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同時通訳の実況中継 (1)

去る1月26日、人と未来防災センターで開催された『国際防災・人道支援フォーラム2022』で同時通訳のお仕事をさせていただきました。

小学2年生のとき神戸で震災を経験したものとして、ここで通訳ができることにとても大きな使命を感じます。震災から学ぶべきだとずっと思い続け、今ではひとまわりも若い学生にも神戸通訳ツアーで度々通訳してもらい、次世代への震災教育を細々と続けてきました。

私は通訳準備で資料の読み込みや関連動画の視聴をするのですが、今回も学ぶことがとても多く、例えば避難することの重要性を説いた東京大学特任教授の片田敏孝の東大TV動画(以下動画です)など登壇者の過去のYouTube動画は、涙なしには見れませんでした。

『国際防災・人道支援フォーラム2022』は公開イベントなので、エージェントに特別に許可をいただき、神戸外大で通訳志望の後輩に見学してもらうことにしました。通訳の仕事ぶりを見てもらうだけでなく、震災について知るという意味でも、今日は非常に貴重な1日になったのではないかと思います。

本フォーラムはリアルタイムで日本語、そして私たちの英語同時通訳がYouTubeで配信されました。以下のリンクから、震災に興味のある方には是非とも、少しでも良いのでご視聴いただけますと幸いです。

↑が日本語チャンネルで、↓が英語通訳チャンネルです。

2つのYouTube動画を別々のタブで開いて同時再生すると、日英語両方が同時視聴できますので、同時通訳をしているタイミングなども確認できるかと思います。

そして、自分の同時通訳を振り返り、『同時通訳の実況中継』という企画で以下の動画を撮影しました。同時通訳者が自分の同時通訳を分析するという、YouTubeにはあまり見られない試みかと思います。

この動画で解説はしたのですが、同時通訳の方法については口頭では伝わりにくい箇所もあったかと思いますので、ここで文字化して補おうと思います。

動画の20:00ごろから同時通訳で伝えたい3つのことのうち、二つ目の「前から訳す技術」について、so that とto不定詞の違いについて話しています。日本語例文は「気象庁が避難情報を出して、住民を避難させる」というものでした。

この一文を前半と後半に分けると、前半が気象庁 (ここではJMAと略)が主語、後半は住民が主語となります。そこでso thatを使って同時通訳しようとすれば、JMA issues evacuation information so that residents can evacuate.というふうになるかと思います。日本語で話されている順番通りに英語でも表現できるので、語順的に無理なく処理できるようになります。

一方でこれをto不定詞で表現することもできます。JMA issues evacuation information to let residents evacuate.などと表現できるでしょう。ですがここでso that構文と異なるのは、to 不定詞だと主語の設定に制約が生じるということです。toの後に続く動詞(この場合はlet)を少し考えないといけないですし、このコンマ何秒という一瞬の違いが、同時通訳を続けられるかを決めるので、なかなか侮れません。

もちろん to不定詞でも解決策がないわけではありません。to不定詞の前にfor を入れて意味上の主語を使えば、主語が前半と後半で変わっても対処できます。つまり英訳では JMA issues evacuation information for residents to evacuate.という形になります。このように高校までの英文法を見直すだけでも、同時通訳を無理なく進めるためのヒントは意外と転がっているものですね。意味上の主語について理解が怪しい方は、以下の動画を参考にしてみてください。

これからも同時通訳の実況中継は続けたいと思っています。同時通訳を訓練する人は母数が少ないとは思いますが、それゆえに教材も少ない印象があります。ましてや実際の仕事で出てきた音声を同時通訳者自身が(うまく行った点もいかなかった点も含めて)解説する動画というのは、ビジネス通訳では機密保持の観点からほとんど皆無であるように思います。また公開イベントの通訳でYouTube配信されるような案件があれば、少しでも学習者の方に役立つコンテンツをお送りできればと思っています。

サムネイル画像出典:


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