の下で薄いピンクの明るく爽やかなイメージと違い、幽鬼の様な微かな雰囲気を出す 「まあ、桜目当てで

          桜が怖い

          つくし狩り

          今年も沢山奴らが生えてきた  さあ武器を取れ 戦いの火蓋は切って落とされた 「おーお今年も凄いな」 毎年見かける光景 河川敷で 近所の畑や田んぼの近くで おばちゃんたちがこちらに背を向け無心に採取する 「全部刈り取る気なんだろうな」 季節を告げる味覚 つくしの群生 毎年どうやって生えて来るのか分からない というか興味もない この時期になると大量のつくしを採取した母によるつくし料理 というか主に味噌汁と卵とじ 両親はうまそうに食っているが俺は苦手だ というかむしろ嫌いだ 苦い

          つくし狩り

          夜間警備20

          「搏田さんが好きです」 あの時の自分はおかしかった 自覚はしている 何をとち狂ったのか潮来君に嫉妬してしまった 搏田さんの噂は聞いていた あのお化けマジシャン物部先輩と一緒に夜間警備をしていると 学生時代から貴重な美術品を手を使わずに動かしたりして悪ふざけをしていて 学芸員になってもそのふざける癖が変わらなくてクビになった その後博物館への未練からか警備員に再就職していた まあ美術品への愛着はあったのだろうから同情の余地はある あの悪ふざけは相変わらずで、そのせいで先輩と組み

          夜間警備20

          夜間警備19

          あのキューピッド事件から2週間 あの場所に居た全員に幻覚や眩暈、嘔吐まで出た 唯一症状の軽い潮来君が救急車を呼び、全員検査を受けた結果は 悪質なカビの胞子によるもの レンタルしていたバレンティヌスの絵画の保存方法が悪かったそうで 絵画や周りの展示物は破棄出来る物は密封容器に入れ、廃棄され 博物館は消毒と安全性の確定の為で2週間閉館となった 「重症者や死亡者が出なくて良かった」 とは先輩は言うものの 経営者側としては大打撃だろう 得られた筈の収入もだが、スタッフの治療費 更にカ

          夜間警備19

          呪物を捨てようとした拝み屋

          拝み屋の付き添いの人から聞いた話 拝み屋の師匠であるご隠居が現役の拝み屋をしていた頃の話 本業の按摩のご隠居へ客がある物を持ってきた 付き添いの人曰く木彫りの人形の様な物で 「お前は触るなよ」 とご隠居に言われ、ご隠居が先ず触った 「これは仏さん(仏像)か?悪い風(呪い)が溜まってるぞ」 それをそのまま拝み屋に渡して拝み屋は匂いを嗅いでいた 「恥ずかしながらうちのもんが厄介な拝み屋(霊能者)に引っかかって」 霊が取り憑いているとこの仏像を押し付けられたという 「しかも供養代と

          呪物を捨てようとした拝み屋

          魔女の蕩けるスープ

          私は愛に生きる魔女 愛のために生きていたい だからあなたを全身全霊で愛する 代わりにあなたも全身全霊を持って私を愛して 俺の婚約者は変わった女だ プロポーズは彼女から 見た目は美人で俺のようなゴリラに近い面相の男のどこに惚れたのか 「美女と野獣」 と揶揄された 「何であんたみたいな美人が俺みたいな不細工を?」 いつも疑問に思っていた 「あなたの顔もだけど心の色が綺麗だから」 俺の濃い胸毛を撫でる 「逞しいこの胸も大好きだけどあなたの身も心も…魂すら美

          魔女の蕩けるスープ

          夜間警備18

          2月14日 僕にとってクリスマスより嫌いな行事がある日だ 「ねえねえ。今年は袋はどれくらいが良い?」 姉と妹達が嬉しそうに袋を用意する 奴等の目的は勿論 「社会人ともなるとチョコも豪華になって良いよねー」 「本当にイケメンのお兄様様様よ!」 「あのさあ!ホワイトデーのお返しいくらかかると思ってんだよ!お前達が金払ってくれんの?」 能天気な姉と妹達を睨み付けると 「えー?あんたがもらってるんだからあんたがお返ししなさいよ」 「そうだよ皆お兄ちゃんが好きなんだから」 「ふざけるな

          夜間警備18

          おばあちゃんの饅頭

          「おばあちゃんねえ。あんた達が美味しいっていってくれるのが一番嬉しいんだ。だからあんたが美味しいって言ってくれないとおばあちゃん死んでも死にきれないよ」 子供の頃から好きな冬のおやつ おばあちゃんが作ってくれた熱々の特製饅頭 おばあちゃんオリジナルの酵母種で作られた生地はいつもふっくらで 中にいれる餡は鶏ガラを煮込んで味付けをした煮こごりに鶏ミンチとその日の野菜や漬物等好きなものを詰めていた そして蒸し器に入れて蒸し上がった物を熱々のうちに頬張る ふっくらとした少し甘味のあ

          おばあちゃんの饅頭

          恋する香り

          香水 入浴の習慣の無い西洋人が身に付けたのが始まり 日本でも香を焚き、着物に香りを移していた 現在では異性を惹き付けるものとしても利用される 私は生まれつき匂いに敏感だ 常人の倍以上は鼻が利く だがそれは不快な匂いも常人よりも敏感で 時に吐き気を催すものに私は恋すら出来なかった そんな私も恋をした 相手はいつも良い香りの香水を漂わせる 穏やかな声で話し掛け、笑いかけてくれる あの人が付けると普段は不快に感じるその人工の香りすらかぐわしい その香りに惹か

          恋する香り

          早春訃(そうしゅんふ)

          私達に 俺達に 春は早すぎました 櫻子の話 私の父は炭鉱のボタ拾いから一気にのしあがったいわゆる成金と言うものです 私が産まれた頃には今太閤等と呼ばれておりました 読み書きの出来ない父は私の名付けをお寺のご住職に依頼し、丁度桜が咲いていたので櫻子と付けられました 父が私の名前に特にこだわり、いずれは華族に嫁ぐものに相応しい物をと願いの込められたこの名前はおおよそ私に相応しくないものでございました 私の顔は父に似て、およそ桜とは思えないおかめ顔 陰でこそこそと

          早春訃(そうしゅんふ)

          夜間警備17

          親から子へ受け継がれる遺伝子と言うものは肉体や病気等の情報伝達手段である 肉体の構造から病気まで 私が背が低いのも 胸が小さいのも 癖っ毛なのも 足が短いのも全部遺伝子だ そしてネチネチと愚痴を飛ばしてしまうのも… 「それはお前の性格であって遺伝じゃねえ」 「明日からまた新しい展示が始まる」 「葛飾北斎…東京人ですね」 「分かりきった事をドヤ顔で言うな。有名な浮世絵師だろうが」 特別展示室に行くとどこかで見たような大波やらお化け… 「初仕事の日にいた幽

          夜間警備17

          神様に呪いを頼まれた話(実話怪談)

          私が住んでいる場所は水神(竜神)信仰がある 日照りは数十年に1度あるかないかだが水害は毎年あっている 降水量が多いため簡単に川が氾濫し、田畑も水で作物がしおれる事もある こういった自然災害に対応するため我々の祖先は神を祀り、水神の怒りを鎮めた 水神は気性が荒いので祀っていても気を付けないといけない 私の生まれ故郷の産土神社も水神が祀られている 気性が激しいのと、森の中の神社のため、不審者も出没したため、1人では立ち入りは禁止されている また水神が住むと言われる井戸も大切にされ

          神様に呪いを頼まれた話(実話怪談)