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春を待ちながら

それでも暮らしは続いていく。


マイナンバーカードの暗証番号を間違えて、ロックされてしまった。しかもこれで2回目だ。こういうときに使用する4桁の数字なんて自分の中では数パターンしかないのに、前回の僕は気まぐれにセキュリティ精神を発揮していつもと違う数字を設定していたらしい。ある意味ではその効果を実証できたわけだが、締め出されるのが自分自身になるとは。暗証番号なんて、マイナンバーよりもマイナンバーなはずじゃないか。未来の自分は思ったよりも信頼できないのだと肝に銘じて、また区役所に行かなければならない。


仕事をするときの体勢がすこぶる悪い。デスクチェアの上であぐらをかいたり、正座してみたり、デスノートのLのように膝を立てたりもする。そんなだから頻繁に足が痺れてしまうのだけれど、つい最近足が痺れかけの状態で歩いたら、突然感覚がなくなって足首を捻った。サッカー選手のシミュレーションのように足を抱えて倒れ込みながら、色々なことが走馬灯のように頭を巡る。数日後に控えた予定のこととか。鬼ごっこで転んで剥離骨折した小学三年生のころの記憶とか。中学一年生のときに松葉杖の僕をおぶって階段を駆け降りてくれた通りすがりの数学教師のこととか。一度松葉杖を経験しているから扱いが上手くて、リハビリの先生に「運動神経いいですね!」と言われたものの運動神経が悪いから怪我してるんだよって言いたかったこととか。痺れが治って怪我していないことを確認した後も、僕はしばらく天井を見上げていた。


歩道の脇にはまだ雪が高く積まれていて、誰かが指で刻んだ文字とか絵とかがそこかしこにある。大体がハートとかスマイルとか、誰かへのメッセージとか、たまに下品なものも。家から駅までの道中で、雪に雪だるまの絵が刻まれているのを見つけた。これだけ雪があれば3Dで作れるものをあえて2Dにするのは、意外とやっている人がいない。果たしてセンスか。あるいは最近よく聞く「タイパ」なるものがこんなところにまで波及しているのか。


数年前まで「どこへ行こう」「どこにも行けない」という歌詞を多用して迷いに迷っていた米津玄師氏が、今ではハッピーで埋め尽くしてレストインピースまで行くらしい。どんな才能人でも悩みを抱えるし、その悩みは一生続かないものだと教えてくれている。ちなみに最近の僕は顔に現れたできものに悩んでいたのだけれど、「病院へ行こう」「病院に行けない」を繰り返しているうちに小さくなっていた。レストインピース、出来物。

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