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岡山怪談会第2話 願いを叶えた神様

こちらは岡山で7月14日に行われた
ぼっけえ岡山怪談会
〜怪を語りて鬼来たる〜
で配布した小冊子と同じものです


神様は頼りになるけれど厄介な隣人である
拝み屋が私に行った言葉だがそれにはこう言う話もあったからである

これは知り合いの拝み屋が師匠であるご隠居から聞いた話
ご隠居は弱視であった
私も弱視なので見え方は分かる
弱視が見る世界は磨りガラス越しに見える風景がそのままの視界となっている
そのボヤけた風景の中にはっきりとした人間や動物が見える
時にはボヤけた人体にはっきりとした黒い風のような物が渦巻いている
それはご隠居曰く霊だったり妖怪だったり、呪いだという
たまに神様の姿も見えるが顔は眩しくて見えないとのこと
「この目は神様が奪ったものの代わりに貸してくれたんだ
と昔話をしてくれた
時は昭和初期
丁度戦時中で、徴兵のため召集令状が田舎であったご隠居の村に届くだろうと言う頃だった
その当時のご隠居は視力が良く、身長も当時の人間には珍しく170センチ以上もあり、柔道もしていたため、家族もご隠居が兵士になれば大活躍するだろうと期待していた
勿論ご隠居が住んでいた村の人間も同じで
「お前が戦争に行ったらすぐに終わるかもしれん」
と軽口も叩かれた
しかし当の本人は柔道はしていても人を傷つけるのは嫌いで、とにかく戦争が早く終わるか、行かなくて済む方法は無いかと悩んでいた
そこで、村の近くにあった願いを叶えるという小さな神社のお参りに行っていた
神社といっても規模は小さく、人も入れない小さな木造の社と鳥居があるのみで、常駐する神主も居らず、村の人間が清掃していた
村人が行う願い事は主に豊作や子供の夜泣き封じなど
その願いが成就したので願いが叶う神社と呼ばれていた
そこに毎日通い
「戦争を終わらせるか俺が召集されんようにしてください」
とご隠居はそう願った
そして召集令状が来る前にご隠居は倒れた
原因不明の高熱
ずっと唸り続け、食事も喉を通らず
家族はこのままご隠居が死んでしまうのではと不安になった
高熱は数日続き、熱が下がるとともに御隠居の世界は一変した
目が見えなくなっていた
ぼんやりとした視界の中、のっぺらぼうが喋りかけてくる
目の前のものはかろうじて見えるが、自分のつま先すら見えない
眼科にかかり、弱視と診断されメガネを作っても全く見えなかった
そのせいで召集令状は来たが健康診断で視力の問題を指摘され、徴兵はされなかった
しかし、お国のために戦えなくなったご隠居に村人は愚か、家族まで冷たくなった
神社に通っていた姿を見られていたのだ
神様にお願いして兵士になる役目から逃げた臆病者
そう罵られ非国民と呼ばれた
神社も国に逆らうものとして破壊された
ご隠居は役立たずとして、家族から家を追い出された
そこでご隠居は村を離れ、今拝み屋が住んでいる町に移り住んだ
そこには全盲の按摩で、拝み屋を兼業している人物が居て、その按摩の身の回りの世話(火を扱うもの等除く)をしながら按摩の技術とお祓いや呪い返しの技術を学んだ
その按摩に自分に起きたことを話すと
「神様の中には本当に親切で願いを叶えてくれる人はいる。でも神様って人間と感覚が違うからね。その神様も悪気があった訳じゃあないから恨んだらいかんよ」
言われた
その夜にご隠居はこんな夢を見た
見知らぬ老人と向かい合わせに座っている夢
相手の顔は眩しくて見えなかったが直感であの神社の神様だと知った
「俺、あの土地に住んでたものだけど。ちょっと出かけた隙にあそこの神社が壊されたんだけどなんでやろ?」
神様と思われる人物は年齢不相応の爽やかな声で頭の中に話しかけ、怒るわけでもなく不思議そうにいった
「お前も急に居なくなるし、やっぱあそこも空襲があったん?」
「いや、そこの神様が俺の目を潰したから怒ってるんですよ。非国民だって」
神様を非国民というのかは不明だが、ご隠居は神様らしき人物に今までのことを説明した
「えー?お前が戦争に行きたくないっていうから行かなくて良いようにしたのに酷いね。戦争を止めるのはこんな田舎の神様は出来んよ」
困ったような神様に
「俺も目が見えなくなって不自由はしてます」
同じように困った顔をした
「それはどうしようもないけど、目は貸しちゃる。これで神様とかお化けを見られるようにするから。神様のお使いをしたら良いことあるから」
朝、目が覚めると室内にはっきりとした女性の姿があり、実は目を治してもらったのかと辺りを見渡したが、他のものはいつも通りぼやけていた
ああ、あれがお化けなんだなと理解し、起きてきた按摩に尋ねると
「ああ、お前も神様に厄介事を頼まれたね」
笑いながら按摩は拝み屋の仕事を受け継ぎ、次の世代にも伝えた
「じいさん(ご隠居)が俺を弟子にしたのもこの按摩の恩返しだと言ってた」
ご隠居は視覚障害があった自分を受け入れてくれた近所の人に感謝をしていたとのことで
「受けた恩は絶対忘れるな俺達みたいに目が見えない人間も誰かの助けがないと死んじまう。お上が厄介だと思ってる人間の世話をしてくれるのはありがたい。でも戦争になったらどうなるかわからん。だから手に職を持て。自分で出来ることは自分でしろ」
なので自分でできることを増やし、人から馬鹿にされない行儀を身につけろと厳しく躾けられた

ご隠居は亡くなられたが、ご隠居が作った人脈や神様との繋がりは健在で、拝み屋は今日も元気に仕事をしている

追記
あの願いを叶える神社は今は無くなったが、神様の方は別の場所に引っ越して行った
とご隠居は言っていた

「自称お人好しだから今も願いを叶えているだろうけど、それが逆効果でないと良いな」
とご隠居は言っていた
多分どこかの神社を間借りしているかも知れない
なので神社で不用意に願い事は言わない方が良いのかもしれない
願いの善悪に関わらず、悪意なく曲解し、叶えようとする神様がいるのかもしれない


終わり


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