娘の手の先
【父親妄想日記】
娘のほっぺたを手のひらで撫でながら、娘の顔を眺めていた。
娘が僕を見つめ返してくれた。
愛しい娘と見つめ合える至福の時間が流れた。
そして娘が不意に僕の顔に手を伸ばした。
おお、娘よ。パパのほっぺたを撫でてくれるのかい?
幸福感に満ちて娘の手が僕のほっぺたに触れるのを心待ちにした。
…が予想とは裏腹に娘の手は僕のほっぺたよりも下に着地した。
…アゴだ。
それも中々の強さで顎を掴み、引っ張りだした。
…完全にアゴをもぎとろうとしている。
確かに僕のアゴはしゃくれている。
昔お笑いライブのアンケートで、各コンビがネタの感想を書かれる中、僕のコンビの欄には一言だけ、
「しゃくれ。」
と書かれた事があるくらいだ。
娘は容赦なく僕のコンプレックスである顎をもぎとろうとしてくる。
将来、こんなアゴになってたまるかという意思表示なのだろうか?
はたまた僕の尖ったアゴをなにかの鈍器だと思っているのか?
それとも僕の曲がったアゴをブーメランと勘違いして、父親ごと投げ飛ばそうというのか?
父が様々な思惑を巡らせている中、娘に目をやると娘はすやすやと寝ていた。
…なにで落ち着いてんねん。