通訳者はなぜ英語でinterpreterなのか

interpreterの語源

通訳者という言葉は英語でinterpreterと言います。これは続・英単語の語源図鑑(清水健二・すずきひろし著)によると、inter (間に) + pret (取引する) = 間に入って取引するという意味から「通訳する、解釈する」という意味になりました。

ここで注目したいのは、interpretが通訳するだけでなく、解釈するという意味も持ち合わせていることです。解釈という意味で使うときは文脈が分かりやすく、interpretation of the Constitution of Japan というと日本国憲法の解釈となります。

通訳の本質は理解

会議通訳をしていてよく感じることの一つに、通訳者は自分が理解(=解釈)できないことは通訳できない、というのがあります。通訳者をはたから見ているとなんともスラスラ訳していそうに見えるのですが、通訳者の頭の中では発話内容を解釈するために、非常に複雑な情報処理が起こっています。

逆に言えば、通訳者が通訳できないとき、もしくは通訳に自信が持てないとき、そこに理解が伴っていないということがあります。少なくとも私の経験ではそうです。

理解することが通訳につながる。つまり通訳の本質は理解なのです。interpretという言葉の意味は、元々そのように意図されたのではないかもしれませんが、通訳という行為の本質をよく捉えたものだと言えます。通訳者のパイオニアである小松達也先生は、このことを大分前に指摘されています。

毎回の仕事で難なく理解することができれば通訳も問題ないのですが、そんな簡単なことではありません。なぜ簡単ではないのか?フリーランス通訳者を例に説明してみたいと思います。

フリーランス通訳者は何を考えるのか?

フリーランス通訳者になると、毎回異なる会社や組織で通訳します。そこでは通訳者のみが内部情報を知らず、特に専門知識もない状態で通訳に臨みます。当然のことながら、話の内容を理解できないことは多々あります。自分だけが素人なのですから。

そういう毎日が続くと通訳者はどう感じるのか?少なくとも僕は、という前提付きですが、何かを理解することに飢えるのです。人の話を理解したい。単語を別言語に置き換えるだけでは満足せず、「それって要はどういう意味なの?」という本質的な理解を欲するようになります。仕事では意味を十分に理解できないまま言葉を訳してしまっていることも多いので、少しでも自分の中で深く理解できるような何かを求めるのです。

私の場合、理解したい気持ちが読書や勉強に向かいました。そこで色々な分野の本を読み、その分野の体系的な理解をするようにしています。2013年から諸分野を体系的に理解するために各種検定試験を受け始め、今では40個以上の検定試験・資格試験に合格しました。

もちろん、合格したから通訳者として年収が上がるといったことは全くありません。会社でTOEIC900点取ったから報酬金10万円、といったことも全くありません。全ては本質を理解するためにやっています。

最近は中国語のHSK2級を最後に、検定試験はほとんど受けていません。しかし高校の化学基礎だったり、クラシック音楽の歴史だったり、病理学だったりと、検定を受けずとも色々な本に手を出しています。

もちろん専門外の本なので理解するまでに時間がかかります。特に書いてあることの論理が理解できないと先に進めず、読了するまでに時間がかかることもしばしばです。

ですが文字と格闘した結果、何か理解できた時の喜びは大きく、脳内でドーパミンが分泌されているような快感を覚えます。それはTOEICに出てくる無味乾燥な英文を速読する時の読み方とは異なり、自分の血となり肉となる理解です。

また以前の記事で述べた通り、学生時代より今の方が理解力が増しているので、条件はむしろ良いのです。高校の時挫折したあの科目も、やり直してみると意外と理解できる。そんな経験は通訳者でなくてもあるのではないでしょうか?

今度通訳者が訳しているところを見ることがありましたら、「ああ、今通訳者は発話を理解しようとして脳内フル回転しているんだろうな」と温かく見守っていただければ嬉しいです。


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