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それってパクリじゃないですか?第9話

それってパクリじゃないですか?』の第9話が放送されましたので、このnoteでも取り上げたいと思います。

 今回のお話は、月夜野ドリンクが「カメレオンティー」のPRに利用したキャラクター「月夜ウサギ」について、hanamoさんという人物がSNSで、自身の作成したイラストがもともとのキャンペーンとは別のものに無断で転用されている、という投稿をしているというところから話が始まりました。こういう投稿がバズるあたり、ほんと令和ですね。

 さて、他人が著作権を有する著作物を利用するには、基本的に、その著作権の譲渡を受けるか利用許諾(ライセンス)を得ることが必要になります。
 作中でも説明されていたように、利用許諾の場合、「月夜ウサギ」の著作権自体はhanamoさんに帰属し続け、月夜野が許諾内容に従って著作物を利用できるということになりますが、他方、hanamoさんが月夜野に著作権を譲渡していた場合には月夜野ドリンクが著作権者になる、ということになります。
 今回、月夜野としては、hanamoさんとの契約に基づき、「カメレオンティー」のPRに関しても利用許諾がある、という立場でした。

 なお、「著作権」とまとめて言及することが多いですが、「著作権」というのは、実は様々な権利の集合であり、たとえば、著作物を複製する権利や、譲渡する権利だったり変更する権利などいくつかの権利(支分権)が含まれています。このうち、翻案、変更や翻訳等を内容とする「翻案権等」の権利については、単に契約書で「著作権を譲渡する」と規定したとしても、他の権利とは異なり、当然に譲渡されることにはなりません。翻案権等も含めて譲り受けるためには、譲渡の対象を「著作権(著作権法27条28条の権利を含む)」と明記することで、契約書に特掲しておかないと、譲渡されていないと推定されてしまうので、ご注意ください。

第27条(翻訳権、翻案権等) 
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利) 
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

第61条(著作権の譲渡)
1
 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

著作権法

 今回は利用許諾契約の中で、改変も可能と定めていた上に、用途も一つに限られないようにしていたので、hanamoさんの主張は、契約書の誤読に基づく言いがかり、ということになり、亜季の説得と「むつくん」のイラストにより、事なきを得ました。やはり、特に重要なことは契約書にしっかりと明記しておくことが重要であることわかるいい例であったと思います。

 なお、著作者には、複製権や翻案権のような「著作財産権」のほかに、「著作者人格権」という権利があります。これは著作者に「専属的」な「人格的」な権利であり、他人に譲渡することはできないものとされています(著作権法第59条)。

第59条(著作者人格権の一身専属性)
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない

著作権法

 それぞれ例外はあるものの、具体的には、世の中に未公表の著作物を公開する「公表権」、著作物の著作者であることを表示する(あるいは表示しないこととする)「氏名表示権」、そして、改変等の行為を禁止する「同一性保持権」というものがあります。
 そのため、著作権(翻案権等を)を他人に利用を許諾し、あるいは譲渡していても、著作物が改変された場合、著作者は、「同一性保持権」に基づいて、その著作物に対する改変等を差し止めるといった権利行使を行うことができます(前述のように著作者人格権は譲渡することはできません)。
 このような問題に対処するため、実務上は、著作財産権の譲受人に対して著作者人格権を行使しないという条項を契約書の中に設けておくことが一般的となっています。

 今回は、亜季の説得の結果、hanamoさんは、SNSで自身の契約書の理解が誤っていたことを認め、さらに「カメレオンティー」の宣伝までしてくれました。

 その一方で、北脇には一本の電話があり、なんと、カメレオンティーがハッピースマイル社の特許権を侵害するという警告状を受け取ったようです。
 第6話で、北脇は、カメレオンティーに使われる技術をノウハウとして営業秘密にすると判断して特許出願をしないということにしていました(詳細は、第6話の記事をご覧ください)。

 自社が開発していた技術について、他社がその後に特許権を取得した場合、もし、公然と実施していたのであれば、公知となっているので新規性の欠如(特許法第29条第1項)による無効を主張することができますが、今回のようにあくまで社内で開発で開発し、事業化に向けて準備していたに過ぎない場合、新規性の欠如を主張するのは難しいことになります。(今回は営業「秘密」にしていたので、なおさらです。)
 また、北脇は、営業秘密とするにあたり、先行技術文献をくまなく調査し、特に先行技術はないという確証を得ていたようであり、仮にハッピースマイルビバレッジから特許侵害訴訟を起こされても、公知文献等に基づく無効主張は難しいような状況でした。

 このような状況では、私どもの第一感としては、作中でも挙げられていた、先使用権を主張する、ということがまず思いつきます。今回も、(事実次第ではありますが、)先使用権(抗弁)を主張することで、権利侵害となることを免れる余地があるとは思われます。

第79条(先使用による通常実施権)
 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

特許法における先使用権の規定

 先使用権は、他者の特許出願がされるまでの間、発明を実施し、あるいはその準備をしていたのに、当該出願があったことにより、実施できないことになり、投下資本が無駄になってしまうという不公平・不経済となってしまうことを防止するために無償で通常実施権を付与する規定です。
 そこで、それだけ保護に値する状態であったといえるために、出願時点で、発明は完成していなければなりませんし、かつ当該発明を即時に実施する意図があり、かつその意図が客観的に認識される程度に表明されていなければならないと考えられています。

 この先使用の要件を満たすことを立証するのは、実は、そこまで容易なものではありません。というのも、先使用を主張する場合には、問題となる特許の出願時点で実施をしているか、実施の準備をしている必要があります。製品開発、製品の仕様書や設計図の作成、サンプルの作成、製品の事業化の決定、製造ラインの確保等、事業化には様々なステップがあると思われますが、それぞれの資料がどのように結びついているのか、どの製品に関する資料なのかといった、いわゆる「紐づけ」が十分でないことが多く、断片化した資料からでは、どの製品の実施の準備をしているのかが客観的に分からない、ということが多々あります。
 さらに言えば、パラメータ発明(たとえば、この化合物が何パーセント含まれている、水分が何パーセント含まれている、といった、含有量等を数値で限定している発明)の場合、さらに先使用の主張が難しくなる可能性があります。
 というのも、「先使用権を有するといえるためには,サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明…と同じ内容の発明でなければならない」と判断した裁判例(知財高判平成30年4月4日[平成29年(ネ)第10090号)「ピタバスタチンカルシウム医薬」事件)などがあるため、そのような発明に関しては、一般に、先使用を主張する製品を製造するにあたり、その特許が定める「数値範囲内」に収めるという技術的思想を持っていた、つまり、数値範囲内となるように「管理」していたことを立証してはじめて先使用権が認められる、とも考えられており、たまたま先使用を主張する製品が特許のパラメータの範囲内にあったとしても、それだけでは先使用が認められないリスクがあるためです。

 話を本第9話に戻しますと、今回、亜季の様子からは、この件が問題となった後に、実施の準備をしていたことについて、証拠集めをしていたようでした。しかし、本来的には、ノウハウとして営業秘密にすることを決定した時点で、諸資料について紐づけをしてから公証を受けるなどし、「ある時点で、実施の準備をしていた」ことを立証できる資料を記録化しておくのが好ましいといえます。

 細かいところですが、1点気になったのは、ハッピスマイルビバレッジは「スーパー早期審査」で色の変わるお茶の発明を権利化したということですが、本件はスーパー早期審査の要件を満たさないのではないか、という点です。
 通常、特許を出願した場合、3年以内に審査請求というものを行って、その出願が特許になるものかどうかを審査官に審査してもらいます。ざっくりと言うと、この審査の待ち時間、約10か月くらいです。そこから、もし拒絶理由があれば、拒絶理由通知がなされ、第5話の甘酒のケースのように、出願人が拒絶理由の解消に向けて意見書(および補正書)を提出して対応していくわけです。
 スーパー早期審査というのは、この待ち時間を短縮する制度で、平均審査順番待ち期間は、「1か月以下」になっています。スーパー早期審査にするためには、いくつかの要件があるのですが、基本的に、①その発明に関する製品を作る予定があって(「実施関連出願」)、外国にも特許出願している(「外国関連出願」)か、②ベンチャー企業による出願であってその発明に関する製品を作る予定がある(「実施関連出願」)ことが必要です(説明のために端折っていますので、正確には特許庁WEBサイトのこちらをご確認ください。)。
 今回、ハッピースマイルビバレッジは、大手であり、ベンチャー企業ではないと思います。ですので、さきほどの①の方のルートでスーパー早期としているのだと思います。外国出願は、出願さえすればよいので、簡単です。最悪、日本語のまま台湾などにパリ優で出願だけすれば良いため、費用も低額で、そこまで難しくありません。問題は、実施関連出願の要件であり、ハッピースマイルビバレッジは月夜野とのミーティングの席上、このお茶は作らない、この発明のおかげで月夜野を邪魔することができてよかった、というような発言をしていました。したがって、その発明に関する製品を作る予定はないものと思います。というわけで、実は、スーパー早期審査の要件を満たさないのではないか、とも思われます。(この要件の審査は厳しくないですし、仮に嘘をついたからと言って無効理由を構成するわけでもなく、その意味では非常に些末な問題ではありますが…。)

 例によって、特許権者のハッピースマイルは、月夜野の事業を潰すために特許出願をした、これが特許の使い方だ、などと話しますが、これには、熊井部長も怒り心頭で、お得意の「なるほど」もどこ吹く風、訴訟も上等!と啖呵を切っていました。
 そのさなか、五木さんの交際相手と思われる人物(秋元真夏さん演じる人物)が、ハッピースマイルビバレッジの社員であり、カメレオンティー特許の発明者である「篠山瑞生」という名前であることに亜季は気づいたようです。第1話でも問題になった冒認出願の匂いがします!(第1話のコラムはこちら

 最後のシーンで、ゆみが「ふてぶてリリィ」の商標が取れたシーンがあり、本当に良かったと思います。
 さて、早いもので、次回はいよいよ最終回です。予告では法廷のシーンも出てきていたことから、侵害訴訟について、口頭弁論まで行われるのでしょうか!!
 いよいよ物語はクライマックスを迎えるので、今から非常に楽しみです。

文責:鈴木佑一郎山田康太

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